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米国の少年野球にみる教育のリアル(その1) 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【5】

米国の少年野球にみる教育のリアル(その1) 蟹江教授が読み解くSDGs@米国【5】
長男が所属する米国の少年野球チーム。試合で全員が出場できるよう1チームの人数を絞っている(筆者提供)
慶応義塾大学大学院教授/蟹江憲史

蟹江憲史さん
蟹江憲史(Norichika Kanie)
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。専門は国際関係論、地球システムガバナンス。国連が4年に一度まとめる『グローバル持続可能な開発報告書(GSDR)』において、2023年版の執筆を行う世界の15人の専門家のうちの1人。近著に『SDGs(持続可能な開発目標)』『SDGs入門:未来を変えるみんなのために』など。政府SDGs推進本部円卓会議メンバー/国連大学サステイナビリティ高等研究所客員教授を兼任。2021年8月から約1年間の予定で米国滞在中。

SDG4にかかわる子どものスポーツ

今回は、親として当地で体験している少年野球を通じて感じていることを中心に、子どものスポーツのあり方を考えたいと思います。

スポーツとSDGsという話題を、最近耳にするようになってきました。考えると、多くの人は幼少期に何らかの形でスポーツに触れます。自分の少年少女時代を振り返ってみてください。スポーツの占める割合は、大きくはなかったでしょうか。また、お子さんがいらっしゃる方は、親としてかかわるケースもあることでしょう。

SDGsの目標4にもある教育の質にかかわる問題でもあり、重要な役割を担っているはずなのですが、「課外活動」として案外、軽視されているのも事実です。

11歳の私の長男は、幼いころから野球をやってきたこともあり、2021年夏にアメリカに来てまず始めたのが野球でした。正確には「アメリカに来て」というよりも、渡米前から情報を集め、事前に登録し、8月下旬からの秋シーズンに間に合うように準備をして渡米しました(お父さん、がんばりました)。友達からは、「野球留学か!?」と冷やかされるほどでしたが、不慣れな土地になじむには、好きなことから入ったほうがいいと思ったのでした。

調べていく過程でわかってきたのは、アメリカには一言で少年野球と言っても、極めて多様なリーグがある、ということです。小学校高学年にもなると、野球の初心者もいれば、競技として真剣に取り組む子もいて、技術レベルも多様です。そのことを反映して様々なリーグが存在しています。

登録完了の連絡
渡米前に、現地の少年野球チームから「登録完了」の連絡が来た(筆者提供)

私の来た地域にも、3種類程度のレベルがあることがわかりました。一つは初心者レベルのレク・リーグ。もう一つは、競技レベルのトラベル・リーグ。そして、その中間に位置するセレクト・リーグ。この多様性を見ただけでも、いかにスポーツを大事に考えているかがわかります。

レク・リーグやセレクト・リーグは、主にお父さんコーチが練習や試合を見ていくようです。基本的には大きなスポーツ団体が運営していて、練習は週に1~2回程度。野球に触れ、楽しみながら野球へと導いていくためのリーグと言えます。

トラベル・リーグはその名の通り、少し遠い地域への遠征も含む、競技レベルのリーグです。私の住んでいる地域では、Montgomery County Baseball Association(MCBA)やNorthern Virginia Travel Baseball League(NVTBL)といったリーグがあり、そこでリーグ戦が行われます。これとは別にトーナメント戦もあり、多くのトラベル・チームが参加します。

トラベル・リーグに所属するチームに入るには、トライアウト(選抜テスト)を受けなければなりません。耳慣れないこの言葉、日本のプロ野球選手が、自由契約になった際に所属チームを探す目的で行われるものとして、聞いたことはありました。でも、少年野球のトライアウトとは何をやるのか、最初は見当がつきませんでした。

後になってわかってきたのですが、このようにいろいろなリーグやトーナメントがあることで、当然のことながら勝つ可能性も増えていきます。成功体験が増えれば、子どもたちにも自信がつきますし、そのスポーツを好きにもなっていくでしょう。

どうやら野球だけでなく、バスケットボールやアイスホッケー、水泳など、アメリカの少年少女スポーツの多くには、こうした仕組みがとられている。アメリカはどの競技も強い印象がありますが、競技人口が増え、裾野の広がりができるには背後には、こうした理由がありそうです。

少年野球リーグのサイト
筆者在住地域のリトル・リーグのウェブサイト

専門のコーチ重要 公平性も担保

話を戻しましょう。少年野球には、リトル・リーグもあります。世界的な組織として有名なリーグですが、アメリカでは地域リーグとしてその地位を築いています。人気や強さはまちまちのようですが、情報を集めるなか、私の住む地域では人気もあり、ある程度の強さもあることがわかりました。

数珠つなぎで知り合いになった野球少年のお父さんからは「リトル・リーグでやると楽しいよ」と聞きました。勝ち残ればプレーオフで優勝を争う仕組みがある。選抜チームに選ばれれば、州大会や東海岸地区大会、そしてワールドシリーズへとつながる。

今日本では、小学生の全国大会の善しあしが話題になっています。過度に加熱してしまうようなら、成長期以前の子どもたちの全国大会はやめたほうがいいでしょう。ただ、過熱化しない厳格なルールのもとで、勝ち抜く魅力を残すのであれば、必ずしも反対しません。その経験が子供たちに与える自信や経験はかけがいのないものとなると思うからです。

アメリカのリトル・リーグの場合、地域ごとの分割が明確で、「越境」が発覚すると出場資格が取り消されるほど厳密だといいます。また、リトル・リーグはトラベル・リーグと異なり、ボランティアで運営されているため、ほとんどのチームで、コーチや監督は親の仕事になっています。

