ダイベストメントとは? ESG投資との関係性や必要な対応を解説

ダイベストメントとは、SDGsなどのサステイナビリティーの実現と逆行する取り組みを行う企業から、資金を引き揚げる動きのことです。ESG投資とは正反対の施策であり、投資先企業にESGへの配慮を促すことを目的としています。この記事では、ダイベストメントの基本や企業・個人との関係性を解説します。

オトガル株式会社代表取締役。中小企業診断士。経営コンサルタントとして、民間企業や公的機関において、ESG経営やDX(デジタル・トランスフォーメーション)を導入するためのコンサルティングや講演・セミナー活動を行っている。著書に『IoT入門講座』。
目次
1.ダイベストメントとは
ダイベストメント(投資撤退)とは、ESGへの取り組みを促す手法のひとつです。
ESGとは、E(Environment:環境)、S(Social:社会)、G(Governance:ガバナンス)のことであり、ESGに配慮した取り組みを評価指標として投資することをESG投資と呼びます。
一方、ダイベストメントとは、化石燃料(石油や石炭など)を手がける企業から投資資金を引き揚げる動きのことであり、投融資先の企業の取り組みに対して影響を及ぼす狙いがあります。
(1)海外の事例
海外では、投資家や債権者が化石燃料関連事業を除外銘柄と位置づけて、投融資を中止・撤退する方針を次々に発表しています。
投資家のダイベストメントの動きとしては、2015年、ノルウェー政府年金基金(GPFG)が保有する石炭関連株式をすべて売却する方針を決めました。⽶国カリフォルニア州公務員退職年金基金(The California Public Employees’ Retirement System、CalPERS=カルパース)は、石炭掘削から50%以上の収益を得ている企業から投資撤退するという方針を公表しました。
債権者のダイベストメントの動きとしては、仏BNPパリバ、蘭INGグループ、仏クレディ・アグリコル、仏ソシエテ・ジェネラル、英ナットウエスト・グループ(旧RBS)が石炭発電事業者および新規石炭火力発電プロジェクトの融資禁止の方針を公表しています。
これをうけて、石油メジャー各社においても脱炭素化の動きが進んでおり、英BPは、2050年までに生産過程における二酸化炭素(CO2)排出量をネットゼロ、消費段階を含めたCO2排出量50%減という目標を掲げ、低炭素事業への投資拡大、石油・天然ガス生産の削減などの取り組みを行っています。
(2)日本の事例
残念ながら日本ではダイベストメントに向けた動きは遅れています。ドイツの環境NGOウルゲワルド(Urgewald)によると、過去2年間に石炭産業に対して融資を行った商業銀行の376行のうち、融資総額のトップ3は、日本のみずほフィナンシャルグループ(336億米ドル)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(231億米ドル)、三井住友フィナンシャルグループ(204億米ドル)となっています(参照:【共同プレスリリース】日本の3メガバンクが石炭産業への融資総額で未だ世界のワースト3を独占 | 国際環境NGO 350 Japan)。
日本の動きが遅れている理由は、エネルギー政策に対する戦略の欠如にあります。
確かに、他の先進国と同様、日本においても太陽光・風力・地熱・バイオマスといった再生可能エネルギーに対する投資は活発になってきました。
戦略的に再生可能エネルギーへの投資を増やすのであれば、それと同時に石炭産業への投資は減らしていく、つまりダイベストメントに取り組むということになるはずです。しかし、日本のエネルギー政策は「再エネも石炭も」というどっちつかずの中途半端な状態です。
これでは、政府が再生可能エネルギーを軸としたエネルギー政策を推進するというビジョンを掲げたところで、産業界がそれを素直に受け入れるとは思えません。
この進むべき方向性を決めるビジョンは、ダイベストメントにおいて非常に重要です。それについては、後ほど詳しくご説明します。

2.ダイベストメントが活発になっている理由
ダイベストメントは、日本ではまだそこまで大きな動きはありませんが、着実に広まりつつあります。その理由としては、主に次の二つがあげられます。
(1)ESG金融市場の拡大
ダイベストメントが活発化している理由のひとつが、ESG金融市場の拡大です。今、環境汚染の深刻化や利益至上主義の限界などから、ESGへの配慮の重要性が一層高まっています。
「世界持続可能投資連合」(GSIA)によると、2020年のESG投資額は35兆3000億ドルで、2018年から15%増加しました(参考:世界のESG投資、15%増え3880兆円 2020年:朝日新聞デジタル)。
ESG金融市場の拡大は、機関投資家が独自のESG基準に基づいて投資判断を行うことにより、投資先企業に対して脱炭素化を推進させることができる、という期待の表れともいえるでしょう。
英国の大手資産運用会社リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は、独自のESGスコアを活用し、投資先企業への働きかけや議決権行使を判断しています。
2019年、LGIMは初めて株主提案を提出し、BPに対し、同社の戦略がパリ協定の目標とどれだけ整合しているかを説明するよう求めました。議案が可決され、BPは先述の排出削減目標を発表しました。
日本でも同様の取り組みがあり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は独自に選定したESG指数に基づいた株式投資を行っています。
ESG投資を受け入れるために、民間企業が積極的にESGリポートを開示するようにもなっています。
(2)座礁資産化リスク回避
気温上昇を一定レベルに抑えるために、人類が排出できる温室効果ガスには上限があり、埋蔵が確認されている化石燃料すべてを利用することはできないとされています。
そのため、化石燃料関連の設備は将来的に投資を回収できない「座礁資産」となる可能性があり、これを避けるために、海外では化石燃料関連事業を除外銘柄と位置づける動きが広がっています。

