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今だからこそSDGsから平和を考える データで見るSDGs【14】

今だからこそSDGsから平和を考える データで見るSDGs【14】
日本総合研究所シニアスペシャリスト/村上 芽

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村上 芽(むらかみ・めぐむ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。金融機関勤務を経て2003年、日本総研に入社。専門・研究分野はSDGs、企業のESG評価、環境と金融など。サステイナビリティー人材の育成や子どもの参加に力を入れている。『少子化する世界』、『SDGs入門』(共著)、『図解SDGs入門』など著書多数。

SDGs採択後、初めての「戦争」

ロシアによる激しいウクライナ侵攻が続いています。2003~2011年のイラク戦争以来、そして、国連で2015年にSDGsが採択されて以来、初めて起きた「戦争」(国と国が武力で戦うこと)です。戦火で失われる命や信頼関係、生活基盤、自然環境の重みははかり知れません。

2021年2月に始めた本連載では、第3回「誰が気候変動の影響を受けるのか」第11回「バニラから食料危機を考える」で、紛争や、難民・国内避難民が発生するような事態が人間の持続可能な豊かさの実現には非常に大きなマイナス要素になることに触れてきました。

今回は、SDGsがどのように平和を取り上げているのか、あらためて確認しておきたいと思います。

art_00322_本文1(ベビーカーの列)
ウクライナ西部・リビウの市庁舎前に並べられたベビーカーやベビーシート。この日までにウクライナ国内で確認された子どもの犠牲者数と同じ109台で、攻撃停止を訴えた=2022年3月18日(撮影・朝日新聞)

目標16「平和と公正」を測る指標

まず、SDGsを含む国連の採択文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前文を見てみましょう。平和については、「我々は、恐怖及び暴力から自由であり、平和的、公正かつ包摂的な社会を育んでいくことを決意する。平和なくしては持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和もあり得ない」と述べています。

ただ、今日の世界が直面する課題としてパラグラフ14に「紛争」や「人道危機」といった表現はあるものの、戦争という言葉は明記されていません。

SDGsの目標16「平和と公正をすべての人に」に紐(ひも)づけられている指標はどうでしょうか。

「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」などが毎年作成している持続可能な開発報告書(Sustainable Development Report)の2021年版では、目標16に対して11個の指標が掲げられています。指標と出典元の一覧は下表のとおりです。読みやすくするため、報告書のデータベースに出てくる順序を入れ替えています。

表:目標16「平和と公正をすべての人に」の達成度を測る11の指標

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持続可能な開発報告書2021年版から筆者作成

並べてみると、国際機関ではなく民間団体が提供する指標が意外に多いのに気づかされます。また、「司法へのアクセス」や「報道の自由」のように、社会全体の公正さを担保する「取り組み」の状況を示す指標も目立ちます。逆に、結果として平和な状態かどうかを示すような、例えば「死傷者の発生したテロの数」といった指標はありません。

このなかで、兵器に関する唯一の指標があります。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が提供している「主な通常兵器の輸出額(人口10万人当たり)」です。

ここで言う「通常兵器」とは、大量破壊兵器を除く戦車や戦闘機など兵器全般(エンジンなどの部品も含む)を指しています。金額も、製造費や規模などから導かれる軍事能力を独自の指標TIV(Trend Indicator Value)で評価・換算したものがベースになっています。武器の取引価格ではないので、注意してください。

通常兵器、「輸出大国」はどこか

では、どのような国が高額なのかを見てみましょう。

グラフ:通常兵器の輸出額 単位:人口10万人当たり・万ドル(TIV)

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持続可能な開発報告書2021のデータから100万ドルを超す国を抽出して筆者作成

「軍事大国」というと、米国、中国、インド、ロシア、英国といった顔ぶれが浮かびますが、SIPRIの統計に基づくこの指標でみると、トップはイスラエルです。ロシアと米国は2位と4位につけていますが、3位はフランス、次いでオランダ、スイス、そしてブルネイまでが上位に位置しています。

「理想」への距離、遠くていいか

SDSNの報告書2021年版では、すべての指標について、理想との開き(距離)に応じて「青信号」「黄信号」「赤信号」といったレベルが設定されています。

通常兵器の輸出額の理想は「ゼロ」。つまり、輸出がない状態です。これに対し、100万ドルまでが青信号、100万ドル超~250万ドルまでが黄信号に区分けされ、250万ドルを超すと赤信号となります。

上のグラフで言えば、イスラエルからブルネイまでが赤信号、リトアニアからイタリアまでが黄信号の国というわけです。

グラフにはありませんが、日本の通常兵器輸出額は人口10万人当たり2000ドルとなっています。国際的な輸出管理レジーム(通常兵器については「ワッセナー・アレンジメント」)に基づく安全保障貿易管理のもと、条件はあるものの、共同開発などを目的とした輸出はあるのです。ただ、目標16に関する11指標については、すべて「青信号」でした。

もちろん、課題がないわけではありません。数だけ見て海外と比較する限りでは「恵まれているほう」かもしれませんが、自殺者の問題など当事者や社会にとって1件1件が重い内容を含んでおり、解決に向けた努力が求められています。

art_00322_本文4左(キエフの母子)
ウクライナの首都キエフで3月16日、砲撃によるがれきの中を進む人たち=ウクライナ非常事態庁のSNSから
art_00322_本文4右(キスリツァ大使)
国連安全保障理事会の緊急会合で現状を説明するキスリツァ国連大使(UN Photo/Evan Schneider)

平和の構築は、SDGsを実現する大前提です。国連そのものが、第2次世界大戦の反省からできた組織であり、今回の戦争はそのあり方にも影響を及ぼすでしょう。

ふだん何もなければ空気のような「平和」が、何によって構成されどう守られているのか。SDGsという観点からも、深く考えてみることができそうです。

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