ガストロノミーにサステナブルシーフードを導入する<平ちゃん> 東京のサステナブルな和食を味わう【1】

食を通じてサステナブル(持続可能)な未来を目指すレストランが、東京にも着実に増えてきています。和食の世界にも広がるこの動きを、フードジャーナリストの佐々木ひろこさんが3回シリーズで紹介します。

食やサステナビリティなどをテーマに長く執筆を続けるフードジャーナリスト。また東京・京都のトップシェフたちと共にサステナブルシーフードの啓発活動に取り組み、水産資源を維持し食文化を未来につなぐことをミッションに様々なプロジェクトを推進中。一般社団法人Chefs for the Blue代表理事。水産庁・水産政策審議会特別委員。
コース料理に認証水産物使用
築地から豊洲に連なる東京の魚市場の存在は世界でも有名ですが、その発祥はさかのぼること17世紀、漁師が江戸幕府に納める魚の残りを日本橋のたもとで売りはじめたこととされています。この魚河岸は、後に築地に移転完了する1935年まで、長年にわたり東京の魚食文化を支えてきました。
この魚河岸跡地すぐの場所にある「平ちゃん」は、おでんをベースにした和食のコース料理を提供するガストロノミーレストランです。日本橋の和食店として、豊かな海と食文化を未来につなげたいと、こちらではランチ・ディナー両方のコース料理に、サステナブルな漁業や養殖業で生産された認証水産物を取り入れています。
(注)ガストロノミー:本来は食と文化の関係性について深く考察する学問を指す言葉であり、転じて現在は、優れたテクニックや料理人のクリエイティビティをもってより良い食を追求することやそういったレストランを指して言います。

水産資源減少に危機感
オーナーである松本一平さんは、近隣の姉妹店であるフレンチレストラン「ラペ」のシェフ。ミシュランガイドで一つ星を持つラペは、なかでもサステナビリティを積極的に推進するレストランに付与される「グリーンスター」(2022年3月現在、東京で全14店舗)の取得店舗でもあります。2021年、松本さんが2店舗目として平ちゃんのオープンを考えた時、メニューに認証水産物を導入することは最初から決めていた、と明かしました。
「日本近海の水産資源が減少し続けていることは、食の未来にとってとても大きな問題で危機感を抱いています。そこでレストランにできるアクションのひとつとして、認証水産物を扱うために必要なCoC(Chain of Custody)認証を取得し、調達を始めました」(松本さん)
松本さんは、海の未来を考える料理人チーム、一般社団法人Chefs for the Blue(シェフスフォーザブルー)の創設メンバーであり、2017年から水産資源の持続性改善を目指す啓発活動を続けています。サステナブルな魚を、と言っても食べ手になかなか理解が進まないなか、メニューにロゴを表示して提供できる認証水産物はわかりやすいと感じるそうです。

未利用魚の活用も検討
平ちゃんでは今後、マイナーな魚種や物量がそろわないなどの理由で、漁港で廃棄同然の扱いを受けている未利用魚、低利用魚を適正価格で購入し、おでんの練り物に仕立てることも考えているそうです。
さらにおでん出汁(だし)を引いたあと、毎日大量に残る昆布を佃煮(つくだに)に、またかつお節をふりかけにとアップサイクルすることもオープン当初からの決まりごと。使い切り、廃棄を減らす昔ながらな家庭の知恵の応用ですが、厨房(ちゅうぼう)を預かるシェフの根内大和さんは、「ご自宅で召し上がりください、と帰り際にお客さまにお渡しすると、おいしくてサステナブルだなんていいね、と喜んでもらえるんです」と笑顔で話します。
平ちゃんがこれまで使用してきた国産の認証水産物は、ASC認証を取得した養殖事業者によるマダイやブリ、トラウトサーモン、MSC認証を取得した漁業者によるカツオ、ホタテガイなど。根内さんは、「国産の認証水産物が増えてきたのはうれしいのですが、まだ調達に苦労が多いです。流通の整備が進むように、使い手側の認証レストランも増えるといいですね」と課題感も語りました。
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