盛岡市の会社員の女性(36)はこの春、2人の息子を保育所に入れることをあきらめた。
昨年6月、市の窓口で「満員」と言われ、近くの幼稚園に入れた。午後2時半に帰宅する2人の世話は、近所に住む母(61)に頼んだ。今年1月、改めて保育所を申し込んだが「落選」が続き、入所決定の通知が来たのは5月。保育所なら延長保育があり母の負担も軽くなり、幼稚園より安い。だが、4月に進級した2人には友達もできていた。子どもの気持ちを思えば、保育所に移るのは無理だった。
母は、入院中の祖母(84)の介護も抱える。夫は単身赴任。「高齢の祖母や母に何か起きれば、今の暮らしは無理。安心して子育てしながら働ける仕組みがほしい」
県児童家庭課のまとめでは、保育所への入所を待つ待機児童は4月1日現在で95人。昨年同期に比べ20人増えた。今年1月には一時、245人にまでふくらんだ。佐々木比呂志・総括課長は「昨秋からの不況で仕事に出る母親が増えたため」とみる。
さらに、この待機児童数は実態を反映しているとはいえない。厚生労働省が待機児童の定義を「両親が働いて、自宅から30分以内の保育所への入所を希望する場合」に限っているためだ。盛岡市の厚労省定義の待機児童は6月1日現在で27人。だが、親が求職中など、「定義外」を含めると272人になる。
佐々木課長は「各自治体と協力して受け入れ枠を増やし、幼稚園に保育所の機能を持たせる『認定こども園』の設置も進めていきたいが、施設ができると『ならば、私も子どもを預けて働きたい』という潜在需要が掘り起こされるのも実情」と話す。
5カ月の長女を育てる盛岡市の中村悦子さん(40)は4年前にノルウェーを訪れ、父親にも収入を保障したうえで育児休暇を割り当てる「パパ・クオータ制」などの手厚い支援制度に衝撃を受けた。今回の各党のマニフェストを前に「子ども手当や児童手当などを増やすというが、その財源はどうするのか。お金は魅力だが、安心して産み、育てられる環境づくりも重要だと思う」という。
子どもの一時預かりや親子向けセミナーなどの活動を行う盛岡市のNPO「いわて子育てネット」の両川いずみ事務局長は「家族のあり方が変わって地域のコミュニティーも失われ、子育てに周囲の手助けは期待できない。同様の理由で家族だけで高齢者を介護ができなくなった結果、介護保険制度ができたように、子育ても社会的な支援が必要」と話し、こう指摘する。
「なぜ少子化対策が必要なのか、だれの、何のための支援なのか、各党のマニフェストには『主語』がない。そこをはっきりさせるべきだ」
(貫洞欣寛)
■主要政党のマニフェスト概要
●自民党
幼稚園、保育所など幼児教育費を3年で無償化。高校や大学への就学援助制度や給付奨学金制度の創設、子育て期の短時間勤務を義務化。
●民主党
1人当たり月額2万6千円の子ども手当を中学卒業まで支給。55万円の出産一時金支給。公立高校の授業料無償化。生活保護の母子加算復活。
●公明党
児童手当を倍増、支給対象を中3まで引き上げ。妊婦検診完全無料化。出産育児一時金を50万円に引き上げ。育児休暇取得などのため中小企業に助成金。
●共産党
認可保育所の整備促進。子どもの医療費を無料化し、児童手当を倍増、18歳まで支給。公立高の無償化と私学への授業料助成。生活保護母子加算の復活。
●社民党
中学卒業まで医療費を無料に。18歳まで1人に月1万円、第3子以降は2万円の子ども手当。母子加算の復活。妊婦検診と出産の自己負担無料化。