3.ダイベストメントに対して企業が求められること
では、ダイベストメントが活発になっている今、企業にはどのようなことが求められているでしょうか。筆者は、次の3点だと考えています。
2. ESG経営に沿ったビジネスモデルを検討する
3. ESG経営に沿った具体的な施策を練る
順に詳しく解説します。
(1)ESG経営を軸に自社のビジョンを再定義する
ESG経営とは、ESGに配慮した企業経営のあり方のことです。ESG投資を自社に呼び込むためには、ESG経営に取り組む必要があります。
ビジョンとは、経営における方向性を意味します。企業トップがESG経営を推進することについて、自社の従業員だけではなく、自社を取り巻く全てのステークホルダーに対して、語り続けることが求められます。
例えば、自社の従業員に対しては定期的に社内報で推進のメッセージを発信する、消費者や取引先に対してはWebサイトにESG経営にかける思いを掲載する、などです。
さらには、従業員の人事評価・査定にESG経営への貢献度を含めたり、取引先に対して調達基準に省エネなどのグリーン基準を含めたりすることによって、強制力を持たせることも検討すると良いでしょう。
ESG経営は、売り上げや利益を向上させるという点においては、即効性のある施策ではありません。ただし、売り上げや利益を追求するあまりESGとは相反する経営方針を採用することによって、銀行や投資家から投融資を引き揚げられるリスクがあることをあわせて認識するべきです。
(2)ESG経営に沿ったビジネスモデルを検討する
ESG経営に沿ったビジネスモデルとは、ESG経営を推進することによって実現可能な「将来あるべきビジネスモデル」を意味します。ビジネスモデルにおいて検討すべき基本的な要素は、「ステークホルダー」とステークホルダーに提供する「価値」となります。
ダイベストメントを回避する際に検討すべきステークホルダーとは、第一には投資家や金融機関です。しかし、上述したように年金基金などの金融機関は独自のESG指標を使って投資先を評価しているため、その指標に基づいて、経営管理、組織管理、販売管理の在り方を再検討する必要があります。
例えば、顧客の利便性を追求するあまり、環境に悪影響を与えるようなプラスチック包装を提供することが本当に良いことなのかあらためて検討する、などです。
(3)ESG経営に沿った具体的な施策を練る
新たなビジネスモデルを確立するためには、単に施策を掲げるだけではなく、その効果を検証するための評価基準も必要になります。自社独自のESG評価基準と投資家が掲げるESG評価基準を擦り合わせていくことによって、ダイベストメントを回避できるようになるからです。
プラスチック包装を止めるというのであれば、「包装そのものの量を削減するためにはどうするのか」あるいは「プラスチック素材ではなく、紙素材を使って代替できないか」といった施策を検討することなどが考えられます。前者であれば削減量という形で定量的に評価できますし、後者であればどの素材にするのかという形で定性的に評価できます。
自社の施策としてプラスチック素材の削減や代替を掲げ、その実績を評価として示すことによって、投資家のプラスチック産業へのESG投資の方針に沿うことができる、すなわちダイベストメントを回避できるようになります。

4.ダイベストメントと個人の関係性
最後に、ダイベストメントと個人の関係性についてご紹介します。企業にしか関係ないと思われがちですが、実は私たちひとりひとりとも関係があるのです。
(1)銀行選びもダイベストメントのひとつ
私たちが銀行に預けているお金は、企業への融資に利用されています。そのため、ESGに配慮していない企業へお金を貸している銀行を選ばない、ということもダイベストメントになります。
もし、ダイベストメントを実行する場合は、銀行を選ぶ際に、取引先の銀行がESG要素を考慮した事業性評価を実施しているかを見てみると良いでしょう。環境省では、「ESG地域金融」の普及を推進しており、銀行でもSDGsやESGへの取り組みを評価した融資商品が登場してきています。
環境省が紹介している取り組みをあげると、例えば滋賀銀行(大津市)は水質浄化技術を活用したフグの陸上養殖の事業に対して、地域活性化および環境配慮による効果という視点から融資を行っています。また、山陰合同銀行(松江市)や北都銀行(秋田市)は、バイオマス発電事業に対して、森林管理による防災能力の強化やCO2排出量の削減などの効果を踏まえて融資判断を行っています。
自分と関係のある銀行がSDGsやESGに対して、どのような取り組みをしているのかを知り、共感できるような取り組みがあるかということを銀行選びの基準にしてはどうでしょうか。
(2)ダイベストメントはエシカル消費の一環
個人レベルでは、ダイベストメントをエシカル消費の一環と捉えても良いでしょう。
エシカル消費には、SDGsに配慮した商品やサービスを積極的に購入するという行動のほかに、環境や人権に対して有害となるような商品やサービスについては購入しないという意思表示を含みます。
個人が機関投資家に対して圧力をかけることは実際には難しいでしょう。しかし、化石燃料関連事業に投融資を続ける銀行や機関投資家に対しては、「預金しない」「資産運用先とはしない」という形で意思表示はできると思います。
5.ダイベストメントは問い続ける姿勢が大事
ESG経営については、ダイベストメントという経営リスクの回避の面だけではなく、あるべきビジネスモデルから現在の自社のビジネスモデルを見直すというバックキャスティングの視点で捉えるべきです。そのためには、社会に対して自社がどのように貢献していきたいのかを常に問い続ける姿勢が求められます。
また、それは個人においても同様です。本当にこの銀行を利用していいのか。そうした問いを常に持ち続け、場合によってはダイベストメントという手段を選ぶことが、サステイナブルな社会を実現することにつながります。
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