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4月8日はおからの日 で、おからは廃棄物? スーパーフード?

4月8日はおからの日 で、おからは廃棄物? スーパーフード?
食品ロス問題ジャーナリスト/井出留美

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井出留美(いで・るみ)
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学)、修士(農学)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経る。東日本大震災で支援食料の廃棄に衝撃を受け、自身の誕生日でもある日付を冠した(株)office3.11設立。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018、令和2年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。近著に『食料危機』『捨てられる食べものたち』など多数。

コロナ禍で増大した精神的ストレス

2020年にはじまったコロナ禍も2022年で3年目。生活リズムが崩れてストレスを感じる人や、一日中、誰とも話す機会がなく、ふさぎこむ人が増えている。ストレスや感情を自分でコントロールできればいいが、なかなかうまくいかないものだ。

発酵学の第一人者、小泉武夫先生とラジオで対談して以来、発酵関連の資料を読んでいるのだが、あるテキストに「幸せは腸でつくられる」とあった。腸内環境を整えることが身体にいいのはわかるが、心にも効くというのはどういうことなのだろう?

「幸せ物質」とも呼ばれる神経伝達物質セロトニンには、ドーパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)などの神経伝達物質をおさえ、精神を安定させる働きがある。セロトニンが低下すると、感情をうまくコントロールできなくなり、攻撃性が高まったり、不安やうつ・パニック障害などの精神症状を引き起こしやすくなったりするのだという。

腸には脳に次ぐ数の神経細胞が集まっており、「第二の脳」と言われている。脳と腸には密接な関係があり、脳のストレスは腸に影響し、腸のストレスもまた脳に影響する。幸せ物質セロトニンの元となる物質(5-ヒドロキシトリプトファン)は腸でつくられて脳へと運ばれる。脳でセロトニンが合成される際、ビタミンB6が必要となるのだが、そのビタミンB6の多くは腸内でつくられる。そこで重要な役割を果たしているのが腸内細菌なのである。つまり、幸せな気持ちを持続させたければ、腸内環境を整える必要があるというわけだ。

art_00355_本文1(腸内細菌)
(朝日新聞データベースから)

腸内環境を整えるには?

腸内環境を整えるには、まず乳酸菌やビフィズス菌、納豆菌、麹菌などの、いわゆる善玉菌を含む食材、たとえばヨーグルトや納豆、味噌、醤油などの発酵食品をとるといい。善玉菌を腸まで届け、悪玉菌の働きをおさえてくれる。これらの善玉菌を多く含む食材のことを「プロバイオティクス」という。

この「プロバイオティクス」をとるだけでもいい影響はあるのだが、さらに増幅させる方法がある。それは、善玉菌を増やし、活性化させること。つまり、おなかの中の善玉菌に、エサとなるオリゴ糖や食物繊維などを供給してあげるのだ。この善玉菌のエサとなる食材のことを「プレバイオティクス」という。たとえば、わかめ、ごぼう、切り干し大根、干し柿、あずき、干し椎茸、おからなどの食物繊維を多く含む食材。昭和生まれには懐かしい食材ばかりである。

腸内環境を整える秘訣(ひけつ)は、ヨーグルトや納豆などの善玉菌の含まれた食材「プロバイオティクス」を食べるだけではなく、善玉菌のエサとなる食物繊維を多く含んだ、あずきやおからなどの食材「プレバイオティクス」も食べることだ。

「安くて栄養あり」だが、食用は1%

おからといえば、4月8日は「おからの日」である。一般社団法人日本乾燥おから協会によると、4月(卯月)に咲くウツギの花に見た目が似ているため、おからは別名「卯の花」とも呼ばれる。そこでお釈迦様の誕生日の4月8日を「おからの日」と制定したのだそうだ。

おからは食物繊維やカルシウム、大豆イソフラボンなどが含まれる、栄養価の高い食材だ。しかし、豆腐をつくる過程でできる副産物のため、「おから=しぼりかす=廃棄物」と思われがちである。

かつては、どの街角にも個人経営のお豆腐屋さんがあり、豆腐や厚揚げと一緒におからが売られていた。食料難だった戦時中には、その安さと栄養価が評価され、節約レシピのスーパースターとなり、お豆腐屋さんにはおからを求める行列ができたそうだ。

