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【Jリーグ シャレン!アウォーズ2021】いのちを守るキーパーに アルビレックス新潟

【Jリーグ シャレン!アウォーズ2021】いのちを守るキーパーに アルビレックス新潟
アルビレックス新潟のゴールキーパー3人。左から瀬口拓弥、小島亨介、阿部航斗(アルビレックス新潟提供)
朝日新聞社

地元と一緒に地域課題の解決をはかるJリーグの社会連携活動「シャレン!」。多くの人と特にシェアしたい事例を表彰する「シャレン!アウォーズ」は、今年も5月に発表されます。どんな取り組みが出てくるのか。アルビレックス新潟は、県の自殺防止活動に協力した「守れ、ニイガタのいのち」で、2021年のソーシャルチャレンジャー賞に選ばれました。活動の意義などを、ゴールキーパーである小島亨介(25)、阿部航斗(24)、瀬口拓弥(33)の3選手に語ってもらいました。(朝日新聞スポーツ事業部・恵藤公浩)

サッカーと共通する「声がけ」 いのちを守るキーパーに

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――アルビレックスは「自殺防止」という繊細で難しい社会問題に取り組んでいます。このテーマを最初に聞いたとき、どんな印象を持ちましたか。

瀬口拓弥 難しい課題ですが、クラブとしてどう関わっていけばいいのか。まずは新潟県が抱える問題を知ろうと思いました。

阿部航斗 自殺というワードを聞いてネガティブに感じる部分がありましたが、それが僕たちの活動によって減れば、ポジティブにつながるのではないかと思いました。

小島亨介 新潟に来てから、自殺者が多いと聞いて驚いたことがあります。自分たちの力で少しでも自殺防止につながればと感じました。

――自殺の現状を学んできて、防ぐために大切なことはなんだと思いますか。

小島 人間にはいろいろなタイプがいます。悩んでいることをできるだけ表に出さない人、隠そうとする人もいる。そうした人の悩みに気づいてあげるというのがすごく大事。日ごろから「悩みがあったら言ってね」とか、そうした声かけが大事なんじゃないかと思います。コミュニケーションですね。

――そうした声かけというのはサッカーの中でも意識しますか。

小島 僕は人の態度や姿勢をよく観察するタイプです。仲間が悩んでいる、落ち込んでいると思えば、声かけをするようにしています。サッカーでは周りを見ることがとても大事です。声かけは基本、ポジティブに。その選手が次にまたチャレンジできるよう心がけます。

阿部 僕も仲間のミスに対して怒ったりはしない。ネガティブな声かけをしてもその選手はいい方向には進まない。ほめたり、大丈夫だよと声をかけたり。

瀬口 僕自身ミスも多い選手です。他の選手がミスしたとしても重く受け止めないように気をつけています。

――ゴールを死守するゴールキーパーと、苦しむ人の相談に乗ったりするゲートキーパーの略称はともに「GK」です。類似点はありますか。

瀬口 ゴールキーパーはシュートを止めることだけが仕事ではありません。そもそもシュートを打たせないことが重要です。仲間と連係してピンチをつくらない、自殺やいじめが起こるような状況をつくらない。そんな点が似ているところですね。自殺にはいじめ問題も関係していると思います。いじめを受けた側への対応も大事ですが、いじめをする側にもきちんとアプローチしていくことが大切だと感じています。

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活動について語り合うGKの阿部、瀬口、小島(左から、アルビレックス新潟提供)

――全国のクラブがシャレン活動に力を入れています。このことについて、どのように感じていますか。

小島 プロサッカー選手もスポーツをやる前に一人の人間です。人としての価値、社会的な価値を築くためにも、競技以外の活動はとても大事です。僕自身、大学時代から地域の子どもたち、障害者とのサッカー交流を続けてきました。その中で人を思いやる気持ちが大事だと感じてきました。そうした活動は初心に帰らせてくれる部分もあります。子どもたちや障害者の方たちがサッカーの楽しさを改めて教えてくれます。

阿部 プロサッカー選手は周りから注目されます。いい意味でも悪い意味でも影響力のある存在です。シャレン活動が地域の活性化につながったり、子どもたちにいい影響を与えたりということもあると思います。

瀬口 今はサッカーだけ、スポーツだけやっていればいいという時代ではありません。誰かのために何かをするということをサッカー以外でもやっていきたい。今年の初詣で絵馬に「日本一」と書きました。サッカー以外でも、いろんなことで日本一になれる取り組みをしたいという気持ちです。シャレンについては今後もどんどんやっていきたいです。

人との交流がリスクに? 疑問から始まった活動

そもそも、なぜ「自殺予防」だったのか。

新型コロナウイルスの影響が広がっていた2020年のことだった。アルビレックス新潟のクラブ内で、自殺に関するニュースが話題になったことが「命を守る活動」のきっかけとなった。

「4月の自殺者が前年より減った」と報じられていた。いいことだが、その理由は「コロナで人と人とのリアル交流が減り、人間関係のストレスが軽減したから」だという。人の存在は助けではなくリスクとなる世の中なのか。現状への疑問から、活動が始まった。

新潟県は全国的に自殺者が多い県の一つだ。2021年の自殺者は469人、人口10万人あたりの自殺者数を示す自殺死亡率は、全国でワースト3位。13年連続で1ケタ順位が続いている。

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新潟の村山拓也さん(左)と新潟県いのちとこころの支援室の波田野友巳さん

「地元のサッカークラブとして我々にもできることがあるのではないか」。クラブの社会連携担当の村山拓也さんはすぐに、県福祉保健部の「いのちとこころの支援室」の波田野友巳さんに相談をもちかけた。

波田野さんは「最初は、どのような活動が一緒にできるのか、少し悩みました。ただ地域に根ざしているアルビレックス新潟からの発信は、多くの人に届くかもと期待しました」という。

クラブ側はまず、現状を知ることから始めた。クラブスタッフ、アカデミースタッフがゲートキーパーに関するオンライン研修を受けた。現状を知るとともに、悩んでいる人の存在に気づくこと、声をかけることの大切さを学んだ。

啓発活動にも協力。ボールに食らいつくゴールキーパーの写真とともに「守れ、ニイガタのいのち」と呼びかけるポスターは、多くの人の目をひいた。

クラブは今後も活動を続けていくという。村山さんは「命を大切に、命を守る、という発信は絶やしたくない。我々が県民のコミュニケーションのハブになって、人と人とのつながりを大切にしていこうと伝え続ける」と話した。

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「いのちを守る姿」が県内で注目されたポスター(アルビレックス新潟提供)
〈シャレン!とは〉 地域密着をうたうJリーグでは、各クラブが官民と一体となっておこなう取り組みを「社会連携活動」と呼んでいる。「シャレン!」はその愛称。年に1度、J1、J2、J3の全58クラブ(2022年)が取り組みをエントリーし、サポーターや識者が優秀な活動を選ぶ「シャレン!アウォーズ」が開催されている。2022年は5月10日の予定。各クラブの取り組みは「シャレン!」のホームページで見られる。
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