メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

(公約を問う)15:再生医療 iPS支援、各党「相乗り」

図:iPS細胞を使った再生医療のロードマップ(目標時期)拡大iPS細胞を使った再生医療のロードマップ(目標時期)

図:再生医療をめぐる各党の公約と見解拡大再生医療をめぐる各党の公約と見解

図:再生医療製品の国別の開発状況拡大再生医療製品の国別の開発状況

図:国別の論文数の変化拡大国別の論文数の変化

写真:科学医療部・佐々木英輔記者拡大科学医療部・佐々木英輔記者

 科学技術立国を目指してきた日本。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した山中伸弥京都大教授のノーベル賞受賞で、「再生医療」は政治の世界でも日本の未来を託すキーワードになった。しかし、科学や技術全体を見渡しても、足元は心もとない。各党が支援を打ち出す一方で、「前のめり」との懸念も出ている。

キーワードで読む選挙ページ

■国産技術、患者も期待

 「iPS細胞を使った治療を早く受けたい」

 全国パーキンソン病友の会事務局長の高本久さん(67)は最近、病気が進んで介助が必要になった70代の男性に、こう訴えられた。手足の震えやうつ症状などを起こす神経の病気。原因不明で50〜60代に多く発症、徐々に症状が進む。

 高本さんの母親も25年ほど前、パーキンソン病と診断された。しばらくは薬が効き、友人と遊んだり句会に出たりできた。だが12年ほど経ったある日、幻覚を見て真夜中に転倒。骨折して車いす生活になり、大声で叫ぶなど精神症状も現れるようになった。夫婦で昼夜を通し介護した。一昨年、85歳で亡くなった。

 今のところ根治療法はない。患者は再生医療に期待を寄せる。京都大はiPS細胞から神経細胞をつくり脳に移植する治療法を開発した。数年以内にも始まる臨床研究に「ぜひ自分を対象に」との声が絶えない。

 iPS細胞は様々な細胞になれる能力を持つため、再生医療や新薬開発への応用が期待されている。開発した山中教授は昨年、ノーベル医学生理学賞を受賞。論文発表からわずか6年あまり、実用化前のスピード受賞に注目が集まった。

 6月には厚生労働省の審査委員会が世界で初めて人に使う研究を承認。来年にも目の病気の患者に本人のiPS細胞からつくった細胞が移植される見通しだ。

 経済産業省研究会の試算では、再生医療の国内市場は2030年に1・6兆円、50年に3・8兆円に膨らむと見込まれ、世界ではそれぞれ17兆円と53兆円という。世界的に競争が激しい分野の国産技術。患者の期待も大きいだけに、政府や各政党も支援をうたう。

 自民、公明、民主3党の関係議員は、ノーベル賞決定前から、超党派で再生医療の推進法づくりを進めてきた。政権交代をはさみ議員立法で4月に成立した。最先端の再生医療が「世界に先駆けて」国民に提供されるよう明記し、研究開発の支援や安全確保などの基本理念をうたう内容で、衆参とも全会一致だった。

 この流れに乗ったのが安倍政権だった。4月発表の成長戦略第1弾で「健康長寿社会」を目玉にした。安倍晋三首相は「山中教授の受賞に象徴されるように、研究で日本が世界一であることは間違いない」とし、研究支援や制度改革で新産業につなげると訴えた。

 5月には、再生医療の関連法案を国会に提出した。培養した皮膚のシートなど「再生医療製品」の審査を簡素化、治療の安全規制を新たに設ける。秋の臨時国会で審議される見通しだ。

■安全面、慎重さ求める声

 公約では、自民党、民主党、公明党、みんなの党が「再生医療」を明記した。

 自民党は、6月に正式決定した成長戦略を踏まえ数値目標を明記、米国立保健研究所(NIH)を模した医学研究の司令塔機能「日本版NIH」の創設も掲げた。連立する公明党も同様に、健康・医療分野の成長戦略推進を打ち出す。

