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2012年12月1日03時00分

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いじめ、動かなかった教委〈争点を問う〉

図:教育委員会の形骸化は改善されていない拡大教育委員会の形骸化は改善されていない

 【花野雄太、氏岡真弓・編集委員】「いじめを学校が隠蔽(いんぺい)しているとき、国や県が何の手立ても取れないのはおかしいです」

 愛知県刈谷市の高橋典子さん(54)が11月26日、文部科学省を訪れ、村井宗明政務官(39)に訴えた。高校2年だった娘が自殺したのは私立中学時代に受けたいじめが原因だとして、学校法人と係争中。公立校と同じように私立校にも強い行政指導を、と要望した。

 4月からの約半年間に全国で確認されたいじめは14万4054件。村井政務官はこの数字について「正確じゃないと思う」と高橋さんに語った。「いじめを学校が全部把握しているはずがない。学校が全部を教委に、教委が全部を文科省に報告するはずもない。何個ものフィルターがある」

 文科省幹部までが「フィルター」と呼んでしまう教育委員会――。各自治体に任命された5人程度の教育委員が、教員人事、学級の人数、使用する教科書などを合議で決める。だが、事務局の運営を追認するだけの教委も多く、「ろくに議論もせず、議事録も公開しない」との指摘がある。

 「昨年10月に亡くなられました中学校生徒に黙祷(もくとう)を捧げたいと思います」

 8月9日、大津市教委の定例会は静かに始まった。いじめを受けていた中2男子が自殺した事件で、教委が問題解決に動かなかったと、批判の渦中にあった。

 教育委員5人は「十分な対応ができていなかったのではと責任を感じる」「何をすべきだったか自問しています」などと述べた。

 それに先立つ7月12日、橋下徹・大阪市長は大津市教委のいじめへの対応を厳しく指弾した。「教育行政の最終的な責任者として失格。日本の教育制度の問題点を象徴している」

 選挙公約で、橋下氏が代表代行の日本維新の会は「教育制度改革(教委制度の廃止を含む)」と明記。みんなの党は、教委を設置するかどうかを自治体の判断に任せるとした。民主、自民両党も「見直し」を掲げた。

 民主党政権の中川正春文科相(当時)は昨年末に教委制度改革の省内会議の設置を表明したが、今も結論は出ていない。学校運営に住民が携わるコミュニティ・スクールを増やす案などが出ているが、政治的中立性確保のため、教委の廃止には踏み込まない方向だ。

 安倍晋三総裁の号令で、自民党の教育再生実行本部は10月下旬からほぼ毎週、議論を重ねた。今の教委を批判する一方で、「教委の廃止は両刃の剣」という声が相次いだ。首長が「暴走」したときに、教委が歯止めになる、というのだ。

 こうした存廃論議を、当の教委はどう見るのか。

 「制度を固めるにしても壊すにしても、現場の分析から始めるべきです」

 福岡県春日市教委事務局の工藤一徳・学校教育部長(59)は11月27日、政策研究大学院大(東京都港区)で、研究者や省庁担当者ら約30人を前に話した。

 春日市は10年ほど前から教委事務局の改革に着手。学校の予算作りを各校に任せ、校長の裁量を広げた。

 教育委員も変わってきた。予算案に意見をつけ、学校に出向いて議論し、市長や議会とも意見交換する。進路指導、不登校対策などのテーマで事務局と懇談会も開くようになった。

 工藤部長は言う。

 「今の教委制度でも、できることは多いんです」

■「人気投票」戸惑う先生

 教育委員会は、政治と教育がともに戦争へ突き進んだ反省から、政治権力が教育を左右できないようにつくられた。橋下市長はこれを否定し、教育の目標を首長主導で決める条例を大阪府市で制定。矢継ぎ早の「改革」を進める。

 その大阪で今年、教員募集をめぐって異変が起きた。来春に府が採用する公立学校教員試験の倍率が、過去2番目の低さに落ち込んだのだ。「低倍率では質が保てない」と一部の教科で追加募集をする事態に。

 試験合格後に内定を辞退した人も、2011年は前年の1.4倍に増えた。

 府内の公立校では、来年度から教員評価に生徒または保護者の声が反映される。給与もカットされた。そうした改革が教員志望者の「不人気」を招いたのか。

 大阪府の公立中学校に勤める30代の男性教諭は「働きぶりで差をつけるのは民間では当然」と思う。ただ、今年度から試行が始まった、保護者アンケートを「授業力」の評価材料にする制度には疑問を感じる。

 記入された内容は管理職しか見ることができない決まりだ。しかし、どうにも気になって、校長の手元に届く前のアンケートの束をこっそりめくってみた。

 子どもに甘い先生は「オールA」だった。授業がうまいのに最低評価の「D」が並ぶ先生もいた。「人気投票」のように見えた。

 「本当に子どものことを思えば、嫌われると分かっていても、叱るときには叱る。年に数回しか学校に来ない親に、それがどれだけ分かるだろうか」

■子どもに向き合える環境を

 【花野雄太】衆院議員の在職期間は平均3年に満たないが、義務教育は9年。公立小中学校だけでも65万人の先生が991万人の子どもたちを教えている。政権や首長が変わるたびに制度や教育内容が変わるなら、その影響は計り知れない。

 首長の権限を強める(首長が暴走したら?)、住民が運営に携わる学校を増やす(住民負担が増える?)、人事や学校評価に競争原理を導入する(学校間格差が広がる?)……各党が掲げる政策には一長一短ある。

 教師と子どもの1対1のかかわり。その積み重ねが学校教育だ。いじめを例に考えても分かるように、教育現場の多様な問題に「こうすればいい」という唯一の正答はない。

 教師が熱意を持ち、より長い時間、子どもに向き合えるようにする。政治に期待するのは、その環境づくりではないか。

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