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《にっぽんの争点:農業》所得補償か 減反・転作か

2009年8月26日

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 民主党が掲げる農家への戸別所得補償の創設は、マニフェスト(政権公約)で、最も注目度の高い政策の一つ。関東地方の農家の男性(58)は「確かに聞こえがいい」と話す。仲間と顔を合わせれば、話題になるという。

 85年に543万人だった農業就業人口は、05年には335万人に減少した。うち6割は65歳以上。06年の農業出荷額は84年に比べ約3割減った。08年度の食料自給率(カロリー換算)は41%で、政府目標の50%は遠く、主要国で最低水準だ。

 民主党は07年参院選で、農家への直接支払制度を打ちだした。以来、党の看板で今回のマニフェスト作成にあたっても、実施時期を原案の「12年度」から「11年度」に前倒しした。鳩山代表は19日の青森県での遊説で「戸別所得補償という当たり前のことをしたい」と力説した。

 収穫が天候に左右される農作物の価格は、変動が大きい。そこで作物ごとに生産数量目標を設定し、目標を守る農家には、販売価格が生産コストを下回った場合、その差額を国が直接支払う。農家の経営は安定し、農業再生につながるという。

 まずコメを対象に11年度から実施し、予算規模は1兆円。その後、他の作物や畜産物などに対象を広げ、予算規模は1兆4千億円を見込む。

 現行のコメの生産調整(減反)は生産を抑えることで、価格安定を図ってきた。生産数量に目標を設ける点では減反と同じだが、全員参加が前提の減反と違い、従うかどうかは農家の判断に任せる。「支払いは要らない」という農家には自由に増産を認める。減反を「事実上の選択制」に変える考えだ。

 農家への直接支払いは、自民党を除く主要各党とも公約で触れている。共産党は「価格補償制度で当面コメ60キロあたり1万8千円を確保」と具体的。公明党も「環境への負荷を抑える農業の取り組みに直接支払いを行う」とした。

 民主党の農業政策について、麻生首相は「農業をまじめに考えたことがない」と批判する。自民党は代わりに「水田フル活用」を掲げる。主食用のコメは減反を維持する一方、余っている水田を使い、飼料用のコメ、麦や大豆への転作を奨励する。応じた農家には補助金を支払う。

 水田フル活用は09年度、初めて導入。当初予算で約400億円を計上、補正予算で1168億円を追加した。これまで飼料用米などは販売価格が安すぎて、農家の生産意欲が低かった。そこで「十分な所得をあげられるよう支援を拡大する」と約束する。

■競争力高める策に弱点

 戸別所得補償の課題は、事務作業の繁雑さと財源にありそうだ。コメのほか、麦や大豆など他の農産品まで手を広げると、生産費や販売価格の算出や実際の農家への支払い手続きなど自治体やJA(農協)の作業は膨大になる。

 民主党は「コメは基本的に現行の減反制度を流用できる。減反が大変なのは生産を抑制するからだ」と主張するが、石破農林水産相は「言葉を選ばずに言えば、幻想に等しい」と事務作業の難しさを突く。

 減反が選択制になると、当面のコメの生産量は増えると見られる。生産過剰で米価が下落すると、生産費と販売価格の差額は今よりも開き、所得補償額も膨らむ。

 また、世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は「10年中妥結」を目指している。農産品の関税引き下げが議論されており、コメは高関税で守るにしても、低関税の輸入枠の拡大を迫られかねない。輸入増で国内価格が下がると、補償額増加につながる。

 自民党の「水田フル活用」は、交付金の種類が入り交じり、制度が複雑なのが難点。導入初年度の09年度、実際の転作は目標の10分の1程度にとどまっている。

 また、現行の減反は農家の評判が悪く、3割は不参加とされる。参加者も不参加者も米価は同じだから、目標に従い生産を抑えた農家が損をする。矛盾を放置したままでは農家の不満は解消しない。

 そもそも、日本の農業の大きな課題は大規模化が進まない点にある。

 戸別所得補償は、零細農家も対象に含み、経営拡大への意欲がわきにくい。批判を意識し、民主党は規模の大きな農家への支払いを上積みする考えだ。「加算制度で共同耕作などを通じた農地の集積が進み、生産性の向上につながる」としているが、効果は上積み額による。上積みを増やせば、予算も膨らむ。

 自民党は従来、支援農家を一定の面積以上に限ってきた。だが、戸別補償への対抗策で「すべての意欲ある農家を支援対象とし、面積・年齢要件は撤廃する」と変えた。大規模化を後押しする姿勢は薄れてしまった。

     ◇

 〈減反〉 米価の値崩れを防ぐため、政府や自治体、農家が連携して作付面積を減らす制度。参加農家へは各種の助成金を出す。70年代から本格実施された。毎年農水省が各都道府県ごとに作付面積を決め、自治体やJAが各農家に生産量を割り振っている。

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