<政治家から仕事をもらうという意識はもう捨てた。自分の会社は自分で守る。――松山の建設業男性>
「私の一番の責任は会社を再生させること。全社一丸となって以前のように成長できる企業にしたい」。8月上旬、県内の建設大手「ジョー・コーポレーション」(松山市)の中岡大起社長(49)は県庁で記者会見し、神妙な表情を浮かべた。1月に民事再生法を松山地裁に申請してから約7カ月後のこの日、松山市内で開いた債権者集会で、再生計画案が賛成多数で可決された。
●売り上げ急減
債権額は64億3200万円。10万円以下の債権については、2カ月以内に一括して支払うが、10万円を超える債権については、債権額の95%を免除してもらい、残る5%は来年から10年かけて分割返済することになった。
創業80年を超す同社は90年代以降、公共工事依存型から分譲マンションや商業施設などの民間工事にシフトし、急成長した。ピーク時の06年12月期決算は約341億円の売上高を計上し、業界から注目される存在になった。
しかし、建築確認審査を厳しくした改正建築基準法の施行(07年)による着工の遅れや、得意先だったパチンコ業界の低迷で、売上高は07年12月期に約244億円に減少した。さらに昨秋のリーマンショックが追い打ちをかけ、マンション需要が激減し、08年12月期には131億円に落ち込み、資金繰りも悪化した。
中岡社長は「政府の行き過ぎた建築基準法の改正で突然、工事がストップした。何とか我慢していたが、最後に不況の波にのまれた」と振り返る。
再生の道を選んだが、社員数を約380人から約150人に減らし、本社以外の不動産はすべて売却するなど代償は大きい。中岡社長は「今後は、住宅リフォームや店舗改装などの小口営業を強化し、年間50億円前後の売上高をめざしたい」と話す。
●相次ぐ倒産
県内の建設業を取り巻く環境は、自治体の財政難で公共工事が減り続けていることに加え、昨秋以降の民間投資の抑制で厳しさが増している。
東京商工リサーチ松山支店によると、今年1〜6月の県内の企業倒産数(負債総額1千万円以上)は78件(前年同期比19件増)で、このうち建設業が36件(同11件増)と半数近くを占める。7月の倒産は、建設業は4件で前年同月より5件減ったが、同支店は「公共、民間工事ともに受注環境はまだ厳しく、建設業の倒産が沈静化したとは言い難い」と分析している。
総選挙公示後の最初の週末、松山市の大街道であった民主党候補の街頭演説の聴衆の中に、同市内の建設業の60代の男性の姿があった。男性はこれまで、国政選挙でも地方選挙でも自民党に投票してきたが、今回は愛媛1区の全候補者の街頭演説を聴いた上で、投票先を決めるという。
演説を聴き終えた男性が言った。「政治家から仕事をもらうという意識はもう捨てた。自分の会社は自分で守る。今の子どもたちが大人になった時の日本の姿を想像して投票したい」
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総選挙で各党がマニフェスト(政権公約)の柱の一つに掲げているのが、深刻な不況に対する景気対策だ。県内の中予、東予、南予の各地域が抱える課題の現場を歩き、投票日を前に有権者は何を思うのかを探った。