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HRテックとは? 注目の理由や代表的なサービス、メリットを解説

HRテックとは? 注目の理由や代表的なサービス、メリットを解説
HRテック(HR Tech)とは?(デザイン:増渕舞)
HRサクシードCEO/笠井博志

HRテックとは、人事(HR:Human Resources)が抱える課題を、クラウド型ITシステムなどのテクノロジー(Technology)を使って解決する取り組みを示した言葉です。この記事では、多くの企業の人事を支援している専門家が、HRテックの基本をわかりやすく解説します。

著者_笠井博志さん
笠井博志(かさい・ひろし)
新卒で大手人材サービス会社に入社後、複数の上場企業に在籍して新規サービス開発、部署立ち上げを行う。上場子会社の取締役として子会社の設立にも参画。現在はDXベンチャーに在籍しながら、自身でもベンチャー・スタートアップ企業を中心に、人材紹介事業の立ち上げのサポートや採用のコンサルティングを行う会社を運営している。

1.HRテック(HR Tech)とは

HRテックとは、HR(Human Resources)とテクノロジー(Technology)をかけあわせた造語で、人事領域(採用、人事、教育、評価、労務など)が抱える課題を、テクノロジーの力を使って解決することを目的とした取り組みです。人事向けに開発されたITシステムを指すときもあります。

デロイト トーマツ ミック経済研究所が2022年3月11日に発表したプレスリリース「HRTechクラウド市場の実態と展望 2021年度版」によれば、HRTechクラウド市場は2026年度まで年平均成長率31.5%で成長を続け、2270億円に拡大するとされています。

HRTechクラウド市場の中期予測
出典:デロイト トーマツ ミック経済研究所「HRTechクラウド市場の実態と展望 2021年度版

これは、人事業務が、社会的環境や雇用環境の変化を受けて、増加したり多様化したりしていることが要因でしょう。例えば、新型コロナウイルス感染症拡大によってテレワークが促進され、新たな人事の仕組みが求められるようになっています。正社員以外の働き方が増えて多様な評価方法を用意したり、人材市場の流動化によって採用方法を見直したりする必要も出てきています。

このような状況から、人事業務を効率化させなければならないと考える会社が増えてきたことで、右肩上がりになっているといえます。

また、人事業務の効率化は、ダイバーシティー(多様性)や、従業員の公正性・心理的安全性・健康を担保した組織運営を促進するため、SDGs(持続可能な開発目標)の次の目標達成にも寄与します。

・目標3「すべての人に健康と福祉を」

・目標5「ジェンダー平等を実現しよう」

・目標8「働きがいも経済成長も」

・目標10「人や国の不平等をなくそう」

SDGs目標3、5、8、10のアイコン

最近は、「その会社がSDGsの達成のために活動しているのか」を基準に消費活動を行う人や、ESG投資(環境・社会・ガバナンスそれぞれに配慮している会社への投資)を行う投資家が増えています。HRテックの市場が盛り上がっているのには、こうした時流もあげられるでしょう。

2.HRテックの領域と主なサービス

人事業務は採用や労務など多岐にわたるため、HRテックがカバーする領域も多くあり、その領域にある業務を効率化させるために開発されたサービスも多様です。

以下で、それぞれの領域と、代表的なサービス(ツール)をご紹介します。

(1)採用管理

HRテックの領域のひとつが採用管理です。採用管理には求人サイトから応募があった情報を集約して、選考情報のオペレーションを一括管理するという業務がありますが、ここ数年、採用手法の多様化による管理の難しさが目下の課題としてあります。

筆者が知る会社からも、「人手が足りないので自社にマッチする人材を何とかして採用したいと思い、複数のサイトに求人を出したはいいものの、応募情報を一元管理する手間が増えて困っている」という声がありました。

こうしたなか、あらゆる求人媒体の応募者情報を自動で取り込み、一括で管理できる採用管理システムが登場してきています。例えば、次のようなサービスです。

● HRMOS(ハーモス)/株式会社ビズリーチ

● HITO-Linkリクルーティング/パーソルプロセス&テクノロジー株式会社

● RPM/株式会社ゼクウ

(2)労務管理

労務管理の分野では、人材情報を一元的に閲覧・活用するために、データ入力して管理する業務がありますが、課題を抱える会社が少なくありません。

例えば、人事担当者が入社前の情報をその都度、データ入力していて、大きな負担がかかっているという課題です。以前、筆者が在籍していた会社でも、紙の履歴書や職務経歴書を、人事担当者が残業して入力をしているという場面によく遭遇しました。

