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〈美しい国とは:3〉教育改革 疲弊する現場置き去り

2007年07月10日

 午後3時半。公立小学校の特別支援教室の床に、ヨシコ先生(52)=仮名=はへたりこんだ。

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放課後も教材の片づけや時間割りの打ち合わせが続く=大阪府高槻市内で

 教材のフラフープで、散らばったブロックやカードをかき寄せて片づける。もう2人の担任と口頭できょうの児童の様子を交換する。「休憩」時間のはずだが、30分間、口と手は休まない。

 今年度から、発達障害の子も対象とする特別支援教育が始まり、担当する児童数は倍増した。教室から出ていくこともある子どもに、午前8時からマンツーマンでつく。夕方は学校菜園の整備や教材準備。午後6時に退出し、自宅で夕食を食べ、「仮眠」。午前0時に目覚ましの音で起き、朝まで提出書類の作成をする。

 「この上、土曜日も出勤となったら……。教師をやめます」

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 ヨシコ先生ら大阪府高槻市の学校の教員5人は04年4月、1日45分の休憩時間を満足に取れないとして、府や市に不払い賃金など700万円を求める訴訟を起こした。原告のうち2人は精神疾患とがんで休職している。

 京都市でも04年1月、超過勤務の是正を求め、教職員9人が市に損害賠償請求訴訟を起こした。同市教職員組合の調査では、完全週5日制が導入された02年は、00年よりも週あたりの平均実労働時間が1時間増えた。超過勤務は、3人に1人が「過労死」ラインの月80時間を超える。

 昨年、文部科学省が40年ぶりに教員の勤務実態を調べたところ、公立小・中・高校の平均で1日10〜11時間勤務だった。

 龍谷大学の脇田滋教授(労働法)によると、子どものために尽くすべきだという職業意識や、長い休みがあるという世間の誤解もあり、声を上げられずにきたという。訴訟が相次ぐのは「過重労働が限界を超えたからではないか」とみる。

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 教育再生会議の第2次報告と安倍内閣の「骨太の方針2007」は、ともに「学力向上を目指し授業時数の10%増」を掲げる。週5日制を基本としつつ「学校の裁量で土曜日の授業も行えるようにする」という。だが、肝心の授業をだれが担うのかは明確ではない。

 教職員の過重労働の是正と、授業時数増。矛盾する方針を両立させる方策はあるのか。

 文科省初等中等教育企画課の担当者は「八方ふさがりだ」。教職員数は06年、行政改革推進法に基づき「純減を」と閣議決定され、増やすのは無理。土曜日出勤の代休を平日に取るのは「学級担任制の下では不可能に近い」。

 教育再生会議でも委員の意見は割れた。葛西敬之・JR東海会長は「質の向上が見られるまで予算を増やしてはいけない」。一方、陰山英男・立命館小副校長は最後まで、「土曜授業」に反対した。「民間では週休2日をよしとし、教員はだめとする理由と処遇を考えていただきたい」

 門川大作・京都市教育長は「5日制とゆとり教育が同時に実施されたために、教員が怠けて子どもの学力が低下したと短絡された。改革に予算増、教員増は不可欠なのに」と話す。

 学力低下に詳しい東京大学の苅谷剛彦教授(教育社会学)は「学力向上には、教員が十分に授業準備に取り組める体制づくりが必要だ」と指摘する。再生会議の提言は、現行の学習内容に加え、発展学習、徳育、小学校の英語必修と、てんこ盛り。「これでは授業時数を増やしても余裕は生まれず、教師も子どもも疲れてしまう」

 教育改革に予算増が伴うかどうか、安倍首相は明言していない。疲弊する現場の切実な声は、声高に語られる政治家の「理念」の前にかすみがちだ。

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