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〈選択のとき:3〉学力伸ばす教育とは

2007年07月08日

■「世界に後れ」脱ゆとり拍車

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 教育をめぐる最大の関心事は、いつの時代も学力だ。「学力低下」が社会問題化して、すでに8年。今なお、教育政策の向かうべき道ははっきりと定まっていない。

 論争は「小中学校レベルの計算が分からない大学生がいる」と訴える本が出た99年ごろ始まった。低下論者の批判の矛先は、70年代にさかのぼる「詰め込み教育」からの脱却路線に向かう。

 この路線上にあり、02年度から本格実施された「ゆとり教育」に反発が高まる。やり玉に挙がったのは、学習内容の3割削減と完全週5日制だ。

 そして04年末。経済協力開発機構(OECD)が実施する学習到達度調査(PISA)の03年実施の結果が公表され、批判はピークに達した。

 読解力で日本の成績が00年の8位から14位に落ちたからだ=図上。数学や科学はトップレベルにあるものの、「国際的に後れを取った」との意見が各界から相次いだ。

 安倍首相が発足させた教育再生会議が先月、授業時間数の1割増を提言したのは、こうした危機感が背景にある。

 だが、本当に低下したのかははっきりしない。03年の調査対象になったのは厳密な意味で、ゆとり教育を受けた世代ではない。ゆとり世代を対象にした文部科学省の学力テストでは、非ゆとり世代より正答率が上がり、「勉強が好き」という答えも増えた。

 PISAは論理的な思考力に力点を置く。それは、ゆとり教育が志向する、自ら学び考える「生きる力」の育成という理念にも沿う。対するのは「基礎的な知識や計算力なくして、自ら学ぶことはできない」との声だ。だが、歴史を振り返ると、知識重視の教育は「詰め込み」として批判されてきた。

 ドラマ「3年B組金八先生」で70年代から中学生の姿を見つめてきた脚本家小山内美江子さんは、「振り回されるのは子どもたち。ゆとり教育の検証をもっときちんとすべきだ」と話す。

■自民「授業増を」 野党「予算充実」

 骨太の方針2007に授業時間数の1割増を明記した安倍政権。だが、自民党の参院選の公約には、教員定数の増加など予算増につながる表現はない。財政再建という制約があるためだ。

 これに対し、野党は共通して「教育予算の充実」を唱える。日本の教育への公的支出が03年で3.2%と、OECD加盟国の平均4.7%に比べ低いことを問題視。ただ、どう財源を確保するのかは各党とも必ずしも明確ではない。

 そもそも、PISAの結果では、授業時間が多い国が必ずしも成績上位とは限らない。

 増やせば授業についていけない層が増え、「日本の順位は下がる」。民主党で教育問題に詳しい鈴木寛参院議員は、そう推測する。読解力テストを習熟度(レベル5〜1)で見た場合、2以下が00年の28%から03年には40%に拡大。これを、塾に行けない層が平均を引き下げたとみる。

 共産党の石井郁子衆院議員は、1割増を導いた再生会議を「検証も科学的根拠もない」と批判。少人数学級の拡充で成績下位層への手当てをすべきだ、という。

 「1割増で改善できると思うのは、単純すぎる」。埼玉県の公立中の元教諭で「プロ教師の会」主宰の河上亮一さんも否定的な見解だ。

 学力が上がるのは、家庭が安定している児童・生徒が多数を占める恵まれた学校だけではないか、とみる。意欲のない子が多い学校は「今でもスケジュールに追いまくられている。子どもも教師もさらに疲れるだけだ」と話す。

 「単純な数式が成り立つかは、疑問だ」。参院選に自民党から立候補する義家弘介氏に代わって、再生会議に招かれた「オール1先生」こと宮本延春氏もそう話す。しっかり準備しないと授業が雑になるが、若い教師には十分な余裕がない、というのだ。

■現場の工夫こそ生かしたい

 政府の腰が定まらない一方で、学校現場では自助努力が進んでいる。

 PISAで読解力の順位が落ちたことをきっかけに、昨年度から「読解メソッド」という授業を始めたのは、京都市立御所南小学校だ。

 読解力1位のフィンランドの国語教科書を主に利用しながら、「書き方の型」を週1時間教えている。「自ら学ぶ」力の育成に力を入れてきた同校では、自己表現に積極的な子どもは増えたが、「問題は理解できていても、答えをどう書いていいのか分からない傾向がある」という新たな問題が浮かび上がってきた。

 そこで読解メソッドを採用。従来の国語との大きな違いは、文学作品を繰り返し読み漢字や語句を覚えさせていくのではなく、一つのテーマを与え、そこから「いつ」「どこで」「だれが」というような5W1Hを子どもたち自らに発見・分析させていくことだ。「読解力は他の教科にも生かされる」と村上美智子校長は言う。

 授業をいくら増やしても子どもにそれを受け入れる姿勢がなければ、何の意味もない。

 岡山市立岡輝(こうき)中学校は、10年ほど前まで校内暴力や喫煙などが日常化し、授業中も生徒が勝手に出入りする「荒れた学校」の一つだった。

 地域向けのコンサートで学校を開放したり、幼稚園や小学校、地域の人たちと連携して学校運営に取り組んだりしたことで、徐々に荒れは収まってきた。

 今春からは、教師が一方的に教え込むのではなく、学び合いを重視する協同学習の手法をすべての授業で採り入れた。目指すのは「友達同士のつながりで、どの生徒にも居場所のある授業」だ。森谷正孝校長は「授業力アップはもちろん大事だが、時間を増やせば学力が上がるという単純なものではない。逆に部活動など、多様な力を伸ばす時間が制限されてしまう」と話す。

 民間のシンクタンク「構想日本」の加藤秀樹代表は、「国が授業時間の増減を一律に決めること自体が問題。今よりはるかに予算が少なかった時代に学力が伸びたのも事実」と各党の公約に疑問を呈する。「政府に必要なのは中央集権的な指示ではない。現場に工夫させ、任せる姿勢ではないか」と訴える。

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