SDGs ACTION!

VUCAの時代に「平和」をアップデートする 【世界平和経済人会議ひろしまコラボ企画 プロローグ】

VUCAの時代に「平和」をアップデートする 【世界平和経済人会議ひろしまコラボ企画 プロローグ】
広島県提供
世界平和経済人会議ひろしま東京セッション運営委員会代表/佐々木喬史

「平和」は経済・社会活動の根幹であり、SDGsは目標16『公正と平和をすべての人に』を土台にして成り立っています。しかし、その定義は私たちが生きる時代の変化を受けて日々、変化し続けてきました。SDGs ACTION!はこの夏、「世界平和経済人会議ひろしま」と共同で、平和の今日的意味とその実現、経済・ビジネスが果たす役割や可能性を考えます。掲載は「プロローグ」「平和構築」「経済・ビジネス」「チェンジメーカー」の4回。まずは、企画の呼びかけ人となった佐々木喬史さんの論考です。

著者_佐々木喬史さん
佐々木喬史(ささき・きょうじ)
社会課題解決を志向する個人や組織をつなぐソーシャルエージェント。専門領域は「社会的投資、社会的事業」。1980年生まれ。千葉大学卒。金融機関に13年間勤務し、在職中にMBAを修了。その後、グラミン日本の事業立ち上げに参画、事務局長を経験。同時期に国内財団にも参画し、社会的投資の調査研究などに携わる。2019年1月に国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティを設立。2021年世界平和経済人会議ひろしま企画運営委員会委員。

はじめに

「日本は平和な国」「国際平和は、国連や政府が考える問題」「自分の生活には関係のない、どこか遠いところにあること」。私たちは、ついそう考えてしまいがちです。ですが、本当にそうなのでしょうか――。私はこの暗黙の前提のようなものに、一石を投じてみたいと思います。

実は平和には2種類あるとされています。一つは「消極的平和=戦争や暴力がない状態」、もう一つは「積極的平和=貧困・抑圧・差別などの構造的暴力がない状態」です。

「積極的平和」は、SDGsの考え方ととてもよく似ており、私たち一人ひとりの行動やビジネスの力で解決すべき課題を提示し、サステイナブルな社会を築いていくツールです。そして究極的には、冒頭に述べたような、(多くの人が思い浮かべるであろう)「消極的平和」の礎にもなります。

今回、SDGs ACTION!にインタビュー企画を掲載するにあたり、なぜ今あらためて「平和」を考えることが大切なのか、「平和」を考えるその先に私たちは何を学べるのかを一緒に考えていただければと思っています。

「ひろしま」との出会い

2016年10月、私は広島にいました。「ビジネスを通じた平和構築」「マルチステークホルダーパートナーシップ」をテーマに、世界中のビジネスリーダーが集まる国際フォーラムが開催されると聞いたからです。

ちょうどそのころ、ビジネススクールのマーケティングの授業でSDGsという言葉を聞き、世界の社会課題をビジネスの力で解決することはイノベーションにつながる、という考え方に衝撃を受けていた私は、いても立ってもいられない気分だったのです。

会場では、マーケティングの父、フィリップ・コトラー氏が「マーケティング・ピース」を語り、ハーバードビジネススクールの竹内弘高教授が世界経済フォーラムのヤンググローバルリーダーと対話を繰り広げる――そんな光景を目の当たりにしました。

世界のビジネスリーダーが平和を語っている。その光景は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。これが「世界平和経済人会議ひろしま(当時は国際平和のための世界経済人会議)」との最初の出会いでした。

私は、地域金融機関で最初のキャリアをスタートし、その後、流通系銀行を経て現在は社会的投資の普及促進、生活困窮者の経済的自立支援など、金融をバックグラウンドとしたソーシャルエージェントとして活動しています。

金融の世界に身を置きながら、私の中にはずっと一つの違和感がありました。金融は経済の血液で、社会を良くすることを使命とし、私たちの生活に生命感や躍動感を与えるもの。無機質なマネーゲームではないはずですが、現実には「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」一方で、むしろ格差と分断を助長しているのではないか、と。

そんな私が、ビジネススクールでの学びをきっかけに、「ソーシャルビジネス」と「ソーシャルファイナンス」に出会い、ソーシャルワークへと歩みを進めていくことになったのです。

「2016国際平和のための世界経済人会議」にて、ハーバードビジネススクール竹内弘高教授と世界経済フォーラムのヤンググローバルリーダーとの対話の様子
「2016国際平和のための世界経済人会議」にて、ハーバードビジネススクール竹内弘高教授と世界経済フォーラムのヤンググローバルリーダーとの対話の様子(広島県提供)

経済人が平和を掲げる意義

ビジネススクールでは、次のようなことを学びました。

・世界の貧困問題解決に革新をもたらした「マイクロファイナンス」と「ソーシャルビジネス」

・財務的利益だけでなく社会にポジティブインパクトを生み出す事業に投資する「インパクト投資」

・ビジネスの本業を通じた社会的利益と経済的利益の両立を目指す「CSV(共有価値の創造)」

・異なるセクターが特定の社会課題解決のために協働するアプローチ「コレクティブインパクト」

どれもが「ビジネスの力を社会課題の解決に振り向ける」ことであり、それを「コストではなく投資」と考える視点でした。経済的発展や利益追求と環境破壊や貧困・格差はトレードオフの関係という常識を覆し、「共存共栄」を志向していたことに衝撃を隠せませんでした。

