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(安倍政治を問う)「育休3年」に現実の壁 女性の活躍、かけ声先行

デザイン画:女性の就業率は子育て期に低くなる拡大女性の就業率は子育て期に低くなる

 【見市紀世子、高橋末菜、岡林佐和】「妊娠したなんて、許せない」。東京都内の女性(32)は昨年、勤め先の中小企業の女性社長に妊娠を伝えたときの反応が、忘れられない。

 ずっと仕事一筋だった。でも妊娠後は夜遅くまで残業はできない。土日もどちらかは休んだ。手を抜いているつもりはなかったが、上司は「妊娠してやる気が下がった」と繰り返した。

 「辞めろということですか」と聞くと「その方が、あなたにとってもいいんじゃない」。この会社で育児との両立は無理だ。退職せざるをえなかった。「出産して働き続ける。それが当たり前にできないなんて」

 安倍政権は、成長戦略の柱に女性の活用を掲げる。保育園に入れない待機児童をゼロにしたり、子どもが3歳になるまで育児休業をとれるように企業に呼びかけたりする。子育てを理由に女性が働くのをやめないようにするためだ。

 日本は少子高齢化で働き手が減っており、経済が立ちゆかなくなりかねない。なのに、女性の就業率は子育て期に落ち込む=グラフ。女性が「育児も仕事も」できるようになれば、人口も働き手も増えて社会を活性化できる、というわけだ。「女性の活躍は、日本を成長軌道に乗せる原動力だ」。安倍晋三首相は言う。

 だが、実効性のある中身かは疑問の声もある。例えば育休3年。いま法律が保障する1年ですら、とれていないのが実情だからだ。

 国の調査では、働く女性の2人に1人が第1子の出産で退職する。人手が少なく育休者をカバーする負担が大きくなる中小企業だけでなく、大企業でも女性が結婚・妊娠を機に第一線から退くような風土が残る会社は多い。そのため育休を事実上とれない、復職後の居場所がない、長時間労働などできないから自ら辞める――そんな現実がある。

 妊娠して辞めさせられた女性も「大事なのは長さではなく、とれて復帰できること。長く休むことを国が後押しすれば、かえって企業が女性活用に慎重になりかねない」と心配する。

 「待機児童ゼロ」も簡単ではない。

 「別に国に言われなくても、できることはやる」。6月27日、保育園の新設を発表した、東京都中野区の田中大輔区長は強調した。年200人規模で定員を増やしても、4月の待機児童は147人。受け皿を増やすほど、預けるのをあきらめていた人のニーズが出てきて、待機児童は一向に減らない。

 国は打開策として民間企業の活用を呼びかけるが、帝国データバンクによると保育園を営む企業の倒産は過去10年で26件。「株式会社は急な撤退がありえるのでリスクが大きい」(福岡市)など、保育の質も考えて慎重な自治体は多い。

 別の課題もある。受け皿を増やすにしても、重労働の割に待遇が厳しい保育士が、2017年度末に7万4千人も不足するとの国の推計もある。千葉県のある認可外保育園は今でも正職員が集まらず、全員パートでやりくりする。「保育士は取り合いだ」と園長。

 中野区の会社員、大杉里美さん(31)は5月に育休から復職する際、10カ所以上を走り回り、やっと保育園に長男(1)を預けられた。家からバスで10分も離れた第7希望。「でも、『入れただけよかったね』と言われる。どこか、おかしい」

 ■雇用制度見直しに警戒感

 「これだけ将来が不安なままで、産めば何とかなるなんて、思えない」。東京都内に住む契約社員の女性(27)は打ち明ける。

 同い年の夫は正社員。手取り月21万円から、奨学金を月3万円返す。自分の手取りも約10万円あるので夫婦なら暮らせるが、子どもを持てばお金もかかるし、自分が辞めざるをえなくなりそうで二重に不安だ。いまも法律の上では、契約社員など非正規でも一定の条件を満たせば育休をとれることにはなっているが、とるのは難しいからだ。

 大学卒業後、「ブラック企業」で詐欺まがいの強引な電話営業をさせられ、3カ月で退職。正社員として再就職した後も2度、倒産で失業した。子どもは欲しいが、雇用の不安定さが身にしみているから踏み出せない。「いまどき、夫が正社員でも安心できない」

 安倍政権は経済成長に向け、「世界で一番企業が活動しやすい国」も目指す。同じ会社で定年まで働くような「雇用維持型」の政策から、途中で退職になっても成長産業に移るなど再就職しやすくする「労働移動支援型」への改革を掲げる。働き手が柔軟に仕事を移れて多様な働き方ができれば、正規・非正規の二極化の解消になり、育児と両立もしやすくなるという。

 だが、労働組合などには「転職先もなく退職のハードルだけ下がれば、ただのリストラ強化だ」との警戒感も強い。企業を助ける代償に子育て世代が苦しくなれば、女性の活用も少子化対策も進まず、成長は遠のく。

 ■識者はどう見る

 松田茂樹・中京大教授(家族社会学) 女性が子育てしながら働くための支援策は、これまで正社員向けメニューが中心だった。だが、本当に女性に活躍してもらうには、とるのが極めて難しかった非正規雇用の女性の育休を、とれるようにするといった支援策が大事だ。もちろん、男性が育児することも重要だ。そのためには労働環境の改善が大切で、国や企業が長時間労働をなくすよう努力し、男性がよりとりやすい育休制度をつくるなどの工夫も必要だ。

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