リトル・リーグのもう一つの魅力は、希望すればだれでも低額で参加することができる点です。実は、トラベル・リーグで野球をやるには、結構なお金がかかります。専門のコーチを雇う費用や遠征費、ユニホーム代なども必要です。低所得世帯の子どもには奨学金があるとはいえ、アメリカ社会ではお金の有無が教育にもかかわってくることを感じさせる話でもあります。

とはいえ、きちんと対価を払って専門家に指導してもらうというのは、非常に大事なことでもある。日本の少年野球の月謝はリトルリーグと比較できるぐらいだと思いますが、その程度では専門家のコーチは雇えません。

屋内練習場での指導
屋内練習場もあり、監督やコーチがマンツーマンで指導することが魅力のトラベル・リーグ(筆者提供)
グラウンドで体操
グラウンドで体操する選手たち(筆者提供)

結果として、野球経験のある親御さんが監督やコーチとなり、そのことが少年野球の現場で起きているさまざまな問題――技術指導できない・やらない、監督の子どもがひいきされてしまう、指導方法が古い、といった問題の原因になってもいる。

その点、専門のコーチがいれば、ある程度公平性や客観性は担保されるでしょうし、アメリカの親はよく主張するので、自分の子供の起用法などについても、利害関係者を超えた議論ができる環境が確保されているように思います。

ボランティアベースのリトル・リーグと、より専門的なトラベル・リーグといったように、様々な選択肢があることも、多様な要求にこたえ、自浄作用が効く仕組みになっている理由の一つではないでしょうか。

またこのことは、プロ選手の再就職問題にもつながっていると思います。プロ選手としてのキャリア終了後にも指導を続けられる道を作っておくのは、働きがいのある仕事を考えるうえでも重要です。

我が家の場合、トライアウトの期日にはまだ日本にいることが判明しました。事情を話すと、ピッチング、ゴロの処理、バッティングの様子をビデオで撮影して送れば、トライアウトの代替とするという連絡をいくつかのチームからもらいました。そこでビデオを撮って送る一方、どこにも入ることができなかった場合に備え、リトル・リーグにも登録して渡米しました。

さてその結果ですが、我が長男は、最初にオファーが来たBCC Big Trainというトラベル・チームの11U(11歳以下)チームに所属することとなりました。リトル・リーグもせっかく申し込んでいたので、秋シーズンは2チームを掛け持ちすることになったのでした(「やっぱり野球留学だ!」と友人には言われましたが……)。

全員が楽しめるチーム人数 とても大事

アメリカでは、少年野球といえども硬球を使います。軟球が主流の日本の少年野球とは大きく違う点の一つです。バウンドの仕方や飛び方、ボールのとらえ方も変わるので、適応するには時間がかかりました。

しかし、慣れてくると、世界標準のボールを幼い時から使うほうがいいように感じます。何よりも、アメリカの方々は硬球のことを「ベースボール」と呼ぶので、そもそも軟球は「ベースボール」ではないという扱いになってしまいます。

バスケットのボールで練習
練習にはバスケットのボールも取り入れるなど、身体開発の工夫がみられる(筆者提供)

硬球を使うかわりに、子どもたちの健康やケガ対策は徹底しています。球数制限はリーグや年齢によって異なりますが、例えば基本的に1試合で35球前後、それ以上になると2日間は休養を置き、1週間で65球以内、といった具合です。

異なるリーグでプレーする場合は、本人や親が注意しておく必要がありますが、周りも注意喚起してくれます。日本でもようやく球数制限が語られ始めたところですが、しっかりと対策する必要があるように思います。

我が家のようにいくつかのリーグを掛け持ちしている家庭も少なくなく、球数については必ず監督・コーチが親に確認します。今日は何球まで行けるか、次は投げるのか投げないのか、親と監督・コーチが連携し、子どもの成長を見守っているのです。

トラベル・チームにしろ、リトル・リーグにしろ、日本との違いを感じさせるルールはまだあります。

まず、13歳になるころまでは、1チームの人数は12人前後と決まっています。3人休んだとしても、試合ができる人数です。そして何よりも大事なのは、全員が打席に立つところです。平等に機会が与えられる仕組みは、少年野球にはとても大事なことのように思います。

9人野球にこだわるあまり常にベンチを温めるだけの子どもがいては、野球がなかなか好きになれないでしょう。少年野球が子どもの成長と体力づくりに資するためには、そして子どもたちがスポーツの楽しさを十分に味わうためには、全員出場が大前提です。

守備は9人ですから、1回につき3人は休むことができる。球数制限があるので、多くの子どもがピッチャーも経験することになります。こうしたローテーションが、適切な体力づくりや経験となり、成長する機会へとつながっていく。このことは、日本でもぜひ考えてもらいたいと思います。

とはいえ、野球をやるうえでは、上手な子もさほどではない子も出てきます。その点は、例えば打率の良い子は上位打線、打率が悪い子は下位打線というように、工夫しながら競争原理も採り入れているように見受けられ、非常に合理的だと感じました。

試合後の選手たち
試合終了。あいさつのため集まる選手たち(筆者提供)
守備位置や打順を掲示
守備位置や打順を示したボード(筆者提供)

チーム移籍は日常茶飯事

さて、こうして過ごした秋シーズンも、11月には終わりました。日本では、次のシーズンも同じチームに所属するのが基本かと思いますが、こちらでは、シーズン終了とともにチームも解散。継続する人もいますが、自分に合わないチームだと思えば、別のチームに移ることも日常茶飯事です。その冷静さに驚きましたが、多民族国家の人たちはこうした出入りにも慣れているのではないか、とも思わせるものでした。

わが子は、と言えば、せっかく仲良くなった友達との別れを惜しんでいましたが、別の仲良しの友人とは、次のシーズンも同じチームになっていくのでした。

(その2につづく)

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