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〈決戦の現場から:1〉保守王国に異変

2007年07月13日

 ■島根 青木氏、必死の引き締め

写真

  

 景山俊太郎 63 参院総務委理事 自現〈公〉

 後藤 勝彦 39 党県書記長   共新

 亀井亜紀子 42 〈元〉衆院議員秘書 国新〈民〉

    ◇

 「こんな苦しい選挙はありません。半年前には想像もしなかった、逆風の中での参院選でございます」

 12日朝、自民党の青木幹雄参院議員会長は、地元・松江市の島根県庁前で声を張り上げた。

 3年前の自らの選挙では期間中、一度も地元に入ることなく、民主党候補に13万票差をつけて圧勝した。ところが今回は期間中にもう一度、現職の景山俊太郎氏の応援に入ることも考えている。党県連会長で陣営の総括責任者という立場があるにせよ、全国の戦いを仕切る身としては異例のことだ。

 もともと厳しい戦いだと覚悟し、組織を引き締めて乗り切ろうとした。島根では、竹下登元首相の時代に築いた「王国」がなお健在だ。参院選で自民公認が負けたのは、過去10回では89年しかない。このときはリクルート事件の逆風をまともに受け、竹下氏が3回も地元入りしたにもかかわらず苦杯を喫した。

 今回は年金記録問題に閣僚の失言、不祥事も加わり、組織戦だけでは挽回(ばんかい)できないほどの逆風となっていた。青木氏は「選挙はいつ何が起こるかわからない。ここで負けたら、全国で大敗だわね」と覚悟を決めた。

 6月30日の土曜日。未明に参院本会議が終わると、景山氏は早朝の一番機で松江市に戻り、11カ所をはしごして年金問題について釈明した。だが、支持者はうなずいて耳を傾けてくれるが、反発のうねりは簡単にはおさまらない。

 「電話で呼びかけても『今回だけは自民党に入れない』と答える人がいる」「後援会の入会申込書の回収が低調だ」。陣営には「異変」が次々と寄せられてくる。7月3日に県議らが開いた会合では「自民支持の4割程度を固め切れていない」との独自の調査結果が報告され、陣営幹部は「まさかのデータだ。これほど批判的な世論が多いとは」と顔色を失った。

 12日朝の景山氏の出陣式。1カ月前には「島根では年金は争点にならんわね」と余裕をみせていた青木氏も、政府の対応策を紹介して訴えた。「一国の総理の公約だ。安倍総理の言葉をひとつ信頼してください」

 一方の民主党側。同党の候補者選考は難航し、国民新党の亀井久興幹事長の長女、亜紀子氏を擁立し、民主党が推薦することが決まったのは6月5日。同党の1人区では最後から2番目の遅さだった。

 それでも追い風に乗って支持を広げつつある。亜紀子氏の訴えの中心は小泉・安倍両政権の「構造改革」批判だ。「都市と地方の格差は広がり、島根は競争しろと言われても生き残れない。たまにはノーと、思い切って、言いましょうよ」

 島根の06年度の公共事業費は1297億円。98年度のピーク時の半分以下に減り、自民党の選挙を支えた地元業者は打撃を受けている。亜紀子氏は言う。「自民党の支持者の人でさえ、最近の政治はおかしいと思っている方がたくさんおられる」

 ■長崎 首相とのポスター撤去

 小嶺 忠敏 62 〈元〉国見高校長  自新〈公〉

 渕瀬 栄子 51 〈元〉大瀬戸町議  共新

 大久保潔重 41 〈元〉県議     民新〈国〉

    ◇

 「閣僚の問題行動、問題発言があまりに多い。松岡利勝・前農林水産相は自ら命を絶ってしまった。安倍首相には任命責任がある」

 12日朝。民主党の大久保潔重氏は長崎市内の大型ショッピングセンター前の出陣式で、こう強調した。赤城農水相の事務所費問題で再燃した「政治とカネ」の問題で、首相を批判。さらに原爆投下の「しょうがない発言」で防衛相を辞任した地元の久間章生氏に矛先を向けた。「多くの人が原爆の被害に遭われ、いまでもその苦しみの中で核兵器廃絶と世界の恒久平和の活動に携わってきた。その努力を踏みにじる発言で、断じて許すことはできない」

 もともと民主党は、自民党の足元から攻め込んでいた。

 4月の長崎県議選で、自民党は前回27議席から19議席に落ち込んだ。特に離島の4選挙区をすべて落としたことが深刻だった。「合併で市町村議が減り、住民の声を拾い上げる力が落ちた」。離島の党支部長の一人はこう振り返る。その結果、県議も減って国政選挙を戦う力も落ちるという悪循環に陥った。

 「参院選に立候補する民主党の大久保さんのあいさつがあります」。6月下旬、五島列島・福江港の魚市場。漁協幹部の呼びかけで集まった漁師や仲買人の前で、大久保氏は「長崎、五島から日本を変えなくちゃいけない」と訴えた。こうしたことができるのも、地元選出の県議の座を民主党が握ったからだ。その1週間前に市場を訪れた自民党公認の小嶺忠敏氏の時は、こうした呼びかけはなかった。

 その小嶺氏にとって、久間氏の失言はあまりにも重い打撃だった。

 発言があった翌日には「許せない。毎年久間さんはどんなつもりで平和祈念式典に出席していたのか」などと、陣営や県連に何十本もの抗議の電話が殺到。各地の集会で国会議員らが「お許しいただきたい。原爆が『しょうがない』なんてことはない」とひたすらわびた。

 7月2日の小嶺氏の総決起集会。県連幹部は「小嶺は党員になってまだ6カ月。『自民党、だらしがないぞ』という思いはみなさんと同じだ」と呼びかけた。逆風を少しでもかわそうと、「自民党」と切り離しにかかったのだ。安倍首相と小嶺氏が一緒にうつったポスターも、はがして回った。

 12日の出陣式。小嶺氏擁立を主導した久間氏の姿はなく、小嶺氏も「私は農業、漁業の家で育った。庶民の目線から自民党を変えたい」と、久間氏の問題にはいっさい触れなかった。

 ただ、比例区選出で自民党の冨岡勉衆院議員は、小嶺氏の苦境をこう表現した。「逆風、逆風、暴風雨。最後にバケツをひっくり返したような防衛相の発言もあった」

     ◇

 安倍政権に対する逆風はなお強く吹いているのか、1人区をめぐる攻防に2大政党はどう臨んでいるのか。12日公示された参院選。「天下分け目の決戦」の現場を歩く。

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