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TCFDとは何か? 気候変動への注目の高まりや今後の展望について解説 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【3】

TCFDとは何か? 気候変動への注目の高まりや今後の展望について解説 金融・経済から見えるSDGsのトレンド【3】
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大和総研/藤野大輝

art_00280_著者_大和総研・藤野大輝氏
藤野大輝(ふじの・だいき)
株式会社大和総研 金融調査部 研究員。2017年大和総研入社。2018年より金融調査部制度調査課で開示・会計制度などについて調査、2019年4月よりSDGsコンサルティング室を兼任し、SDGs・ESGに関する制度なども担当。著書に『ESG情報開示の実践ガイドブック』(2022年、中央経済社)など。

TCFDが企業の気候変動情報の開示を促す

近年、「TCFD」という名前を耳にすることが増えてきている。世界的にサステナビリティに対する関心が高まっている中、このTCFDを理解しておくことは非常に重要であろう。

TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とは、企業が気候変動に関する情報を比較可能な形で投資家に向けて開示するための基準を提供する機関のことである。

TCFDが設立された背景には、環境問題の中でも特に緊急性の高いものとされている気候変動リスクが金融システムに大きな影響を与えることに対する金融当局の警戒がある。

図表1 TCFDに関する経緯

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(出所)TCFDより大和総研作成

経緯としては、2015年5月、G20の財務大臣、中央銀行総裁が、主要国の中央銀行などで構成される国際的な金融システムの安定を図る組織である「金融安定理事会(FSB)」に気候変動への対応に関する検討を要請したことに端を発する(図表1)。これを受けたFSBでの検討の結果、気候変動に関する情報を開示することの重要性が確認された。そして2015年12月、FSBがTCFDを設立した。

TCFDはブルームバーグ社の創業者であるマイケル・ブルームバーグ氏を委員長とし、各国の大手銀行、保険会社、アセット・マネジャー、年金基金、大手非金融会社、会計・コンサルティング会社、信用格付け機関、取引所など様々な組織から成る30人以上のメンバーで構成された。

TCFD内で気候変動情報を開示するための基準に関する議論が行われ、2017年6月に開示を行う上での基準となる最終報告書を含むTCFD提言が公表された。このTCFD提言に基づいて、世界各国の企業は気候変動に関する情報の開示を進めている。

気候変動に関するリスクとは

先述の通り、TCFD提言は企業が気候変動に関するリスク情報を投資家に向けて開示するための基準である。ここでいう企業の気候変動リスクは、「物理的リスク」と「移行リスク」の二つに大きく分けられる(図表2)。

図表2 気候変動に関する様々なリスク

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(出所)TCFDより大和総研作成

物理的リスクとは 、企業が気候変動によって直接的な影響を受けるリスクのことである。

物理的リスクに該当するものの一つとして、台風や集中豪雨といったような突発的な異常気象によって原材料などの調達や工場での生産活動が行えなくなる「急性リスク」が挙げられる。また、気候パターンの変化や海面上昇といった長期的な気候変動によって企業の事業活動に影響が及ぼされる「慢性リスク」も物理的リスクに該当する。

一方、移行リスクとは、社会全体が気候変動への対応を進めていく上で想定されるリスクのことである。

例えば、脱炭素を促すような技術革新が起こった際に、新技術への移行が遅れるリスクといった「テクノロジーリスク」、厳しいカーボンプライシングが導入されるリスクといった「政策・法規制リスク」が挙げられる。ほかにも、気候関連リスクが考慮されることで特定の製品・サービスの需要・供給に変化が生じる「市場リスク」や気候変動に取り組まない企業の評価に悪影響が及ぼされる「評判リスク」などが該当する。

こうした物理的リスク、移行リスクが顕在化すると、企業の経済活動に悪影響が生じ、その影響は金融機関のポートフォリオやバランスシートへの影響を通じて金融市場、金融システムにも波及し得る。TCFDは、企業がTCFD提言に基づいて自社の気候変動リスクと対応策などについて具体的な開示を行っていくことで、将来の気候変動に対する金融市場、金融システムの安定性を確保することを意図している。