これは、持続可能な開発を目指すSDGsの思想とも重なるものであり、なかでも目標16「平和」、目標17「パートナーシップ」の概念に通じるものがあるように思えました。「ビジネスの力で(積極的)平和を構築しようとする試みは、私たちが直面する社会的・経済的課題とも密接に関係していて、その解決に広く応用できるのではないか」

平和は、核兵器や戦争の対義語ではありません。まもなく戦後80年を迎えようとしているVUCAな現代において、そのような平和を語るだけでは、世界の中の日本が直面するさまざまなリスクに対処できません。

一方で私たち日本人はDNAとして平和(な心)を無意識に受け継いでおり、実はそこから学べることがある――それを私は「平和思考」と呼んでいます。

「平和あっての経済、経済あっての平和」であり、私たちの暮らしを守るための金融・経済活動は、日常の平和を脅かすような貧困や格差のない共存共栄の社会構造の上に成り立ちます。金融・経済活動の主体である経済人が平和構築を語る「世界平和経済人会議ひろしま」だからこそ、平和思考を呼び覚まし、そのような人材(=チェンジメーカー)や共創ビジネスを創出できるのではないか。

そんな仮説はまさに私が感じていた違和感への一つの解であり、ソーシャルワークを通じて実現したい世界観でもあります。

「国際平和のための世界経済人会議 東京セッション」にて、湯崎英彦・広島県知事のビデオメッセージが流れる会場
「国際平和のための世界経済人会議 東京セッション」にて、湯崎英彦・広島県知事のビデオメッセージが流れる会場(国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティ提供)

フィリップ・コトラーやジャック・アタリも

今年で7回目となる「世界平和経済人会議ひろしま」は、ビジネスと平和構築のあり方との関係を多面的に議論する場です。原爆ドームを五感で感じ、平和に思いを馳(は)せる。そのような空気感に包まれる場を共有する人たちと対話する――これはとてもシンボリックで、そこでしか得られない特別な体験です。

国内外の叡智(えいち)やビジネスリーダーが結集するこの場には、これまでに冒頭に述べたフィリップ・コトラー氏(ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院教授)や、ジャック・アタリ氏(元フランス大統領特別補佐官)、小林喜光氏(経済同友会元代表幹事)らが基調講演に招かれました。

スタートアップや世界のリーダーの力強い言葉も印象に残っています。

「起業家をネットワークしていくことで、コレクティブインパクトを創っていく」
(孫泰三、Mistletoe株式会社代表取締役)
「マーケターの強みを使って、世界平和のために顧客やコミュニティのエンゲージメントを創るのです」
(ブレイディー・ブリュワー、スターバックスコーヒージャパンCOO)

2020年以降、経済同友会や金融界のエグゼクティブからもイニシアチブへの参画を得て、参会者はさらなる広がりを見せています。2021年には広島アピールを宣言しました。2023年5月にG7サミット(主要7カ国首脳会議)の開催を控える広島にとって、経済界がくみするこのイニシアチブは重要な意味を持ちます。

2016年の出会いから2年後、ソーシャルワークにキャリアチェンジした私は、「フォロワーではなくリーダーとして、イニシアチブに参画したい」という思いが高まっていました。そして2019年、いわばスピンアウトした活動として、「世界平和経済人会議ひろしま」に参加していた有志とともに立ち上げたのが、「国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティ」です。2021年に初のコミュニティとしてライセンス認定されました。

「ひろしま×東京」の架け橋となり、「平和×ビジネス=平和思考」に基づく「空気づくり・人づくり・場づくり」のコミュニティを開発・運営し、ひろしまの平和の取り組みを支援しています。

「<span>2019</span>国際平和のための世界経済人会議」アフターパーティーにて、湯崎英彦・広島県知事を囲む筆者と有志メンバーたち
「2019国際平和のための世界経済人会議」アフターパーティーにて、湯崎英彦・広島県知事(中央)を囲む筆者と有志メンバーたち(筆者提供)

今回の企画に込めた思い

今回、SDGs ACTION!と共同で立てた企画を通して読者の皆さまに伝えたいのは、決して、「戦争と核兵器のない世界秩序を創る」という壮大なテーマではありません。

「平和」の定義をアップデートし、対話し、そこから導かれる普遍的価値を学ぶことを通じて、個人と企業の「SDGs ACTION!(=社会変革のための行動)」を後押ししたいと思っています。

平和が意味する普遍的な価値の一つは「共存共栄」です。それは、SDGsが掲げる「誰一人取り残されない社会」でもあり、私たちの金融・経済活動のあり方そのものへの問いかけです。

SDGsが示す社会課題が、直接または間接的に金融・ビジネスのあり方が生み出した副作用だとすれば、それらを処方できるのもまた金融・ビジネスのあり方のはずです。その社会変革には、新しい発想で行動できる人材とビジネスモデルが必要とされます。

世界経済フォーラム(ダボス会議)で提唱されたステークホルダー資本主義、日本政府が掲げる新しい資本主義、そして2023年5月に広島で開催されるG7。これらは、日本が、経済界が、平和のDNAを持つ日本ならではのリーダーシップを世界に示す絶好の好機です。よろしければ皆さんも今年9月8日に開催される「世界平和経済人会議ひろしま」に参加しませんか?

北極星のようにきらめく平和は、世界中の人々が共有する道しるべです。一人でも多くの方に、社会変革の行動が萌芽(ほうが)することを願っています。

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