最近では、こうした課題を解決するために、入社する前の人に、必要な情報を自ら直接システムに入力してもらうようにできるシステムがリリースされています。

これ以外にも、働き方改革の影響で複雑化する既存の従業員の人事情報(契約内容など)を、一元的に管理できるサービスも提供されています。

労務管理の代表的なサービスには、次のようなものがあります。

● jinjer労務/jinjer株式会社

● SmartHR/株式会社SmartHR

● オフィスステーション/株式会社エフアンドエム

(3)給与計算

給与計算は、毎月◯日までといったように計算を終わらせる時期が決まっていながら、従業員の勤怠情報がそろわないと開始できない業務です。勤怠情報に漏れや不備があると、本来給与計算をする時間をその確認にあてることになり、短時間で給与計算をしなければならなくなります。従業員の勤怠管理がうまくできていない会社は、人事担当者が長時間の残業をしたり休日出勤したりすることが起きがちです。

筆者が在籍していた会社でも、人事担当者が給与計算のために休日出勤をするのが常態化しており、大きな課題になっていました。

こうしたなか、HRテック要素を備えている給与計算システムは、勤怠管理システムと連携していることが多く、勤怠情報の入力が終わった段階で、ほとんどの情報がすべて移行されるため、給与計算業務を大幅に簡易化できるという特徴があります。

現在、給与計算の領域には、次のようなサービスがあります。

● マネーフォワード クラウド給与/株式会社マネーフォワード

● 人事労務freee/freee株式会社

● 給与奉行クラウド/株式会社オービックビジネスコンサルタント

(4)勤怠管理

コロナ禍によるリモートワークの拡大や働き方の多様化、働き方改革による有給取得の義務化や長時間残業の抑制などの点から、より一層適切な勤怠管理が求められるようになってきています。

これらの課題に適応したきめ細かい機能を備えているHRテックサービスが増えてきており、今後、より多くの会社で活用されると予想されます。代表的なサービスは、次の三つです。

● ジョブカン勤怠管理/株式会社DONUTS

● KING OF TIME/株式会社ヒューマンテクノロジーズ

● タッチオンタイム/株式会社デジジャパン

(5)目標/エンゲージメントの管理

近年では、日本でも転職文化が浸透し始め、会社は従業員の離職を防ぐために、適切な目標管理とエンゲージメントの管理が不可欠となっています。

OKR(Objectives and Key Results:目標と主な成果)や1on1(主に上司と部下で行われる1対1の面談)を通して定めた目標などを基準に、一貫性を持って育成と評価を行えば、社員の納得感はおのずと増します。そのため、まずは従業員ごとに立てた目標や育成・評価の方針を一元管理することが重要であり、このニーズに応えるシステムが多く登場してきています。

また、システムによっては、目標やエンゲージメントに関する情報を定量化し、経営戦略に活用することも可能です。

現在、目標/エンゲージメントの管理を効率化させるサービスには、次のようなものがあります。

● あしたのクラウドHR/株式会社あしたのチーム

● カオナビ/株式会社カオナビ

● HRBrain/株式会社HRBrain

3.HRテックのメリット

次に、HRテックに取り組むメリットをご紹介します。

(1)人事本来の価値創出

あまり知られていませんが、人事業務というのは幅広く、膨大です。例えば、大量採用をしている会社の人事担当者は、1日5件以上の面接をこなし、空いた時間もしくは夜に面接の日程調整をしています。従業員が1000人以上の会社は、月末の勤怠確認や月初の給与計算で、夜遅くまで残業しています。

また、最近は、人事担当者にかかる負担がさらに大きくなっています。採用、入退社、給与、労務管理、教育、評価といったこれまでの業務に加え、メンタルヘルス、ES(Employee Satisfaction:従業員満足度)向上、1on1の仕組み化など、より広い範囲を見たり、逆に個別具体的に対応したりする必要がある業務も増えてきています。

このような状況下で、新型コロナウイルス感染拡大の影響でリモートワークを導入したはいいものの、人事管理体制が整っていないのですぐに仕組みを構築してほしい、と依頼されるケースもあります。

HRテックは、こうした人事担当者の負担を軽減し、むしろ効率化を図るための取り組みです。HRテックを実現するためのサービスを導入すれば、人事担当者は目の前の業務に忙殺されにくくなり、社員と向き合う時間を作れるようになるでしょう。

