26日夜、長崎県諫早市で開かれた個人演説会。支持者と握手をする自民前職の久間章生氏(68)に、韓国のテレビ局MBCのプロデューサー宋日準(ソン・イルジュン)さん(51)が突然マイクを向けた。「対立候補は古い体質の利益誘導の政治を批判しています」
当選9回で閣僚経験もあるベテラン政治家は動じなかった。「それは違う。政治はそもそも利益誘導だよ。利益のない政治なんかあり得ない」。強い口調でそう言い切った。
民主新顔の福田衣里子氏(28)の先行が伝えられる長崎2区。薬害訴訟の原告として知られる若い女性候補と競り合う久間氏の姿は、民主党に追い込まれる自民党政治そのものと重なり、海外メディアも注視する。
宋さんは99年から3年間、東京に駐在した日本通だ。「政権交代がいわれる総選挙を象徴的に示す選挙区を探した。ここを通じて日本の今を伝えたい」。選挙カーを追いかけて山あいの村々を回った。久間氏は街頭演説で国道の拡張工事の遅れに触れて「僕も申し訳なかった。もっと県に働きかければよかった」。旧来型の政治家として率直に語る久間氏に宋さんは好感をもった。
28日には、ヘリで諫早入りして「この人に助けてもらった。ここに伺わねばならんとやってきた」と盟友の支持を訴える麻生首相の姿を追った。
福田氏には勢いがあると感じた。「今回は民主だ」と多くの人がカメラに向かって語った。その根源を探ろうと、25日には福田氏に突撃取材を試みたが、陣営から断られた。「日本の政治を変えるというが、福田氏がどういう政治家なのか、まだよく分からない」と語る宋さんは、こう言葉をつないだ。「硬く、慣れていない政治。それが政権交代後の日本の政治にならなければいいが」
海外からの視線は選挙後の自民党にも向く。
28日夕、米ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさん(42)が東京・王子にある公明前職の選挙事務所を訪れた。自民支持者を集めて支援を訴える小渕優子少子化担当相(35)の取材だ。多くのベテランが苦戦するなか、群馬5区で安定した戦いが伝えられている。どう自民党が変わろうとしているか、次世代の担い手としての小渕氏を通じて見定める狙いだ。
頭に浮かぶのは93年の細川政権発足で野に下った自民党の姿だった。「子どもっぽく、反対しかしなかった印象がある。日本の民主主義にとっては成熟した野党の建設的な批判が必要だ。今回、自民党はそうなれるのだろうか」(「地殻変動」の連載はこれで終わります)