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フェムテックとは? 注目の理由、課題を基本からわかりやすく解説

フェムテックとは? 注目の理由、課題を基本からわかりやすく解説
フェムテックの定義と課題への解決策(デザイン:吉田咲雪)
ジョコネ。代表取締役/北奈央子

2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされた「フェムテック」。テレビのニュースなどで取り上げられることも増え、注目が集まってきています。フェムテックについて、女性のヘルスリテラシーを研究している筆者が、わかりやすく解説していきます。

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北奈央子(きた・なおこ)
グローバル医療機器メーカーにて10年以上マーケティングのキャリアを積み、自身の経験から女性のヘルスリテラシーをライフワークに研究、活動を展開。NPO法人女性医療ネットワーク理事、聖路加国際大学大学院にて女性のヘルスリテラシーの研究中。著書:『女性がイキイキと働き続けるためのヘルスリテラシー』(セルバ出版)。早稲田大学理工学部卒業・修了。

1.フェムテックとは

フェムテックとは、Female X Technologyの造語で、女性の健康を支えるなんらかの商品やサービスのことです。「テック」というとAI(人工知能)やアプリなどの技術を想像しがちですが、現在はそういった技術が使われていなくても女性の健康を支えるものは「フェムテック」と呼ばれており、技術的な側面より、「女性のための」といった側面が強い言葉です。

たとえば、生理周期を管理するためのアプリ、最近急増しているデリケートゾーン専用のソープ、吸水性ショーツなどがあげられます。技術的要素が少ない商品やサービスを指す「フェムケア」という言葉も、最近聞かれるようになってきました。

生理、更年期など、女性特有の健康の話題は「恥ずかしい」「がまんするもの」と、公に話したり、ケアしたりすることがタブーとされてきました。今でも自分のデリケートゾーンを見たことがない、腟(ちつ)を触れない女性はたくさんいます。ダメだといわれてきたからです。

ここには社会文化的性差であるジェンダーと関わるいろいろな背景があり、すぐに変わらないものもあります。

ただ、今は女性活躍や多様性の推進によって大きく後押しされています。また、もともと女性は家事、育児、介護を主に担ってきましたが、結婚も出産も仕事も、女性自身が選択する時代になってきました。

女性ひとりひとりが、自分の健康をメンテナンスしながら、自分らしく人生を歩めるようになっていく――その支援のひとつがフェムテックといえるでしょう。

フェムテックは、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」や、目標3の「すべての人に健康と福祉を」に直結するものですが、多様性の推進という点ではSDGsの根底を担う大事な取り組みです。

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2.フェムテックが注目されている理由

フェムテックという言葉は、2013年にドイツの起業家アイダ・ティン氏によってつくられたといわれています。言葉をつくることで市場ができ、参入したり起業したりする企業が増えたとされ、アメリカの調査会社(CB Insights)は2025年までに500億ドル(約6.5兆円)の市場になると予測しています。

日本でも関連の企業が増え、経済産業省が2021年度から補助事業を開始するなど、世界を追いかけながら推進されてきています。

では、なぜ今、フェムテックが注目されているのでしょうか。それには、主に次の理由があります。

(1)女性の活躍を推進するため

2016年4月に女性活躍推進法が施行され、国を挙げて女性の活躍が推進されています。

一方で、女性は働いている間にさまざまな健康課題に直面します。月経による不調、妊娠・出産、更年期、働いている間を通してメンタルの問題、そして働く間に罹患(りかん)のピークを迎える子宮頸(けい)がん、乳がんです。女性活躍推進には女性の健康サポートが必要であり、それを支える役割としてフェムテックが注目されています。

(2)社会的な損失につながると認識されはじめたため

50歳ごろまで毎月くる月経による不調や、50歳前後にほとんど必ず訪れる更年期症状は、従来は個人の問題で、「がまんしなさい」「ひとりで、なんとかしなさい」といわれてきました。