TCFD提言で企業が開示を求められる内容

TCFD提言では企業の気候変動に関する情報を開示することが求められると説明したが、具体的に開示が求められている内容は図表3の通りである。大きく分けて気候変動に関する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の開示が求められる。

まず、ガバナンスについて、気候変動に関するリスク・機会に対して、企業の取締役会がどのように監督を行ったのか、リスク・機会を評価・管理する経営者の役割はどのようになっているのかといった内容を開示する。

戦略については、企業の気候変動に関するリスク・機会や、そのリスクが企業の事業、戦略、財務計画に与える影響について開示する。また、地球温暖化がどの程度進むのかによって異なるシナリオを設けた上で、各シナリオでのリスクや影響を想定し、そのリスクへの対応策や、対応策を講じた場合の経営戦略のレジリエンス(耐久性)を開示することも求められる。

リスク管理については、企業の気候変動に関するリスクを特定、評価、管理するためのプロセスや、そのプロセスを企業全体のリスク管理にどのように統合するかについて開示することとされている。

最後に指標と目標について、企業の気候変動に関するリスク・機会の影響などについてモニタリングするために用いられる指標や目標を開示する。加えて、温室効果ガス(GHG)の排出量についての開示も求められている。

これらの各項目について、企業は対応が可能な部分から順に着実に開示を行っていくことが期待されている。投資家は開示された情報に基づいて、気候変動リスクを踏まえた投資判断を行うことが可能となる。

図表3 TCFD提言で開示を求められる内容

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(出所)TCFD(2021)”Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures”より大和総研作成

TCFD提言に基づく開示の広がりと今後の展望

TCFD提言に基づいた気候変動情報の開示は着実に進んでいる。特にわが国では、TCFDの気候変動に関する情報開示を積極的に進めていくという趣旨に賛同する企業・機関の数が2022年2月末時点で730(世界全体では3076、出所はTCFD)と、世界で最も多くなっている。

TCFD提言の活用が進む背景として、投資家からの要請に加え、国からの求めが挙げられる。

例えばわが国では、環境省や経済産業省がTCFD提言への対応に関するガイダンスやガイドラインを公表している。それに加えて、2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、東京証券取引所のプライム市場上場会社に対してTCFD提言に基づく気候変動情報の開示を進めることが求められた。

また、足元では金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループで、気候変動を含むサステナビリティ情報の開示を有価証券報告書で行うことについて議論されており、TCFD提言を参考とした開示を行うことが検討されている。

海外でも、こうした規制などによってTCFD提言に基づいた開示が求められている。

例えば英国、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドではTCFD提言に沿った気候変動情報の開示が義務化、もしくは推奨されている。また、米国ではTCFD提言を参考に、気候変動情報の開示規制を新たに設けることが検討されている。

ただし、こうしたTCFD提言の活用の拡大の一方で、サステナビリティ情報を開示するための新たな統一的かつ国際的な基準の策定が進められている。

国際的な会計基準であるIFRSの策定に関わるIFRS財団の下で、2021年11月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が設立された。ISSBにおいて、TCFD提言をベースに新たな情報開示基準の策定が行われる予定となっている。

このISSBの基準が策定された場合、将来的にはTCFD提言からISSBの基準への移行が企業に対して求められるかもしれない。TCFDを設立したFSBも2021年7月に気候関連の金融リスクに対処するためのロードマップを公表しており、その中では将来的にISSBの基準に沿って、国際的に一貫性があり、比較可能で、投資判断に役立つ開示が行われるという目標が示されている。

そのため、現在特に注目が高まっているサステナビリティや気候変動というテーマをウォッチする上では、今回解説したTCFDについての理解を深めるとともに、各国の規制での対応やISSBの基準への移行を含む今後の潮流にも留意する必要があるのではないだろうか。

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