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(安倍政治を問う)TPP、不安増す農家 公約の転換「裏切りだ」

 【古谷祐伸、編集委員・小山田研慈】北海道芽室(めむろ)町の畑作農家、岩井和彦さん(32)の思いは揺れている。「テンサイづくりをやめることも考えている」

 安倍晋三首相が3月、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加を決めたからだ。輸入品にかかる「関税」を原則としてゼロにすることが話し合われる。

 テンサイは砂糖の原料で、国産の砂糖の7割に使われている。地元には国内最大の製糖工場があり、地域経済を支えている。

 砂糖は輸入品に328%の関税をかけて守っているが、TPPに入れば、すべて輸入品に入れかわるとされる。オーストラリア産は国産の3分の1の価格だ。

 岩井さんはこの10年でテンサイの作付面積を倍近くにして、家族5人でがんばってきた。「町の経済を担う作物と、農地を守りたい」と思うからだ。

 それだけに割り切れない。「政府と自民党に裏切られた思いです」

 昨年12月の衆院総選挙。TPP推進の野田政権(民主党)に対し、自民党は公約で「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対」「国民皆保険制度を守る」「食の安全安心の基準を守る」など6条件をあげ、慎重な姿勢だった。芽室町での比例の得票は民主党の3倍近くに達した。

 ところが、政権につくと安倍首相の言葉は変わっていった。2月末の国会では、6条件のうち「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対」は公約だが、残りは「目指すべき政策だ」と転換した。そして、3月にはTPP交渉への参加も決めた。

 このころ政府が発表した試算では、TPPで関税がなくなれば、日本の実質国内総生産(GDP)は輸出が増えるなどして10年後には3・2兆円増えるという。だが、農業生産額は3兆円も減る。

 「土下座でもなんでもします」「うそつきはしゃべらんでいい」。4月、芽室町などがある十勝地方の農業団体向けに自民党が開いたTPP説明会で、地元の中川郁子衆院議員に罵声があびせられた。安倍政権の変節に怒りは収まらない。

 「混乱させられた。情報提供もない。そんな政治に期待できん。我々をだましとったんだろう」。十勝農業協同組合連合会の山本勝博会長はこう話す。

 ■「所得倍増」戦略に疑問

 「1億円ほど借りてくれませんか」。山形県南陽市でコメやサクランボをつくる星隆之さん(60)は3月、地方銀行の支店長からすし屋で切り出された。

 約12ヘクタールの大型農地を耕す星さんを見込んで融資を申し入れたようだった。支店長は「農家を接待するのは初めてです」と言った。

 星さんは安倍政権の経済政策「アベノミクス」の影響を感じたという。だが、融資はやんわり断った。

 「金融緩和でカネがあふれても、地元の企業がお金を借りて設備投資できるほど、景気はまだ良くない」

 星さんは農作物の多くを全国の消費者に直接販売している。サクランボは、東京の店頭で1キロ=1万円する品種「佐藤錦」を4千円で売る。農協などに納めて手数料をとられない分、少し得をするのだという。

 安倍政権は今月まとめた成長戦略で「農業・農村の所得倍増」を掲げた。農地の集約や、農家が加工・販売に乗り出す「6次産業化」などを進め、TPPに不安を持つ農家に明るい将来像を示すねらいだ。

 しかし、経営努力を怠らない星さんでさえ、疑問を持つ。「消費者のふところが良くならない限り、生産の効率化は価格低下に結びつくだけ。6次産業化も、農作業しながら自前で多くの客は開拓しきれない」

 成長戦略では、強い農家をつくるため、農地を預かって担い手にあっせんする「農地集積バンク」を全国につくる。農業再生の目玉になる事業だ。

 バンク構想より前に高齢農家の農地を借りて耕してきた星さんは、TPPよりもっと大きな問題があると言う。「高齢化で農家の大半はあと数年でやめる。本当に心配なのは、農地をだれが引き継ぐのかということです」

 ■識者はどう見る

 原田泰・早稲田大教授(経済政策論) 日本が豊かになれたのは自由貿易のおかげであり、TPPは必要だ。関税が下がると貿易が盛んになり、サービス産業は海外で投資しやすくなる。日本の農家は平均的な農業収入が年50万円で、勤め先などからの農外収入200万円、年金収入200万円で暮らす。年金は企業で働く若い人が納めるお金で成り立っており、日本が繁栄して初めて農村も守られる。

 醍醐聡・東大名誉教授(財務会計論) 農業生産を激減させ、農家の所得を減らすなどマイナス面が大きい。それなのに政府が農業所得倍増をうたうのはごまかしだ。薬価が高くなる可能性も指摘されており、医療の財政負担を減らす政策に逆行し、保険料にもはね返る。農家と消費者は、食品表示の徹底や地産地消で食の安全と食料自給率の向上を図るために連携すべきだ。お互いの利益になる。

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