最盛期の1960年には全国に5万1596ものお豆腐屋さん(豆腐製造事業者)があったという。コンビニ最大手のセブンイレブンの国内店舗数は2万1301(セブン-イレブン・ジャパン、2022年3月末)なので、当時のお豆腐屋さんは、その2.4倍にあたる。このことからも、いかにお豆腐屋さんが身近だったかがわかる。

art_00355_本文2(昭和の豆腐屋)
1965年ごろのお豆腐屋さん=東京都豊島区(撮影・朝日新聞)

しかしその後、お豆腐屋さんはしだいに減少し、2014年には8017軒、2020年には5319軒となった(一般財団法人全国豆腐連合会)。筆者の自宅近くでも、お豆腐屋さんは、ひとつ、またひとつと閉店していった。街角からお豆腐屋さんが消えつつあるいま、おからの存在感はますます薄くなってきている。日本ではおからの生産量のうち、わずか1%しか食用として活用されていないというデータもあるくらいだ。

「おから裁判」で廃棄物認定されるも……

豆腐を大量生産しているメーカーの工場でも製造の過程でおからが出る。知り合いの豆腐メーカーの社長は、以前、スーパーにおからを扱ってもらえないかと打診したところ、「こんなの無料(ただ)でいいだろう?」と言われたとこぼしていた。食品業界にも、おからは廃棄物という認識の人はいるのだ。

おからは廃棄物であるという認識が広がったのは、「おから裁判」のせいかもしれない。ある産廃業者が、都道府県の許可なしに、おからを有償で回収していたことがわかり、訴えられたのだ。

豆腐の製造が個人経営のお豆腐屋さん中心だったころには、おからはお豆腐屋さんに並べられていたので問題なかったが、豆腐の製造が大量生産するメーカーに移ったことで、副産物としておからが大量に発生するようになった。もともと日持ちせず、レシピも限られていたおからは、家畜の飼料用として産廃業者に引き取られるようになっていたのだ。

このおからは「食品」なのか「産業廃棄物」なのかが問われた1999年のおから裁判で、最高裁のくだした判決は「おからは産業廃棄物である」というものだった。しかし、裁判で「廃棄物」とされたおからも、本来は食品だ。この栄養価の高いおからをもっと活用できないか、豆腐メーカーが知恵をしぼった結果が、急速乾燥させたおからの粉末「おからパウダー」だ。日持ちしない生のおからに比べて保存性が高く、どのメーカーの製品でも賞味期間は6カ月以上となっている。

art_00355_本文3(おからパウダー)
おからパウダー(Getty Images)

おからパウダーは使い勝手もいい。ヨーグルトに入れても、スムージーに入れても、カレーに入れても、もともとの味を邪魔しない。食感は多少もそもそするが、量を調整すれば気にならない。他にもハンバーグのひき肉、揚げ物の衣、ポテトサラダのじゃがいもの代わりにだってなる。おからパウダーでつくった「おからパン」は、小麦のパンに比べて、食後の血糖値が上昇しにくいというデータもある。おからパウダーの栄養価は高く、お値段もお手頃だ。しかも腸内環境を整え、お通じもよくなる。さらに精神を安定させるのに欠かせない「幸せ物質」セロトニンを合成するのにも一役買っている。

小麦粉ゼロ! おからと豆乳でつくるケーキ

埼玉県川口市でパン屋を営む坂巻達也さんは、3年かけて「おからケーキ」を開発した。小麦粉をいっさい使わないケーキだ。小麦アレルギーのお孫さんが安心して食べられるケーキをつくってあげたかったのだという。主原料はおからと豆乳。希少糖を使っており、80kcal以下。動物性脂肪を含まないので、小麦アレルギーの人はもちろん、血糖値が高い人やベジタリアンの方にも好評だ。坂巻さんと一緒に仕事をしている宗高美恵子さんが開発した、小麦粉も卵も使わない「おからクッキー」もある。 

art_00355_本文3&4(ケーキ2枚合成)
坂巻達也さんが開発したおからケーキ(株式会社Ocalan提供)

かつて廃棄物扱いされ、1%しか食用されていないおからだが、栄養価は高く、食物繊維が豊富な、身体にも心にも効くスーパーフードなのである。こんなすばらしい食材を放っておく手はないと思うのだが。

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