エコロジカルフットプリントとは? 計算式や現状、削減方法を紹介

エコロジカルフットプリントとは、人間が自然環境にどれだけ負荷を与えているのかを示した数値です。現在、この数値は世界的に悪化しており、問題視されています。本記事では、脱炭素社会実現を目指すアクティビストが、エコロジカルフットプリントの定義や現状、減らすためにできることを解説します。

ゼロエミッションラボ沖縄 共同代表。アメリカ留学を機に政治や社会問題への関心を高める。2019年から強い危機感を感じ地球温暖化防止活動をスタート。2020年、沖縄県に「気候非常事態宣言」を求める陳情書を提出し、県議会全会派や県職員と意見交換を実施。2021年3月の宣言発表につなげた。同年4月「ゼロエミッションラボ沖縄」を設立し、脱炭素社会実現のため、市民、行政、企業をつなぐプラットフォームを運営。
目次
1.エコロジカルフットプリントとは?
エコロジカルフットプリント(英: ecological footprint、EF)とは、人間の活動が自然環境に与える負荷をわかりやすく表してくれるバロメーターです。「人間活動が地球環境を踏みつけにした足跡」という比喩で表した言葉で、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも関連する重要な概念の一つとなっています。
エコロジカルフットプリントは、次の計算式で求められます。
この答えから、私たちが地球何個分の資源を消費しながら暮らしているかがわかります。主な環境負荷としてあげられるのは、温室効果ガスの排出、森林伐採などによる資源利用、行き過ぎた量の漁獲などです。
2.海外・日本のエコロジカルフットプリントの現状
海外や日本のエコロジカルフットプリントの現状を見てみましょう。まず、国際NGOのGlobal Footprint Networkが発表している、2022年時点での国別のエコロジカルフットプリントのランキング(一部)をご紹介します。
国別のエコロジカルフットプリントのランキング

みなさんも想像できる通り、石油や石炭などの化石燃料に支えられた産業や経済が発達した国は、圧倒的に地球環境に負荷をかけています。
次に、日本のエコロジカルフットプリントを見てみましょう。まずは2019年時点での都道府県別のランキングをご紹介します。
都道府県別の1人あたりエコロジカルフットプリントのランキング

