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〈現場から:1〉憲法 自衛隊の任務拡大 戸惑う家族

2007年07月09日

 「ほんとうに、うちの息子だべか」。津軽地方の男性は目を疑った。

かつて、玄関先に掲げた黄色いハンカチを広げる對馬敦夫さん=青森市内の自宅で

 04年暮れ、陸上自衛隊第9師団からイラク南部サマワに派遣されていた自衛官たちが青森駐屯地に戻ってきた。男性の息子はその一員だった。

 男性は家族とともに駐屯地で息子を出迎えた。4カ月ぶりの対面。男性は息子の目つきが激変していることに驚いた。

 おっとりした性格だった息子。その目が、ギラギラと鋭く光っていた。

 こんな目をしていただろうか? 我が子ながら怖いとさえ感じた。イラクでの日々の緊張が原因ではないかと疑った。

 息子からイラク行きを告げられたのは、派遣の2、3カ月前だった。

 夕飯の後、一家でテレビをみていた。「今度イラクさいく」

 あっけにとられた。「なぜ、せがれが」。イラクでは米軍の犠牲者が増え続けていた。

 04年8月の出発日。駐屯地で、一家そろって弁当を食べた。だが、まともに息子の顔を見ることができなかった。妻が渡したお守りを手に、息子は日本をたった。

 以来、テレビで「イラク」と聞くと緊張が走った。サマワの宿営地にロケット弾が撃ち込まれた時は心配した。

 帰国後、息子の目の険しさは1週間で消えた。だが、息子がふと漏らした言葉が忘れられない。「イラクは二度といく場所ではない」

 男性は言った。「息子には、国のために働いてほしい。ただ、海外で武器をもって戦うことはしてほしくない」

 ■世界が活動の場

 かつて自衛隊の活動の柱は、国土防衛、治安維持、災害派遣の三つだった。90年代初頭から、PKO、周辺事態法やテロ特措法に基づく活動、弾道ミサイルへの対処などが積み重なり、役割が劇的に増えた。活動の舞台は世界各地に広がった。イラク派遣に至って限りなく戦場に近づいた。

 安倍首相は憲法改正に意欲を示しており、国民投票法で改憲原案の提出が「解禁」される3年後に向けて論議が本格化することも予想される。

 その焦点は、自衛隊の活動を厳しく制限してきた9条となる。

 県内に陸海空の3自衛隊を抱え、本籍地別で47都道府県中5番目、1万937人の自衛官がいる青森県では、親族らが自衛隊の変化に戸惑いつつ、行方を注視する。

 津軽半島の農村。70代の農業男性は、陸自隊員である孫の制服姿の写真が届くが楽しみだ。

 孫を頼もしく思う。一方で、不安もある。将来、イラクのような治安が悪い場所に孫が行くことになったら……。

 男性には、自衛隊の今後を考えたとき、思い出す出来事がある。

 地元の自民党衆院議員田沢吉郎氏(故人)が防衛庁長官を務めていた80年代末、支持者だった男性の自宅を訪れたことがあった。

 男性は尋ねた。「先生、自衛隊は将来どうなりますか、日本は戦争するのではないですか」

 田沢氏は「いやいや、それはありません。ただ、自衛隊の役割は変わると思いますよ」。いま考えると、海外派遣を見据えた発言だと思う。

 自衛隊には、これ以上危険な任務についてほしくない。「戦後、日本はもう二度と戦争しないと決めた。それをしっかりわきまえてほしい」

 ■黄色いハンカチ

 自衛官の親たちでつくる青森市自衛隊父兄会の会長、對馬(つしま)敦夫さん(67)は1枚の黄色い布を自宅に保管していた。1辺48センチの正方形。第9師団の隊員がイラクに派遣されている間、自宅の玄関先にこの布を掲げた。

 隊員が無事に帰還するよう祈る「黄色いハンカチ運動」。イラク派遣が始まった当時、北海道から広がった運動を、對馬さんは父兄会関係者と自衛隊OBらで行った。

 自身も陸自OB。イラクには行かなかったが、次男と三男も自衛官だ。派遣された隊員の無事を願う思いは強かった。「本当に、無事で帰ってきて何よりだった」

 58〜93年の現役時代、主に東北地方で勤務した對馬さんは「当時は北からの脅威にどう対処するかを主に考え、訓練に励んでいた。海外派遣が主要な業務になるとは予想もできなかった」。

 自民党を長年支持し、憲法改正も必要だと考えている對馬さんだが、「自衛隊が海外で戦うことはあってはならない」と強調する。「民意も、そこまでは認めないだろう。我々父兄会の会員も、多くの自衛隊員も、そう考えているのではないか」と、自らに言い聞かせるように、語った。

 ■「防衛こそ仕事」

 北津軽郡の70代の農業男性も息子が陸自の隊員だ。入隊を勧めた当時の状況をこう語る。

 「地元には昔から企業が少なく、自衛隊は大きな勤め先だった。役場と同じような就職先という感覚だった」

 息子はイラクには派遣されなかったが、「正直な話、危険だから行かせたくねえな」。昨年、陸自がイラクを撤退して、ほっとした。

 イラク派遣については評価もしている。「自衛隊の役割はインフラの整備。米軍と違って戦闘をするわけではない」

 男性も自民党支持者だ。北朝鮮のミサイル発射に対し、「先手」を打てるよう憲法改正が必要だと考えている。

 だが、こうも続けた。「自衛隊がアメリカと一緒の任務につくならばよくない。憲法改正もそこまではだめだ。なんといっても、自衛隊の仕事は防衛だもの」

   ■   □

 参院選の公示が12日に迫った。有権者にとって今回の選挙は、憲法改正、年金、医療など重要課題の行方を左右する議員を選ぶ大切な機会となる。公示を前に、参院選の課題を探った。

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