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〈選択のとき:2〉広がる格差 埋める策は

2007年07月07日

■「一億総中流」小泉政権で変化

イラスト

  

 日本経済の景気拡大は6年目に入った。それでも、多くの人が実感を持てないでいる。「生活が苦しい」と感じる世帯は昨年7月時点で56.3%(厚生労働省の国民生活基礎調査)。5年連続で過去最多だ。経済成長に乗れた「勝ち組」と、そうでない人たちとの「格差」は縮まらない。

 格差を「必要悪」として容認するのか、政府の責任で是正するのか――。戦後の経済政策は「勝ち組」と「負け組」の格差を、どう埋めるかに取り組んだ歴史だった。

 62年の全国総合開発計画(全総)は「国土の均衡ある発展」をうたった。だが、東京や工業地帯への人口や富の集中は止まらず、72年に田中角栄氏が首相就任直前に「日本列島改造論」を発表。交通網整備による均衡を実現しようとした。

 73年には老人医療費が無料化され、年金給付水準が大幅に引き上げられた。弱者や高齢者への手厚い対策がとられ、「福祉元年」と呼ばれた。

 格差がどう変化したのかを示す数字がある。

 図上をみて欲しい。都道府県ごとの有効求人倍率にどのぐらいの格差があるのかを示すグラフだ。ばらつきを示す数字(変動係数)が1に近づくほど、格差は大きくなる。第一生命経済研究所の熊野英生・主席エコノミストの分析だ。

 変動係数は「いざなぎ景気」のころ0.8を超えていたが、70年以降はおおむね低下し続けた。

 84年には一時的に格差が拡大し、「マル金」(金持ち)や「マルビ」(貧乏)が流行語になった。それでも年功序列や終身雇用で守られた「一億総中流」の意識は、なお揺るがなかった。

 約30年続いた流れに変化が表れるのは小泉政権が発足した01年以降だ。

 小泉政権は公共投資による底上げを重視してきた政策から、規制緩和や構造改革によって民間主体の経済運営に転換。それと軌を一にするように、地域の雇用格差は02〜03年を底に反転、いまも格差拡大は続く。

 「ヒルズ族」に代表される「勝ち組」の存在感が増す一方、06年には3人に1人が非正社員となり、規制緩和で増加したタクシー運転手の過酷な労働が社会問題になった。構造改革の「負」の部分が焦点となった。

■低賃金の非正社員が増加

 「格差拡大」の背景には働き方の変化がある。

 04年に労働者派遣法改正で製造業への派遣が解禁されるなど、小泉政権下で経営者が非正社員を雇いやすくする環境作りが進んだ。慶応大の樋口美雄教授は「90年代後半以降、正社員と非正社員に関する政策はバランスを欠いた」と指摘する。

 正社員と非正社員の賃金格差は大きい。図下は内閣府の試算結果だが、男性の60歳までの退職金を除いた賃金総額は1億円も差がある。

 最近では「成果主義の普及・定着で、これから正社員同士の所得格差が広がっていく」(太田清・日本総合研究所主席研究員)との予想もある。

 生活保護を受けている人数が05年度は1カ月当たり147万人と、10年前より約60万人も増加。「貧困問題」が注目され、最低賃金の引き上げ論も勢いを増している。

 格差が次世代に引き継がれるとの指摘もある。

 06年に公表された東大・学生生活実態調査によると「東大生の実家の半数は年収が950万円以上」だった。所得格差が教育機会の不平等につながるとの見方を広げた。

 山田昌弘・東京学芸大教授は「親がフリーターで仕事に希望を持てなければ、子供のやる気のなさに結びつく」と警告。子供を持つフリーターや非正社員に公的な仕事を与え、格差の「遺伝」を防ぐべきだと主張する。

 これに対し経済財政諮問会議の民間議員である八代尚宏・国際基督教大教授は、非正社員の増加は「バブル崩壊後に景気停滞が長引き、企業が正社員を減らさざるを得なかった影響が大きい」とみる。雇用の格差拡大は、「構造改革」ではなく、景気と企業側の事情によるという見方だ。

 ただ、八代氏も「若年の非正社員は技能や技術を身につけないまま、年齢を重ねる。政府が手を出さないといけない」と言う。就職氷河期に正社員として採用されなかった20代後半〜30代前半の若年層がフリーターや派遣社員のままでいる格差の固定化を懸念する。

■雇用改善のコスト、誰が負担

 「言われているほど、日本社会に格差はない」

 昨年1月の国会答弁で小泉首相は、そう開き直った。当時は官房長官だった安倍首相も「汗を流した人、頑張った人、知恵を出した人が正しく評価されることによる帰結であれば、多くの方々が肯定的に格差をとらえている」と、格差を容認する立場をとっていた。

 だが、安倍氏は首相になると「再チャレンジ」構想を訴える。自民党の参院選の選挙公約では「フリーターとなった若者の正社員化に向け対策を講じ、人手不足の中小企業とのマッチングを進める」「最低賃金法の改正」など格差是正に軸足を移した政策を盛った。

 公明党との「連立与党重点政策」では、医師・看護師が不足する地域に対し、緊急に医師を派遣する態勢づくりを盛るなど都市と地方の暮らしの格差に焦点を当てた。

 民主党も06年度で全国平均673円の最低賃金を3年かけて1千円に引き上げる案や、時間外勤務手当の割増率を現行の25%から50%に引き上げる方針を「次の内閣」の重点政策とした。育児などで退職した人の職業復帰を支援する「再就職奨学金」の創設もうたう。

 与野党とも、格差縮小の具体策を競い合う。景気拡大が6年続いても雇用や収入の格差は拡大している。「民主導」の経済成長だけで格差は解消できない。その認識で与野党は一致している。

 では、広がる格差をどう埋めるのか。そのためのコストを、誰がどう負担するのかは難題だ。

 最低賃金引き上げは低所得の労働者に利点があるが、企業の負担は増える。かえって雇用が不安定になる懸念も指摘される。コストダウン競争をしている企業に対し、雇用条件の改善をどう促すかは簡単ではない。

 地方の雇用を中小企業支援策や公共事業で支えようにも、悪化した国の財政状況が壁だ。地方が従来のばらまき型政策に頼らず、地域の実情に応じた雇用対策を作れるようになるには、何が必要なのか。それも、各党の主張からは見えない。

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