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ビジネスが平和のためにできることは? 【世界平和経済人会議ひろしまコラボ企画】

ビジネスが平和のためにできることは? 【世界平和経済人会議ひろしまコラボ企画】
加治慶光・シナモンAI会長=2022年8月10日、東京都中央区
シナモンAI会長/加治慶光

「世界平和経済人会議ひろしま」とSDGs ACTION!の共同で、平和とビジネスのあり方を考える企画。インタビューの第2回は、同経済人会議の特別顧問を務める加治慶光・シナモンAI会長です。平和な社会を築くためにビジネスに何ができるのか、考えを聞きました。(インタビューは2022年8月10日実施、聞き手 編集部・竹山栄太郎)

加治慶光(かじ・よしみつ)
愛知県出身。富士銀行(現みずほ銀行)、広告会社に勤務後、米ケロッグ経営大学院でMBA取得。日本コカ・コーラや日産自動車勤務を経て2011年から3年間、内閣官房官邸国際広報参事官を務める。その後、外資系コンサルティング会社のアクセンチュアに転じ、現在は人工知能スタートアップ・シナモンAIの会長兼CSDO(チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー)。「世界平和経済人会議ひろしま」では2016年会議の実行委員長を務め、現在は特別顧問。

世界平和経済人会議ひろしまとは
「国際平和」をビジネスの重要なプラットフォームとして位置づけ、企業やNGOなどの各主体が参加して、ビジネスと平和貢献のあり方の関係を多面的に議論し、真に平和で持続可能な国際社会につなげることを目指す枠組み。2013年に初めて 「国際平和のための世界経済人会議」を開催し、被爆から75年を迎えた2020年からは「世界平和経済人会議ひろしま」に改称して続けている。2022年は9月8日に7回目の開催を予定している。

内閣官房の仕事で「調和」意識

――ビジネスパーソンとして、様々な業界で活動してこられました。これまでと現在のお仕事について聞かせてください。

バブル前夜の1986年、都銀からキャリアをスタートし、飲料や映画、自動車会社で勤務してきました。転機となったのは、内閣官房にできた国際広報室のメンバーに公募で選ばれ、2011年から3年間勤務したことです。元々は積極的に日本のことを世界に打ち出すのが目的だったのですが、すぐに東日本大震災が起き、津波の被害や原発の状況を発信するのがミッションとなって、たいへん苦労しました。最終年には2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致にも関わりました。この3年間で、人と自然とテクノロジーの調和は可能なのかということをすごく考えるようになりました。

現在は、2016年にできたスタートアップのシナモンAIで会長兼CSDO(チーフ・サステナブル・デベロプメント・オフィサー)を務めているほか、鎌倉市のスマートシティ推進担当参与でもあり、日立製作所のルマーダ・イノベーション・ハブという組織にも参画しています。

――平和を意識する原点のような体験はおありですか。

小学生のとき、夏休みの宿題で(長崎への原爆投下を描いた児童書)『八月が来るたびに』の感想文を書いて賞をもらったことをきっかけに、心のなかでささやかに、平和のことを意識してきました。

社会人になってからも、原発に関する広報や「平和の祭典」であるオリンピック・パラリンピックの招致などを通じて平和をどう形にしていくかが常に頭の片隅にあったのですが、直接的に「平和」という言葉を冠した活動に携わるようになったのは「世界平和経済人会議ひろしま」が初めてです。平和とビジネスを結びつけようという広島県の湯崎英彦知事のリーダーシップは素晴らしいと思いました。2016年会議に、私がケロッグ経営大学院で師事したコトラー教授を招聘(しょうへい)するということでお手伝いすることになり、その後も会議に関わっています。

ウクライナ危機でサプライチェーンに懸念

――経済人の立場から、ロシアのウクライナ侵攻をどうみますか。

この戦争の影響は、エネルギーや食料の問題をはじめ、さまざまな面で経済にボディーブローのように効いてくると思います。一刻も早くこのような状況が終わることを祈るばかりです。

経済で特に懸念されるのは、サプライチェーン(供給網)の問題です。「フレンド・ショアリング」という言葉があります。これは、ロシアのようにリスクのある国をサプライチェーンから排除し、友好国だけで完結するように組み直すことを意味します。その結果、物価の高騰や、適切でない原材料で妥協するということが起きるとみています。この切り替えは、我々の生活にひたひたと影響を及ぼすのではないでしょうか。

8月に入り、米下院議長の台湾訪問で中台関係に緊迫感が高まるといった問題も起きています。現状変更の動きに対して自由主義社会の国々が果たすべき役割も非常に重要になってくるでしょう。

<span>加治慶光・シナモンAI会長</span>

進んだ距離より進む方向

――ビジネスは、平和のために何かできるのでしょうか。

「ビジネスができること」の領域を少しずつ広げていくのが重要です。例えば、気候変動。2015年9月に採択されたSDGsと同年12月に結ばれたパリ協定、この二つが登場するまで、ビジネスと環境や気候変動は遠いものだと認識されていました。両者を結びつけたのは、SDGsが果たした役割の一つです。