しかし、最近では、これらをそのままにしておくことが社会の損失だと認識されるようになっています。

例えば、2013年に月経随伴症状による社会経済的負担が試算され、日本国内で1年間に7000億円もの社会経済的負担が月経に伴う症状によって発生していることが明らかになりました。このなかで一番大きいのが労働損失で、約5000億円にものぼります(参照:Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study|Taylor & Francis Online)。

こうした社会的な損失を回避するために、女性の健康を社会でサポートする施策のひとつであるフェムテックが重要だ、と認識されるようになっています。

(3)SNSの発達で女性の悩みが可視化されやすくなったため

これまでは、女性の身体に関する情報(月経の対処をどうしているのか、どんなグッズを使ってどんなケアをしているのか、など)を手にする機会があまりなく、女性はひとりで悩むしかありませんでした。

しかし、最近は、SNSが発達して個人の経験の情報が得やすくなっています。また、「こんな方法もあったんだ! 私みたいに知らない人に教えてあげよう!」と自分から情報発信もしやすくなっています。多くの女性が、悩みを簡単に共有できる環境になっているのです。

それによって、女性の悩みが可視化され、個人の課題ではなく、社会の課題として浮き彫りになり、解決手段としてのフェムテックが注目されるようになっています。

フェムテックとは少し異なりますが、2017~2018年にアメリカで起きた#MeTooムーブメントも、ハリウッド女優の性被害が「ニューヨーク・タイムズ」紙で報道されたのを機に、同じような経験をした女性が次々とSNSで発信したことで大きな注目を集めました(参考:MeToo運動とは何か。|レファレンス協同データベース)。

3.フェムテックの企業事例

フェムテックが注目されている今、さまざまな企業がそのニーズに応えようと取り組みを行っています。ここでは、主な事例を、海外・日本に分けてご紹介します。

(1)海外の企業事例

①妊活を支えるデバイス

日本では、公的な医療保険が使える不妊治療の範囲が2022年4月から広がり、妊活がますます注目されています。そんななか、海外企業によって、妊活を支えるさまざまなデバイスが開発されています。

例えば、アメリカ・Raiing Medicalの「iFertracker」やイスラエルのスタートアップの「Tempdrop」といった基礎体温を自動的に高い精度で記録してくれるデバイス、アメリカ・Lady Technologiesの「kegg」のようなおりものの成分を分析して妊娠確率の高い日を教えてくれるデバイスなどです。

②骨盤底筋を自宅で鍛えるデバイス

海外では、骨盤底筋を自宅で鍛えるデバイスも開発されています。

骨盤底筋は女性にとって特に大切な筋肉です。子宮、膀胱(ぼうこう)、腸などの臓器を支えているので弱くなると尿もれや便もれが起きたり、筋力低下が進行すると骨盤臓器脱(骨盤の上に乗っている臓器が股の間からでてくる症状)になったりすることもあります。

医療の分野では、骨盤底筋の重要性がうたわれてきましたが、うまく鍛えることが難しく、長年の課題となっていました。

そこで開発されたのが、スマホなどのアプリで骨盤底筋の動きを見ながらトレーニングができるデバイスです。イギリス・Chiaro Technology Limitedの「Elvie Trainer」という腟内に入れるものや、韓国・Furun Healthcareのお尻の下に敷くものなどさまざまなものが登場しています。

(2)国内の企業事例

①ピルのオンライン処方

ピルは生理痛の緩和や避妊に使われる薬ですが、日本での普及率は海外と比べて極端に低くなっています。ピルは病院の処方が必要で、日本の女性にとって婦人科受診のハードルが高いことが要因のひとつでしょう。

ただ、近年、オンライン診療への規制が緩和したこともあり、オンラインでの診療とピルの郵送を組み合わせたサービスが提供されてきています。大阪・ネクイノの「スマルナ」、東京・エムティーアイの「ルナルナ オンライン診療」など、オンライン診療+郵送のプラットフォームを開発する企業も登場してきました。

また、そうしたサービスを福利厚生として取り入れる企業(東京・Surpassや東京・オルビスなど)もでてきています。

②デリケートゾーンケア用品

ここ数年で、デリケートゾーン専用のケア用品は急増しています。

一般のせっけんを使ってデリケートゾーンを洗うことで、トラブルを抱える女性が多くいます。膣は乳酸菌で酸性に保たれ、それによって外敵から守られているのですが、一般のせっけんを使うことで酸性でなくなってしまうためです。