 こうした視点は、民主党政権の昨夏の成長戦略にもあった。民主党も5月に提出された関連法案には賛成の方向で、研究予算の一体的な運用などを掲げる。

 今年1月、田村憲久厚労相は「民主党の良いものは引き継ぐ」と話していた。いわば途中まで敷かれたレールに安倍政権が乗って肉付けし、実行力をアピールしている状況ともいえる。

 ほかの各党にも朝日新聞が尋ねたところ、同様に産業化を目指す党がある一方、慎重な党もあった。

 共産党は再生医療推進法の採決時も「前のめりに産業化を急がせようとする政府・与党の姿勢には強い懸念がある」と意見表明したうえで賛成した。所得にかかわらず治療を受けられる制度を求めている。社民党も同様に「前のめり」を批判。推進法に賛成したのは「研究や技術開発が進む一方、法制化が遅れている」ためと説明する。

 再生医療は未知数の部分も大きい。iPS細胞は、有効性や、がん化しないか安全性の十分な確認が必要で、一般的な治療として根付くまでの道のりは長そうだ。期待通りの成果が得られるとも限らない。

 世界初の臨床応用を目指す理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは5月、与党議員の会合で「イメージの『再生』が突っ走っている気がして危うい」と正確な理解を呼びかけた。

 iPS以外の再生医療研究は欧米が先行し、日本は必ずしも優位ではない=グラフ。医療が高度になるほど医療費は膨らむと見込まれ、医療財源をめぐる議論とも密接に絡む。

 日本再生医療学会の岡野光夫理事長(東京女子医大教授)は「まだ課題もある。人材の育成や、民間から大きな投資が得やすい環境づくりも欠かせない。再生医療が本当に根付くように力を注いで欲しい」と注文をつける。

■日本の存在感低下 科学論文や特許出願数

 【瀬川茂子】iPS細胞のような卓越した業績はあるが、日本の科学技術、研究の存在感は世界的に低下している。今年の科学技術白書は厳しい現実を指摘した。次世代の産業化につなげるための基盤が揺らいでいる。

 白書によると、日本の科学論文は量、質ともシェアを下げている。2009から11年の論文数で日本は5位。米国が1位、2位の中国の躍進ぶりが目立つ。他者に引用される影響力のある論文数でも、米国1位、中国4位、日本は7位だ。

 特許出願数やハイテク産業輸出額のシェアも低下傾向にある。スイスの国際経営開発研究所による経済やインフラの競争力ランキングでは1993年の1位から13年は24位へ下がった。

 こうした課題をふまえ、多くの党が、研究への支援の必要性を認めている。自民党は、独創的な研究を推進し、研究開発法人の見直しが必要と指摘する。民主党は研究者の処遇改善などをあげ、みんなの党は、国の科学技術政策の司令塔機能の強化を主張。共産党は、若手研究者の雇用の安定化などが必要として、すそ野の広い研究基盤作りを訴える。

     ◇

 〈視点〉ムードでなく実像理解して

 【科学医療部・佐々木英輔記者】再生医療をめぐる安倍首相の国会答弁に違和感を覚えたことがある。2月、「そもそも山中教授によって発明されたものであるにもかかわらず、(実用例は)米国が圧倒的に多い」と繰り返した。

 山中教授が開発したのはiPS細胞。すでに患者に使っているのは世界でも別の種類の細胞だけだ。だからこそiPSの「初の臨床応用」の誤報が騒動になった。混同しているのか、舌足らずなのか、理解の程度が気になった。

 科学や技術は専門的だからこそ、政治家がその実像や限界、社会的影響をよく理解したうえで政策判断することが重要だ。患者が待つ再生医療は、原発などと違い意見が分かれにくい。各党とも推進ムードに流されてはいないか。深みある議論を期待したい。

選挙などの日程

参院議員選挙公示 7/4(木)
参院議員選挙投開票 7/21(日)
期日前投票期間 7/5(金)〜20(土)
朝日新聞で見る選挙のすべて