徳島県境にある物部村で8月、公共工事の入札からあらかたの村内業者が消えた。高知地検が談合事件で7社を摘発し、村が指名停止処分としたところ、登録業者は2社だけになってしまったからだ。
同月上旬に予定されていた村道災害復旧工事の入札は業者の頭数がそろわず、異例の事態に。改めて6社を指名し仕切り直したところ、24日の入札には普段見かけない高知市の建設業者ばかりが顔をそろえた。
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人口3000人足らずの村では建設業は農林業と並ぶ基幹産業だ。200人ほどが従事する。村は地元業者の育成・保護策として村内業者を積極的に指名に入れてきた。決まった顔ぶれによる入札が行われるうち、談合体質もはびこっていた。
談合の手口は、受注希望業者が「うちはいくらで入れる」と各社に電話し、自社より高値で応札するよう都合をつけあうもの。
起訴された1人は「談合は地域での助け合い」と言葉少な。別の業者は「地域密着でやってきたつもりだが、時代がそれを許さなくなっていた」と顔をゆがめた。地検の調べに「不況で公共事業が削減される中、利益率を上げたかった」と供述する業者もいた。
一方、かつて談合に加わり、予定価格を村職員から聞き出していたという業者は「施工能力を高め経費を切りつめたら、談合する必要がなくなった。淘汰(とうた)される時代なら自分で努力して乗り切らなきゃ」。
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村にとっても問題は深刻だ。面積の95%を山林が占め、大雨や台風の災害にしばしば見舞われる。そんなときは建設業者の協力が欠かせない。村幹部は「冬には除雪も必要になる。7社も指名停止ではどうしたらいいのか」と頭を抱える。
村の公共事業費は激減した。国の補助を受けていた事業が終了した01年度の投資的経費は約19億4000万円で、一般会計の44.6%を占めていた。だが、04年度には約7億8000万円に。この間、村では四つの建設業者が廃業した。
三位一体改革の影響で、一般会計決算の歳入の4〜5割を占める地方交付税も5年間で6億5000万円減った。予算を組むにも窮した村は来年3月、土佐山田、香北両町と合併し香美市となる。
半年の指名停止期間を終え何社が復帰できるのか。ある業者は悲観的だ。「合併でただでさえ仕事は減るのに、処分明けではスムーズに仕事にありつけないだろう。うちもそろそろ引き際を考えなきゃいかん。地域の特性をよく知る業者がいなくなったら、村は災害の時にどうなってしまうだろうか」
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県内の公共事業を巡る状況について、民間信用調査会社の幹部は「製造品出荷額が全国最下位など高知は製造業が弱く、公共事業中心の産業構造だ。建設業者の売り上げはほとんど公共事業に依存している。景気が上向く兆しもなかなか見いだせない」と分析する。
物部村の宗石教道村長が会長を務める県町村会は今回の総選挙で自民前職3人への推薦を見送った。「誰も支援する気になれない。保守政権を支える基盤だった山村の人口が減る一方、永田町は都市住民受けばかりを狙っているようだ」と宗石村長は嘆く。