我々の経済人会議の意味合いも、平和とビジネスの間にブリッジを築いて距離を縮めていくことではないかと思っています。

――とはいえ、多くのビジネスパーソンにとって、平和と自分の仕事を結びつけて考えるのは難しいのではないでしょうか。

直接的に結びつく必要は、必ずしもありません。たくさんの人の心の中に平和への希望や渇望が増えれば、世の中は少しずつ変わっていくのではないかと私は思っています。

日々の仕事を常に平和に差し向ける必要はないけれども、平和を心の片隅に置きながら営むのとそうでないのとでは、少しだけ角度が違ってくる。その角度の差がたった1度や2度でも、10年後の到達点は違ってくるでしょう。

過去の経済人会議で、ある参加者がこんなことを言っていました。「平和とは北極星のようなもの。宇宙のどこかに存在し、みんなに見えているが、どうやってたどり着いたらいいかは誰にもわからない。しかし、そこを目指しているとき、向かっている方向が正しいと実感できる」。それを聞いて私は、進んだ距離よりも進む方向を大事にしたいと考えるようになりました。

大事なのは「平和を考える総量」を増やすこと

――世界平和経済人会議ひろしまについてお伺いします。広島でこのような会議を開く意義は何でしょうか。

広島は人類が最初に原爆を使った場所で、長崎は最後に原爆を使った場所です。この二つの場所が持つ意味を問うていくことは、すごく重要です。

広島平和記念公園と資料館を設計した建築家の故丹下健三氏は、原爆ドームの解体に大反対し、「平和の軸線」をつくりました。2021年に公開された映画「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)のなかでも、この平和の軸線をめぐるエピソードが語られています。建築家や映画監督といった人たちが、それぞれ自分のできる仕事のなかで平和に貢献しようとした。我々の会議も、このような輪を広げていくことに大きな意味があると思います。

――印象的なエピソードや、成果と感じられたことはありますか。

やはり、知事のリーダーシップの下、コトラー教授や県の職員のみなさま、多様なボランティア、世界中からの参加者のみなさまと共に作り上げた2016年の会議でしょうか。実行委員長を務めた私は、過去に参加したダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)の手法を取り入れられないかと考えました。例えば、会議場の真ん中にいすを円形に並べてディスカッションし、周りをみんなで囲むスタイルです。テーマの選び方や進行も「ダボス会議風」にしてみました。一方通行になりがちな日本の既存の会議とは、かなり違った雰囲気にできたと思います。

「2016国際平和のための世界経済人会議」の様子
「2016国際平和のための世界経済人会議」で、ハーバードビジネススクール竹内弘高教授と世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーズとの対話の様子(広島県提供)
ダボス会議の一コマ
2022年のダボス会議の一コマ(世界経済フォーラム提供)

世界経済フォーラムが選ぶヤング・グローバル・リーダーズの面々も招きました。被爆者に会ったり、平和記念資料館を訪れたりし、心に残る思い出になっているそうです。

経済人会議はそれ以降も毎年、一定の成果を挙げていますが、それで急に平和が実現されるとは考えていません。重要なのは人々が平和のことを考える総量を増やすこと。私は常にそれを心がけています。

講演する加治慶光さん
「国際平和のための世界経済人会議 東京セッション」で、SDGsと平和、ビジネスとの関係性をプレゼンテーションする加治慶光さん(国際平和拠点ひろしま+東京コミュニティ提供)

リスクを理解しビジネスチャンスに

――9月8日の世界平和経済人会議ひろしまは、ウクライナ危機が起きてから初めての開催になります。どのような会議にしたいですか。

今世界で起きているのは、パンデミックもウクライナ危機も気候変動も、以前から予想されていたことです。世の中の大きな動きをよく見ていくと、いろいろなリスクがわかります。ビジネスパーソンはそれをよく理解したうえで、自分たちの「飯の種」を探していくべきです。会議はそのヒントになればと思っています。

私はよく、「SDGsはビジネスチャンスのリストだ」と申し上げています。SDGsは2030年まで、世界中がその方向に向かうと宣言しているわけです。VUCAな時代において役立つリストであり、実際にSDGsをそのように使っている企業も多いでしょう。

その目標16には「平和」と書かれています。遠い存在と思われがちな平和とビジネスの距離を、SDGsをうまく使って縮めていけたら。ビジネスパーソンのみなさんは、「自分の仕事の角度をちょっとだけ変えたら、平和にどう近づくんだろう」と発想してみてはどうでしょうか。

加治慶光さん
竹山栄太郎
竹山栄太郎 ( たけやま ・えいたろう )
朝日新聞SDGs ACTION!副編集長。2009年に朝日新聞社入社。京都、高知の両総局を経て、東京・名古屋の経済部で通信、自動車、小売りなどの企業を取材。2021年にSDGs ACTION!編集部に加わり、2022年11月から副編集長。
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