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〈美しい国とは:1〉米軍再編 35億円「約束」取り消し

2007年07月08日

 見知らぬアドレスからメールが届いたのは、6月7日深夜のことだ。

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「地方の意思をお金で左右するやり方は適切ではない」と語る岩国市の井原勝介市長。補助金の見通しが立たない中で新庁舎の建設が進む=6月29日、山口県岩国市で

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 堺市北区の団地に暮らす社会福祉法人職員の谷川眞(59)は帰宅後、パソコン画面に表示された一文に目が留まった。

 「国という大きな力に小さな岩国は押しつぶされそうになっています」

 末尾の署名には「井原勝介」とあった。

   ■   ■

 昨年12月19日、山口県岩国市役所の応接室で、市長の井原勝介(57)に広島防衛施設局の施設部長が切り出した。

 「防衛施設庁は、市庁舎への補助を見合わせることにしました」

 井原は言い返した。

 「明白な約束違反です。認められません」

 岩国市は05年度から、芸予地震(01年)で耐震性が下がった市役所庁舎の建て替え工事を進めていた。本体工事費81億円のうち49億円を国の補助金でまかなう計画。07年度に35億円を補助してもらえば完成するはずだったのに、防衛施設庁は突然、全額カットを通告してきた。応接室の窓越しに、組み上がった新庁舎の鉄骨が見えていた。

 人口15万人の岩国は「基地の街」である。臨海部の米海兵隊岩国航空基地に57機が所属する。戦闘攻撃機が離陸すると、雷鳴のような音が市街地に降り注ぐ。

 市庁舎の補助金は、96年の日米特別行動委員会(SACO)の合意で沖縄の負担軽減のため空中給油機12機を受け入れたことへの見返りだった。

 そこへ、新たに空母艦載機を移駐させる日米両政府の再編方針が05年10月に公表される。井原が自ら発議した06年3月の住民投票では、87%が反対。合併に伴う翌月の市長選でも移駐案撤回を掲げた井原が自民推薦候補を破って当選した。

 政府は艦載機59機を14年度までに岩国に移駐する方針を閣議決定。防衛施設庁は「08年度までに滑走路を約1キロ沖合に移せば防音区域が現状の3割まで減る」などと受け入れを迫った。

 だが、井原は「沖合移設は再編の受け皿になるための事業ではない。住民の意思も示されている」と突っぱねる。その結果が補助金カット。補助目的は、いつの間にか米軍再編に伴う地元負担への配慮に変わっていた。

 当時防衛相だった久間章生(66)は衆院決算行政監視委員会の分科会で民主党議員から理由を問われ、「(再編を)受け入れられないという市長さんの話が出て参りましたので」と答弁した。

 岩国市に隣接する広島県大竹市長の入山欣郎(よしろう)(60)は昨年12月、再編反対の旗印を下ろし、容認に転じた。入山は言う。

 「国は、恭順の意をもって交渉しないと話に乗ってくれない」

 今年5月、「米軍再編特別措置法」が成立した。米軍再編を容認する自治体には交付金を出すが、反対したら出さない。防衛施設庁によると、再編に関係する68自治体のうち、6月時点で受け入れていないのは21自治体。ただ、反対しても再編は中止されない。「日米で合意し、閣議決定もされた」と広島防衛施設局の幹部はいう。

 岩国市議会は保守系会派が再編容認に傾き、庁舎建設事業費を合併特例債でまかなおうとする同市の一般会計予算案を3月と6月議会で否決。市は6月29日の臨時議会で、引き続き防衛施設庁に補助金を要請することを約束し、35億円の未確定な国庫補助金をあてこんだ予算が成立した。

 国が方針を変える見通しは、今のところない。防衛施設庁は「年度内に補助金を出せるかどうかは、再編に対してどのように理解を示していただけるかにかかっている」(周辺対策計画官)。

   ■   ■

 住民投票のときに井原を応援するメールを送っていた谷川は、復帰前の沖縄で起きた「事件」を思い出している。祖国復帰と民主主義を掲げた那覇市長の瀬長亀次郎が米軍ににらまれ、補助金を止められる。それを知った市民が納税のために長蛇の列を作った実話だ。

 岩国市でも補助金カット以降、市民から市役所に募金が届く。これまでに約636万円。「市民の心意気」に、井原は感謝してやまない。(敬称略)

   ◇

 安倍首相にとって初めての参院選が、12日に公示される。5年5カ月間続いた小泉政権を引き継いでから10カ月。首相の掲げる「美しい国」づくりは、私たちの暮らしを、この国の姿を、どのように変えようとしているのだろうか。現場を歩き、考えた。

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