選挙は朝日で 2007参議院選挙 アサヒ・コム

ここから本文エリア

現在位置:asahi.com2007参院選迷走の行方 > 記事

〈迷走の行方:上〉 痛みと不安いつまで

2007年07月01日

■年金、泥縄の対応策

イラスト

政府が打ち出した主な年金記録問題対策

写真

  

 安心の土台が崩れた。

 6月4日。年金記録問題で、安倍首相が対策を参院選の最重要政策にするよう自民党の政調幹部らに指示し、柳沢厚生労働相が記録照合の前倒しや相談態勢の強化などを発表した。その同じ日、社会保険労務士を通じて大阪府の主婦(66)に知らせが届いた。

 「請求を棄却する」

 国民年金保険料が未納扱いされ、社会保険審査会に不服を申し立てていた。それが退けられた。「これだけ問題になっている最中に、こんな結果を出すなんて」

 35歳の時、未納分を一括して納められる特例制度を知って国民年金に加入した。一括納付したのに記録がない。社会保険事務所や市役所で調べると、生年月日の間違いなどのミスが次々にわかった。当時の職員録を探し出し、「この人に聞いて」と訴えたが、4月に東京で開かれた審査会は40分で終わった。

   ◇

 年金給付の抑制をめぐる不安が蔓延(まんえん)しているところへ、ずさんな事務処理が膨大に発覚し、不信は一気に高まった。

 だが、首相の対応は迷走した。

 問題を知ったのは「昨年暮れから今年初めにかけて」。なのに2月に国会で、加入者・受給者全員への緊急点検を求められても「不安をあおる危険性がある」と突き放した。5月8日になっても「基本的な問題は解決している」と国会で答弁。危機感は見えなかった。

 ところが内閣支持率の急落と前後して、年金受給の時効を撤廃する特例法案を急きょ国会に提出するなど、矢継ぎ早に対策を繰り出した。

 では、急ごしらえの対策で、納付記録が見つからない大阪の主婦のようなケースを救えるのか。

 政府は今回、厚生労働省に設置されている社会保険審査会とは別に、新たな不服申立先として総務省に第三者委員会を設けた。だが、判定の基準づくりはこれからという泥縄だ。

 与党内には「新たな対策が、新たな混乱を招きかねない」(閣僚経験者)との不安も渦巻く。

 「審査会で棄却され、第三者委員会で覆ることはあるのか」。6月13日の衆院厚労委で野党側から追及された柳沢厚労相は「事実上困難だろう」と答えた。あわてた厚相経験者は委員会後、「あんまり杓子(しゃくし)定規に言わせるな」と厚労省幹部にクギを刺した。

 「『すべての人に支払えというのか』と言ってみたり、『最後の一人まできちんと払う』と言ってみたり。首相がブレている印象を与えるのが一番まずい。橋本さんと似てきた」。ある自民党幹部は、減税をめぐる発言が二転三転し参院選で敗北して退陣に追い込まれた故・橋本元首相に安倍首相の姿を重ねる。

■示されぬ未来、不振の根

 不安、不信の広がりは年金だけではない。

 戦後3番目に長い5年5カ月に及んだ小泉政権は「聖域なき構造改革」を掲げ、「今の痛みに耐えて明日を良くしよう」と国民に呼びかけた。

 医療ではサラリーマンの窓口負担2割が3割になった。介護保険の施設入所者は食費と居住費が自己負担に。生活保護は老齢加算と母子加算を段階的に廃止。小渕政権が「恒久的」として導入した所得税・住民税の定率減税も廃止し、今年6月には住民税アップの痛みが家計を直撃した。

 その小泉政権を引き継いだ安倍政権に対し、有権者が最も問いたいのは「痛みは、いつまで続くのか。それで暮らしがどう良くなるのか」ということではないか。

 社会保障費抑制を明記した小泉政権の「骨太の方針」の路線を安倍政権が踏襲するなら、医療・介護費などのさらなる削減に手をつけざるを得ないが、政府・与党は負担増の議論を先送りした。

 自民党の厚労族の一人は嘆く。「米国のように自助努力の社会にするのか。それとも消費税を福祉目的税として引き上げるのか。その議論をしないといけないのに、安倍さんは逃げている」

 一方、04年の参院選で年金改革の財源として「3%程度の消費増税」を掲げていた民主党も今回、「据え置き」に転換した。「国民負担が増えた。消費税上げは政治判断として受け入れにくい」(小沢代表)というのが理由だ。

 肝心の「痛みの全容と、その先の暮らし」を語らずに、国民の不安を解消できるはずがない。高まる政治不信の根は、そこにある。

   ◇

 与野党とも「天下分け目の戦い」と位置づける参院選まで1カ月を切った。本当に問われるべき争点は何かを考える。

迷走の行方

迷走の行方一覧

このページのトップに戻る