また、人事が深く関わる【人】は、「企業は人」といわれるほど、経営の主軸となるリソースです。人事が本来の役割を果たせるようになれば、会社全体のパフォーマンスもおのずと向上することになります。

(2)データ活用による戦略的人事の実施

人事業務の本質は、会社組織の成長を中長期的な目線から常に考えることです。ここで重要なのは事実に基づいた傾向分析と意思決定であり、人事担当者はそのために定量的人事情報を集約し、報告をし続ける必要があります。

そこで活躍するのがHRテックです。この取り組みのなかで便利なサービスを導入すれば、人事にかかわる多様で膨大な情報を自動で収集できるようになり、それを基に経営陣が行う意思決定支援をより的確な形でサポートすることも可能になります。

(3)人事担当の労働環境改善とリテンション

前述したように、人事担当者は、その業務量の多さから常に何らかのタスクに追われています。会社の労働環境を守るための業務で、人事担当者自身の労働環境が悪化している、というのはあってはならないことです。対策しないままでいれば、退職リスクも上がるでしょう。HRテックを使えば、こうした事態の回避につながります。

最近では、会社は、労働者が平等な待遇を受けられるように、労働環境を継続して改善することが求められています。それを実現するには人事担当者にどうしても頼らざるを得ないため、HRテックはむしろ不可欠なものといえるでしょう。

4.HRテックの導入手順

HRテックを導入するときは、主に次の手順で進めます。

1. 会社全体の経営ポリシーと戦略を再度理解する

2. 課題を横断的に明確にする

3. 課題に応じたサービスを選定する

4. 複数のHRテック会社に相談する

詳しく見ていきましょう。

(1)ステップ1.会社全体の経営ポリシーと戦略を再度理解する

まずは、会社全体の経営ポリシーと戦略を再確認しましょう。人事担当者は、経営の重要なリソースである【人】に携わるポジションであり、経営陣の意思=経営ポリシーや戦略に寄り添った行動が求められます。それはHRテックの導入においても例外ではありません。

(2)ステップ2.課題を横断的に明確にする

次に、会社内での人事課題を横断的に明確にします。局所的に「採用をしたいから」「eラーニングが必要だから」などではなく、会社全体の人事プロセスの全体像をオープンにして、定量データをもとに、どこが課題なのかをあきらかにしていきましょう。

(3)ステップ3.課題に応じたサービスを選定する

現在、HRテックサービスを提供している会社は、大きく2種類に分けられます。ひとつは、ジョブカンやjinjer、マネーフォワードなど、各人事フェーズを網羅するような形のHRテックサービスを展開する会社です。もうひとつは、SmartHRやカオナビなど、人事領域のある一部分に強いサービスを提供している会社です。

どこが課題なのかを把握したうえで、もし課題が多岐にわたり、中長期でシステムをリプレースしていくことを見据えるなら前者、課題が局所的であれば後者の導入を検討するとよいでしょう。

(4)ステップ4.複数のHRテック会社に相談する

課題にあわせて、サービスを複数選定したら、それぞれの担当営業と打ち合わせをします。

人事領域は社外秘情報もあるため、すべてを伝えることは難しいですが、経営ポリシーと人事課題はしっかりと伝えましょう。そのうえで、検討中のHRテックサービスが、こちらのニーズを満たせるかを率直に聞くのが、非常に大切です。間違っても価格ありきで選定することだけはやめましょう。

また、HRテックは、導入時に人事情報や採用情報の移行やインポートをする業務がしばしば発生します。その際にどこまでサポートをしてくれるかという確認も、サービスの選定条件のひとつにしてもよいでしょう。

5.HRテックの導入前に、自社を見つめなおすことが大切

HRテックを体現するときは、サービスの選定が不可欠です。

今は利便性の高いサービスが多くあり、初期導入コストが1アカウント数百円と意外と安いこともよくあります。ただ、なぜ導入をするのか、何を成し遂げたいのかをとことん掘り下げていかないと、「導入したはいいものの、本来やりたかったことができない」「サービスを使いこなせず、結局、元のスプレッドシートで運用している……」といったことになりがちです。

そのためにも、まずは自社を見つめなおすつもりで、関係各所にヒアリングをしながら人事が抱えている課題をひとつひとつ探していきましょう。

また、自社に適したHRテックサービスを導入できたとしても、そのサービスを人事担当者がうまく使いこなせているか、期待した結果につながっているか、定期的に確認することも大切です。利用状況や効果に応じて、運用ルールを適宜変更するなどの柔軟な対応も、HRテックの体現につながります。

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