【SDGs岩佐賞】闘病中の子どもたちに笑顔を届けたい 〜第1回受賞者との記念トーク

「SDGsジャパンスカラシップ岩佐賞」(SDGs岩佐賞)の第1回受賞者が、この秋発表されました。見事、受賞を果たした34の団体・個人のうち、「医療の部」で選出された団体の一つが、こども病院での動物介在療法を推進する認定NPO法人シャイン・オン・キッズです。「お礼と活動報告をしたい」と、事務局長のニーリー・美穂さん、ファシリティドッグ・ハンドラーの大橋真友子さんが、主催者である岩佐教育文化財団の岩佐実次代表理事を訪ねました。
院内みんなを癒やす犬の温もり

岩佐 今日はようこそお越しくださいました。SDGs岩佐賞の受賞、おめでとうございます。
ニーリー 選出いただき、とても光栄です。本当にありがとうございます。
岩佐 この子がファシリティドッグのアイビーですね。私も長らくワンちゃんと一緒に暮らしていましたが、犬というのは、そばにいてくれるだけで気持ちが穏やかになり、元気をもらえますよね。この温もりにも本当に癒やされます。
大橋 そうですね。「ファシリティドッグ」とは病院などの特定の施設で働く犬のことで、入院中の子どもと触れ合ったり、つらい検査や処置の際に付き添ったりします。相手の気持ちや場の状況もちゃんと察するんですよ。「いま、自分がこの子のそばにいなきゃ」ということがわかるみたいで……。
お子さんだけでなく、付き添っているご家族にも喜ばれますし、医師や看護師らスタッフにも安らぎを与えてくれる存在です。移動中にエレベーターで偶然乗り合わせただけでも、「アイビーに会えてうれしい、今日も一日頑張れそう」と言ってもらえるんです。

岩佐 アイビーは病院中のスターですね。アイビー自身も使命感を感じているんじゃないですか?
大橋 本当にその通りで、病棟にいる時のアイビーは、「わたし、仕事しています!」って誇らしげな顔つきで歩いています(笑)。シッポをブンブン振りながら楽しそうに。
ニーリー アイビーが3年前から「職員」として働いているのが、東京都立小児総合医療センターです。コロナ禍でご家族の面会が制限されたり、様々なイベントがなくなったりするなかでも、病院の要望でファシリティドッグの活動は継続することができました。「アイビーが入院生活の唯一の楽しみだった」「アイビーに会って絵を描くことが、つらい治療を乗り越える目標になった」というお子さんもいました。
一人の子どもの死が、活動のきっかけに

岩佐 素晴らしい取り組みですね。もともと、どういう経緯でこの活動を始めたんですか。
ニーリー きっかけは、現理事長のキンバリ・フォーサイスが、自身の息子を日本での闘病の末に小児がんで亡くしたことでした。「日本の医療にもっと心のケアを」との思いで、団体を立ち上げたのが2006年。その後、ハワイでファシリティドッグの存在を知り、日本でも導入したいと現地の団体に直談判し、2010年に日本初となるファシリティドッグを静岡県立こども病院に導入しました。
活動は少しずつ広がり、国内ではいま、静岡県立こども病院、神奈川県立こども医療センター、東京都立小児総合医療センター、国立成育医療研究センターの4病院で四つのチームが働いています。
岩佐 ファシリティドッグになるための訓練は、やはり大変なものですか。
ニーリー そうですね。ファシリティドッグは、国際基準に則った「ポジティブトレーニング」という訓練方法で育成します。Sit(座れ)、 Visit(頭を乗せて)といったコマンド(命令)を約90も覚えるほか、色々な環境や多様な人に慣れる訓練もします。
さらに、大橋のようなハンドラーになれるのは、専用のトレーニングを積み、臨床経験のある医療従事者のみ。ファシリティドッグになる犬も、それを扱う人も、時間をかけて大切に育てる必要があります。
受賞を機に、広く存在を知ってもらえたら

岩佐 この「SDGs岩佐賞」は、「陰日向になって社会のために活動している人を支えたい」「先行きの見えないいまの時代に、未来への希望を持ってほしい」という思いで創設しました。皆さんが応募したきっかけは何でしたか。
ニーリー WEBサイトでSDGs岩佐賞の存在を知り、未来のために、子どもたちのために、という理念に共感しました。岩佐代表理事がインタビューで話されていた、「若い頃に色々な人に助けてもらったから、今度は自分が社会に恩返ししたい」という言葉も心に迫るものがありました。それから、賞金額が大きいことも大変魅力に感じ、応募してみることにしました。
というのも、私たちの活動を広げていく際の最大の課題が、資金の確保なんです。トレーニング費やエサ代、人件費など直接経費だけでも1チームあたり年間1000万円ほどかかりますので……。寄付を募ったりクラウドファンディングに取り組んだりもしていますが、まだまだ資金が不足しているのが実情です。
来年からは、日本国内でファシリティドッグの本格的な育成を始めます。これまではハワイでトレーニングされた犬を迎え入れていましたが、今後は日本でも育てていきたいなと。そのための施設作りや人員の増員などに資金が必要ですので、今回の賞金を大切に使わせていただきます。

大橋 いまも「ファシリティドッグを導入したい」というお問い合わせは多数いただくのですが、安全性や衛生面の懸念から、受け入れ側の意見が最終的にまとまらない、ということもあります。
動物介在療法に関する社会全体の理解を促すためにも、私たちがすべきことは、まず絶対に事故を起こさないこと。そして、質のいいファシリティドッグを育成すること。日本ではまだ認知度が低く苦労も多いですが、ファシリティドッグを取り巻く環境全体を底上げすることも、私たちの使命だと思っています。
ニーリー 朝日新聞の見開きに受賞者発表が載った日は、スタッフ一同感激しましたし、賞の重みを感じて、気の引き締まる思いがしました。この受賞を機に、一人でも多くの方々に私たちの活動内容と意義を知っていただけたらうれしく思います。
全国のこども病院に当たり前にファシリティドッグがいて、子どもたちに寄り添っている──。そんな未来を、私たちは本気で目指しています。そしていずれは、活動の場を広げていけたらと思っています。
「未来を明るく」 志ある人はぜひ応募を

岩佐 今日お話しして、有意義な活動内容にあらためて感心しましたし、受賞を喜んでくださっている姿に、「この賞を立ち上げて良かった」と心から思いました。いまは第2回の募集中ですが、その後も第3回、4回、5回と頑張って続けていかなければいけませんね。
ニーリー SDGs岩佐賞の受賞に値する素晴らしい活動をされている方々は、ほかにもたくさんいらっしゃると思いますので、この賞が今後もずっと続くことを私たちも願っています。
大橋 「自分たちの取り組みが未来を明るくするんだ」という信念を持って活動している方は、迷わず応募してみるといいと思います。教育、福祉、環境などフィールドは違っても、同じ志を持った方の活動を私たちも応援したいです。
岩佐 第2回のエントリー締め切りは、2022年12月6日(火)です。今回も選考委員の皆さんと一緒にしっかりと審査いたしますので、我こそはという方、ぜひご応募ください。第1回で受賞されなかった方の再チャレンジも歓迎です。
ニーリー 今日はアイビー共々、岩佐さんにこんなにもあたたかく迎えていただいて、うれしかったです。今後も精いっぱい頑張っていきます。ありがとうございました。
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