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〈迷走の行方:中〉 格差、立ちすくむ政治

2007年07月02日

 歳出削減と規制緩和。小泉政権が推し進めた経済・財政構造改革という車の両輪だ。それを、安倍政権は引き継いだはずだった。そのタイヤの一つが、がけっぷちにさしかかっている。

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労働条件改善を求め、日雇い派遣大手のグッドウィル本社前で開かれた集会。日雇い派遣は規制緩和で急増した不安定雇用の典型だ=6月7日、東京都港区で、吉本美奈子撮影

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正規雇用者と非正規雇用者の割合

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年齢別の労働所得でみたジニ係数の推移

 5月下旬。政府の経済財政運営の基本を示す「骨太の方針2007」のとりまとめが迫っていた。税収増を背景に、省庁や与党族議員の予算要求が激しさを増していた。

 一方、国の借金はすでに国内総生産の1.6倍。歳出削減の手を緩めれば、大幅増税につながりかねない。大田経済財政相は、官邸で安倍首相に訴えた。

 「削減を押し戻そうという動きが強く、昨年の方針を守ることも簡単でありません」

 首相は「そこはしっかりやろう」と答え、「昨年の方針に則(のっと)り、歳出は最大限の削減を行う」と経済財政諮問会議に文書で指示した。だが、大田氏がめざした公共事業費の3%削減など目標の具体的な数値は盛り込めなかった。

 実は、規制緩和というもう一つのタイヤも「脱輪」しかかっている。

 小泉構造改革のエンジンだった規制改革・民間開放推進会議は、安倍政権になって規制改革会議と名前は変わったものの存続している。5月21日、労働法制の見直しを求める意見書をまとめ、「労働者の権利を強めれば保護が図れるとの考え方は誤っている」と主張。最低賃金の引き上げに難色を示し、雇用分野の一層の規制緩和を求めた。

 それが野党から集中砲火を浴びた。政府が提出した最低賃金引き上げを図る労働関連法案と矛盾するためだ。

 だが、安倍政権は同会議を擁護しなかった。柳沢厚生労働相は「不適切な意見表明だ」と切り捨て、渡辺行革担当相も「タイミングが悪かった」と突き放した。

 首相は1月末、同会議の初会合で「国民生活の安定のため、ルール整備が必要な場合もある」と述べ、一定の規制は必要だとの考えすらほのめかしていた。

 安倍首相は本気で改革路線を引き継ぐ気があるのか。与党内には、そのハンドルさばきを疑う声が出ている。

 小泉内閣で閣僚を務めた自民党議員は「市場重視の政策が社会を壊してしまった、という思いが安倍さんにはあるのではないか」とみる。

 首相自身も、昨秋の自民党総裁選の最中に「日本社会をアメリカみたいな社会にしようとは全く思っていない」と語ったことがある。

 歳出削減は、選挙を控えた与党の風圧で後退を余儀なくされたが、規制緩和では、自ら修正を図ろうとしているように見える。安倍政権初の骨太方針は、名称から「構造改革」の4文字が消えた。首相は何を迷っているのか。

 「日本の長期の経済成長も、宮沢元総理の活躍があったからこそだ」

 宮沢喜一元首相が死去した6月28日、日本経団連会長の御手洗冨士夫・キヤノン会長はこう悼んだ。

 戦後の日本の経済政策は、大きく言って二つの時代に分けられる。一つは、公共事業への財政出動と、「護送船団行政」に象徴される企業への規制が政策の柱だった時代。宮沢氏はその時代を牽引(けんいん)し続けた。

 しかし、90年代初頭のバブル経済崩壊後、この日本型システムの限界が露呈する。不良債権問題で銀行は機能不全に陥り、公共事業による景気刺激策も効果が薄れたうえ、国や地方の財政危機を悪化させた。

 そこで、ムダを省いて政府をスリムにする、規制を緩和して市場の力を生かす――構造改革論が台頭した。

 本格的にこの方向にかじを切ったのは96年に発足した橋本政権だ。歳出にタガをはめる財政構造改革法。金融機関への規制を大幅に緩和する金融ビッグバン。小泉政権はこの流れを引き継ぎ、加速させた。かつて「成功した社会主義」とまで言われた戦後日本の経済システムの大改造だった。

 確かに「失われた10年」と呼ばれた長い景気低迷からは脱した。だが、深刻な副作用をもたらした。

 それが格差問題だ。

 その象徴的な例の一つである非正社員の増加。小渕政権が99年、労働者派遣法を改正した。正社員の雇用を守るため「原則禁止」だった労働者派遣が「原則自由」になった。こうした派遣をはじめとする非正社員は90年には働く人の5人に1人だったのが、現在は3人に1人にまでなった。

 東京都内の派遣社員の女性(36)は01年から1年前後で勤め先を変わる生活が続いている。収入は6年前からほとんど上がらない。父親は大手企業に定年まで勤めた。「正社員もいつ派遣に換えられるかわからない。私がなぜ苦労しているのか、父には理解できないでしょう」

 構造改革路線をさらに突き進めば、格差がますます拡大するのは明らかだ。かといって、かつてのように財政支出や規制強化で切り抜けられる時代ではない。では、第3の道はあるのか。安倍政権は、そこで立ちすくんでいるのではないか。

 参院選の争点として、格差問題は年金記録問題の陰に隠れがちだ。しかし、どの政党が今後の日本の政治を担うとしても、最優先の政策課題であり続けることは間違いない。

 格差は経済のグローバル化に根ざしているだけに対策は容易ではない。規制を強めれば、かえって失業者を増やす可能性もある。それでも、防がなければいけないことが少なくとも三つある。

 一つは、格差が固定化し、多くの人に「はい上がれない」という気持ちを抱かせ、希望を奪うことだ。実際、経済が回復基調に転じた中でも、総務省の労働力調査では、25〜34歳の年長フリーター層はなかなか減らず、正社員への道の厳しさを示している。安倍政権は「再チャレンジ」を掲げ、一部パート労働者の待遇改善や公務員試験の年齢制限緩和などを示すが、規制緩和をどう見直すかの全体像がはっきりしない。

 二つ目は、格差が世代を超えて引き継がれることだ。民主党が高校の無償化を打ち出したのも、親の所得の差にかかわりなく教育を受けられるようにするためだ。ただ、財源をどう確保するかがあいまいだ。

 三つ目は、生活保護水準さえ下回るような厳しい貧困が広がることだ。国税庁の調査では、年収200万円以下のサラリーマンの割合は、01年が19.1%だったのが、05年には21.8%となり、じわじわと増えている。

 どういう人々を対象にどれだけの手立てを講じるのか。その場合、財源は何か。議論を詰めていけば、各党がどういう社会を望ましいと考えているかに行き着く。一票を投じる前にそれを問いたい。

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