都道府県別で見ていくと、東京都のエコロジカルフットプリントが最も高い数値となっています。1人あたり5.24ghaは、日本の平均値1人あたり4.7ghaを10%も上回る数値です。一方、最下位の山梨県のエコロジカルフットプリントは平均より13%小さく、地域によって大きく異なることがわかります。
内訳(「食」「住居・光熱費」「交通」「サービス・財」)別だと、東京都などの大都市圏では「サービス・財」の比率が高く、沖縄県などの地方では「住居・光熱費」の比率が高い傾向にあります。
また、人口が集中している地域だけでなく、高齢化が進んでいる地域ほどエコロジカルフットプリントが大きくなりやすいというデータもあります(参考:あなたの都道府県の暮らしは地球何個分?~地域別エコロジカル・フットプリントと都市化や高齢化との関係を解明~│総合地球環境学研究所)。高齢者は、化石燃料に大きく依存している既成の食製品を消費することが多いのが理由のようです。
3.今のエコロジカルフットプリントからわかること
世界や日本の現状を見るとわかるように、経済や都市が大きく発展している国・地域ほどエコロジカルフットプリントが高く、地球に大きな負担をかけています。
2022年時点で、地球全体で今の生活を続けるには、地球1.75個分の資源が必要です。日本と同じような生活を地球全体で続けようとするなら、地球2.9個分の資源がなければいけません(参考:How many Earths? How many countries?│EARTH OVERSHOOT DAY)。
地球1個分を超えている、ということは、エコロジカルフットプリントがバイオキャパシティを超えてしまっている、ということです。バイオキャパシティとは、生物生産力のことで、主に自然が生み出す資源である酸素や食糧を指しています。
ちなみに、世界の人々の1年間の消費量が、地球環境が生産・再生する自然資源の量を超える日、つまり地球1個分を超える日を、アースオーバーシュートデーと言います。
アースオーバーシュートデーは毎年算出されており、2021年は7月29日でした。本来なら1年間もたせなければいけない資源を、約8カ月で使い切ってしまっている状態です(参考:2021年も地球へ借金、アース・オーバーシュート・デーは7月29日│WWFジャパン)。
4.エコロジカルフットプリントを減らすための方法
環境保全団体のWWFジャパンでは、日本のエコロジカルフットプリントを減らすために、次の三つの取り組みを自治体に求めています。
2. 土地の生産性を高める(=バイオ・キャパシティを増やす)こと。土壌の改善、適切な土地の利用、責任ある調達方針の設定
3. これらを支え、つなぐこと。教育プログラムの実施、市民参加の場づくり、自治体間の連携
(出典:あなたの街の暮らしは地球何個分?│WWFジャパン)
これをふまえて、個人・民間企業・その他の団体にできることを、それぞれご紹介します。
(1)個人にできること
まずは、個人にできることを考えてみましょう。
総合地球環境学研究所によれば、日本全体のエコロジカルフットプリントのうち、68%が家計分野で、そのうち「食」「住居」「交通」の3カテゴリーが75%を占めています(参考:あなたの都道府県の暮らしは地球何個分?~地域別エコロジカル・フットプリントと都市化や高齢化との関係を解明~│総合地球環境学研究所)。これらの3カテゴリーの数値をどう減らすかが鍵となります。
①食品の消費・購入の仕方を見直す
近年、国連食糧農業機関(FAO)や環境省から畜産による温室効果ガスの排出量を示すデータが公開され、その大きさが問題視されています。これを受けて、エコロジカルフットプリントを減らすには、菜食中心の食生活をすることが効果的だともいわれています。
今はレシピのバリエーションがあるため、菜食中心の料理を作るのはそれほど難しくありません。レシピを見ていると、「これも作れるんだ!」と新しい発見が多くあります。料理が苦手な方は、ヴィーガンレストランに足を運ぶ回数を増やすのもおすすめです。
また、食品ロスの低減も重要です。食品ロスの主な要因は、料理を作りすぎたり注文しすぎたりして残る「食べ残し」、野菜や果物などの食べられるところまで捨ててしまう「過剰除去」、賞味期限が切れて未開封のまま食べずに捨ててしまう「直接廃棄」があります。
このような食品ロスを減らすには、必要な分を買って食べきる、賞味期限が近い商品を購入する、といったことが大切です。最近では、出てしまった生ごみのコンポスト(堆肥《たいひ》化)も注目されています。
②環境に配慮した住まいやエネルギーを選ぶ
住居に関しては、新しく住宅を購入する際やリフォームの際は省エネ効率が高いものを選ぶ、再生可能エネルギーで電気を提供している会社を選ぶ、といった方法があげられます。
③なるべく車を使わず移動する
なるべく車を使わずに徒歩や自転車、公共交通を使うとエコロジカルフットプリントの削減につながります。車は乗るけれど頻繁には使わない、という人はカーシェアもいいですね。
④認証マークのついた商品を購入する
とくに食・住にかかわることですが、環境にやさしい商品を選ぶのもおすすめです。MSCやFSCといった認証マーク(注)を見て買い物をすると、選ぶ手間が省けます。
(注)MSCは、水産資源や環境に配慮し、適切に管理されている漁業で獲られた水産物に付けられる認証マーク。FSCは、木材や林産物が持続可能な方法で収穫されたことを示す認証マーク
⑤環境政策に力を入れている政治家に投票する
生活に関わる選択として重要なものの一つが、選挙に行くことです。環境政策に力を入れている政治家に投票し、行政でも進めてもらいましょう。
また、自分たちの住んでいる場所で政治家に働きかけることも、できることの一つです。
最近、議会で環境問題を取り扱う政治家が増えています。2021年の衆議院選挙のときの党首討論で取り上げている党もありました。筆者が環境問題について政治家と意見交換をしているなかでも、環境問題に関心を示している人が多いと感じます。
市民が声をあげて、世論を盛り上げることによって、このような政治家も、より政策を進めやすくなるでしょう。
⑥環境団体に参加する・環境アクティビストになる
環境団体に参加するのもおすすめです。自分の知識を深める機会を得られるだけでなく、環境を守りたい同志と活動する楽しさもあります。最近、企業も注目している分野なので、仕事につながることもあるかもしれません。なお、環境団体には国際環境NGOグリーンピースやFridays For Future Japanなどがあります。
また、個人で積極的に行動したいと考えている方は、環境アクティビスト(個人で講演活動や情報発信などをする人)になるのもいいでしょう。
(2)民間企業にできること
民間企業には、次のような活動が考えられます。
①エシカルな商品を開発や販売、提供する
ものづくりをする企業は、環境に配慮した商品を開発、販売することで、エコロジカルフットプリントを減らすことができます。世界的にSDGsの流れが強くなっているので、企業の評価が上がり、投資家へのアピールにもなるでしょう。消費者への印象もよくなります。
また、環境にやさしいヴィーガン商品を取り扱うのも一つです。
ヴィーガン人口が増えている国があるというデータや、日本におけるヴィーガンの市場規模が小さくないことがわかるデータなどがあり、大きなビジネスチャンスにつながる可能性があります。ヴィーガン商品というと食品のイメージが強いですが、今はメイクアップやスキンケアなどの化粧品もあり、バリエーションが増えているので、他社の事例を参考に検討してみてはいかがでしょうか。
②環境団体に寄付する
環境への関心が強まっている今、環境負荷が高い事業からの方向転換が求められるでしょう。事業の方向性を変えるのが難しい場合、環境を守るまたは再生する活動をしている団体や環境活動家に寄付したり、スポンサーになったりすることで、環境負荷を相殺している例もあります。
(3)その他の団体にできること
最後に、行政や環境団体ができることをご紹介します。
①プラットフォームの開設
今は個人や企業、行政それぞれが別々に活動していることが多いため、活動情報を共有できるプラットフォームの開設が大切になってくると考えています。市民団体でプラットフォームを作ることもできますが、行政が作ることもまた効果的です。
②市民への啓発活動
市民への啓発活動も重要です。世論を動かすことは、行政や企業が方向転換する後押しとなります。
筆者が所属しているゼロエミッションラボ沖縄でも、オンラインフォーラムなどを開催しています。また、上述のように社会や政治に働きかける活動もしており、議会の傍聴をしてそのことについての感想や意見交換をして知識をシェアすることなどをしています。
③行政による個人や企業の支援
行政の支援も大切です。具体的には、再生可能エネルギーを導入する市民が増えるように補助金を出すことや、企業による技術革新のサポートをすることなどです。公共の建物に太陽光パネルをつけたり、公用車を電気自動車にしたりして市民の見本になるのもできることの一つです。
5.地球に感謝しながらアクションしよう
エコロジカルフットプリントを減らすためには、個人の方は日々の生活の中で、企業や団体に所属している方はそこの中で、できることを一つ一つ行っていく必要があります。
私たちを生かしてくれている地球に感謝しながら、地球1個分の生活を目指していきましょう。
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