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《総選挙 どこ見て選ぶ:上》国のお金の使い方

2009年6月29日

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 総選挙が近づき、各政党はマニフェスト(政権公約)づくりの作業を本格化させている。政権選択の選挙に向け、自民、民主両党はどんな具体策を示してくるのか。個別の政策を点検するのに先立ち、両党の政策の底流にある「考え方の違い」を、3回にわたって分析する。

●民主は直接支給に力点

 民主党の川内博史衆院議員の地元・鹿児島市の事務所に、「政治活動を妨害するもので、不当な対応」などと記した抗議文を手にした農協(JA)の幹部が訪れたのは、4月6日のことだった。

 標的は、民主党が提出した農業協同組合法等の改正案。農協や漁協など農林水産省が所管する組織を「特定の政党のために利用してはならない」と明確にしたものだ。

 川内氏は不在だったが、翌7日、同氏は衆院農林水産委員会で、この一件を取り上げながら言った。

 「農協の職員でも私を応援し、私の会に顔を出す方もいる。ところが選挙が近くなると、その人まで(自民党候補の)集会に動員され、職務上命令されるような形で参加させられる」

 農協などの農業者団体は、自民党が伝統的に頼りにしてきた有力な支持団体だ。選挙になると政治団体として集票活動を行う。こうした組織としての政治活動をしないようクギを刺した法案は同8日、野党が多数を占める参院で可決され、衆院に送られた。

 民主党が狙うのは、農協ではなく一軒一軒の農家からの支持だ。そのために、農協などの組織を経由させる従来の農家補助の仕組みを、根底から変えようとする。

 生産にかかった経費が市場価格より高くついた場合、農家ごとにその差額を補償する――。07年参院選で農村を中心に地方の選挙区での圧勝をもたらした目玉政策の一つ、農家への戸別所得補償制度は、次の総選挙でもマニフェストの軸に据える方針だ。

 景気対策の特効薬は財政出動とばかりに、自民党も民主党も今、競うようにバラマキ政策を打ち出している。

 ただ、その使い方には大きな違いがみられる。民主党を「直接支給型」とすれば、農協など集票マシンとなる組織や団体を潤わせる手法をとる自民党は、「間接支援型」と言えるだろう。

 05年衆院選でのマニフェストを見ても、すでにその違いは明らかに出ている。

 バブル崩壊後の就職氷河期に社会に出た若者の就労支援で、自民党は若者の教育訓練に取り組む企業への支援を掲げ、06年度予算に助成を盛り込んだ。一方の民主党は、一人ひとりの若者に対する就労支援として、必要に応じて1日1千円、月3万円相当の手当の支給を打ち出した。

 民主党は参院選で勝利した後、月額2万6千円を支給する「子ども手当」や、高校3年分の標準授業料を国が肩代わりする「高校無償化」の法案を提出した。いずれも、次期衆院選でマニフェストの目玉となる。「直接支給型」の色合いは、これまでよりいっそう強くなりそうだ。

●自民は業界団体経由で

 無党派層をつかみとるような「直接支給」で活路を見いだそうとする民主党に対し、一定の集票力を頼める組織を切り離すことはできない自民党にとって、組織・団体経由の支給は今もなお命綱だ。

 農民票を奪われた形の自民党は、これまで以上に農政に力を入れ始めた。その目はやはり、まず農協などの組織に向けられている。

 09年度補正予算では、農水関係事業だけで1兆円を超えた。その中で、戸別所得補償制度に対抗する目玉が、麦・大豆への転作や米粉米・飼料米の生産を補助する「水田フル活用」の積み増し。この事業の多くは、農協などが補助金の受け皿だ。

 民主党の川内氏に抗議した農協で農政部長を務め、鹿児島県農民政治連盟事務局長でもある桐良幸さんは「農政は集落社会全体を見渡して実施しなければならず、農協のような組織が必要だ」と言う。自民党の大物農林族議員は「(戸別に)恵んでもらう政策は、農家の共感を得ない」。ともに農家と行政との中間組織として、農協の存在意義を強調した。

 「間接支援型」をとる自民党の支出の手法は、最近の景気対策でも表れている。

 補正予算の、乗用車をエコカーに買い替える際に最大25万円の補助金を出す仕組みや、省エネ家電買い替えに伴うエコポイント制度などは、企業の販売促進を後押しする。野党から「業界支援だ」との批判も出たが、園田博之政調会長代理は「会社側できちんと雇用の場を広げてもらうのが目的だ」と反論する。

 高速道路の「一律1千円」は、高速道路会社に補助金を出す手法をとった。会社が割引料金を徴収する手間を省くため、対象はETC搭載車に限られ、利用者すべてには恩恵が行き渡らなかった。

 また自治体への予算配分でも「間接支援」と呼べる事例がある。09年度補正予算で新設された「地域活性化・公共投資臨時交付金」で、国直轄の公共事業の地方負担分の9割程度を軽減。国が肩代わりして公共事業を着実に進めれば、地元の建設業者などの仕事が増え、間接的にそこで働く地域住民の生活も潤うことになる、という考え方だ。

 これに対し民主党は、国から自治体へのすべての補助金をなくし、その分を自治体に一括で渡して自主財源とする、いわば「自治体への直接支給」を主張している。

 今春から実施されている定額給付金は、「直接支給」の最たる例だ。自民党は、連立を組む公明党の強い要望で実現させた。景気対策に一定の効果があったと自画自賛してはいるが、「こういう手法のバラマキは、もうこれで十分」(幹事長経験者)というのが党内の本音でもある。

■手法の違いは両党歴史の差

 「自民党も民主党も同じバラマキで、選びようがない」という声を聞く。でも、果たしてそうだろうか。

 両党のやり方には、紹介したように大きな違いがある。それぞれが抱える歴史の差、と言えるだろう。

 長らく唯一の政権政党として官僚機構と二人三脚で歩んできた自民党は、行政と国民との橋渡し的な組織をかませることで、政策を安定させる工夫をしてきた。対する民主党は新しい政党らしく、国民に政策の効果を直接もたらすことで、恩恵を実感してもらおうと意気込む。

 「次」の政権を選ぶにあたって、こうした違いを判断の物差しの一つにしてみてはどうだろうか。(林尚行)

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