総選挙の投開票日の9月11日は、5年前に大災害となった東海豪雨に襲われた日だ。その後、東海地方では台風被害にもたびたび見舞われている。「災害に強い街づくりを」。今も傷跡が残る被災地の住民らは、そんな思いを一票に託す。
00年9月11、12日の東海豪雨で決壊した、名古屋市西区の新川。5年間で堤防強化や洗堰(あらいぜき)のかさ上げなど、ハード面の対策はある程度進んだが、ソフト面に課題も残る。
決壊現場から200メートルほどのところにある、NPO運営の重度心身障害者の作業所「友の家」も、1メートル以上浸水した。小林正己所長(48)は「決壊が、通所者のいる昼間だったら逃げ切れただろうか」。
スタッフ5人に通所者8人。いずれも全身介護が必要で、車いすで運ばなければならない。いざという時に助け合う隣近所の連携も話し合っているが、行政や消防の助けもほしい。
作業所に通う女性(35)と家族はあの夜、自治体指定の避難所に向かおうとした。でも場所が2階だった上、障害者用のトイレもなく断念。車に逃げ込み、近くのスーパーの立体駐車場の屋上で一夜を過ごした。
女性の母親(62)は「障害者用に、施設や介護が整った避難所を事前に指定し、そこに集まる仕組みを」と訴える。「投票日は、水害が起きた日だというのに、候補者の訴えからは防災の話があまり伝わってこない。東海地震の問題もあるのに……」と不満そうだ。
自宅が1メートル以上も水につかった旧西枇杷島町(清須市)の池谷武生さん(63)は、水害対策で西枇杷島地区が名古屋市に比べて軽視されていると感じている。選挙区は名古屋市中村区や中川区、清須市などにまたがり、候補者はいずれも名古屋市在住。「水害対策には、だれも関心がないのでしょうか」
昨年10月の台風23号で大きな被害を受けた岐阜県飛騨市の宮川、河合の両地区。飛騨古川駅(飛騨市)と猪谷駅(富山市)の間が不通になったJR高山線では、復旧に向けた工事が本格化している。「予想より早く復旧のメドが立った」。住民らはほっとしている。
しかし、不通区間の駅舎は窓も入り口も板張りで閉鎖されたまま。国道360号は仮設道路や応急的に架けられた橋が連続し、片側交互通行で通りかかった車は何度も待たされる。
「過去のこと、忘れて前向きに生きねば」
昨年9月末の台風被害で死者6人・行方不明者1人を出した三重県宮川村。大原治さん(65)は公示日をプレハブの仮設住宅で迎えた。
忘れられない9月29日。その日付の下に、大きな黒丸を入れたカレンダーがかかる。「郵政民営化ばっかり。ほかにもいっぱいあるのにさ」。テレビを見てむなしさを感じた。
11月末、近くに完成予定の新居に引っ越す。約13キロ離れた地区にあった自宅は土砂で全壊。生まれ育った「ふるさと」を捨てるのに抵抗はあったが「いつまでもここに居るわけにはいかない」。
選挙への関心は高く、投票には行くつもりだ。「防災対策に力を入れてほしいし、血の通った施策を期待したい。選挙のときばかりでなくてね」