そこで、国内では、東京・たかくら新産業の「ピュビケア オーガニック」や、福島・陽と人(ひとびと)の「明日 わたしは柿の木にのぼる」といったブランドから、デリケートゾーン用のソープや保湿剤がでてきています。

現在は種類も豊富で、pH(水素イオン濃度指数)を酸性にしているもの、乳酸菌が入っているもの、他の部位も一緒に洗えるものなどがあります。洗ったあとに使う専用の保湿剤もでてきました。

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名古屋市の百貨店・JR名古屋高島屋で開かれたフェムテック商品のフェア=2021年10月(撮影・朝日新聞)

4.フェムテックにまつわる課題と解決策

フェムテックが注目されるようになり、いろいろなところでフェムテックのイベントが開催されたり、発信されたりするようになってきました。

フェムテック事業を運営する企業も、これまではスタートアップや中小企業が多かったのですが、最近は大手企業も取り組み始めています。ほかに、フェムテックのアイデアを実際に考えるチームの提案が通りやすくなったり、フェムテックの開発チームの中に男性社員が参加したりするなど、フェムテックの波がきていることを感じさせるケースは少なくありません。

しかし、より多くの商品やサービスが世の中にリリースされていくためには、これが一部のムーブメントではなく、文化として根付いて継続的に取り組まれることが重要だと筆者は考えています。そのためには、次のような課題を解決する必要があるでしょう。

● フェムテック事業の意思決定層に女性が少なく、本当に必要な商品やサービスが開発されにくい
● フェムテック事業に明確なルールがなく、当該商品やサービスの信憑(しんぴょう)性がはっきりしていないケースや、誇大広告に近いような形で販売されているケースがある

これらに対して、私たちができることをご紹介します。

(1)女性の健康や働き方に関するサポートを行う

フェムテック事業の意思決定層に女性を増やすには、もちろん企業が目標比率を決め、そこに向けて動いていくことが大事です。

しかし、責任ある立場を任される年齢は更年期とちょうど重なりやすく、また人によっては子育てが大変な時期、親の介護が必要な時期を迎えていることもあります。こういった状況のため、昇進の話を断らざるをえない女性も少なくありません。

そのため、まずは、女性の健康や働き方をサポートする取り組みが大切になってくるでしょう。例えば、健康に関する知識を提供するセミナーの開催や、相談しやすい環境づくりなどです。

また、時間休や在宅ワークなどフレキシブルな働き方を受け入れ、お互いをカバーしあえるような文化を醸成し、ワーク・ライフ・バランスを維持しながら働き続けられる環境を整えていくことも必要でしょう。

(2)業界ルールを制定する

フェムテックが広がるにつれ、いろいろな商品やサービスが「フェムテック」と位置づけられるようになりました。美容業界、ヒーリング業界、アパレル業界で販売されていたものが「フェムテック」と名付けられて提供されるケースも珍しくありません。ただ、なかには「それは本当にフェムテックか?」と疑わしくなるようなものもあります。

また、もともとヘルスケア分野で事業をされていない方たちが、フェムテック事業を始めることも多くみられるようになりました。ヘルスケア業界では、エビデンスの重要性を示すことや誇大広告をしないことなどが常識ですが、フェムテックに明確な定義がないために、もともといた業界のルールで事業を展開するケースもあります。

今後、トラブルを避ける意味で、フェムテックにはフェムテックの業界ルールが必要になると筆者は考えています。また、利用する側もその点を理解したうえで取り入れる商品やサービスを選んでいく必要があるでしょう。

5.ダイバーシティーの一歩目としてのフェムテック

フェムテックは女性の健康を支える商品やサービスです。多様なライフコースをもつ女性が生きやすい社会は、みんなが生きやすい社会への一歩目といえます。フェムテックをブームで終わらせず、文化として社会に根付かせていくことでSDGsの推進につながっていくでしょう。

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