「怒」、「怒」、「怒」――。23日、首相就任後、初めて沖縄を訪問した菅直人を待っていたのは抗議の意思を示す人々の姿だった。「沖縄全戦没者追悼式」では「帰れ!」のヤジも飛んだ。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題は、自公政権と同じ名護市辺野古への移設で日米両政府が合意した。首相が交代しても、沖縄の民主党政権に対する失望は深いままだ。
民主党は沖縄選挙区(改選数1)で候補者擁立を見送った。全国で唯一の不戦敗だ。
党沖縄県連代表の喜納昌吉は6日、党選挙対策本部長代理の石井一と会い、那覇市議を擁立する方針を固めた。選挙を取り仕切ってきた前幹事長の小沢一郎も9日、幹事長になった枝野幸男への引き継ぎで「沖縄に立てないちゅうわけにはいかんだろう」と要望した。
だが、2日後、喜納と面会した新選対委員長の安住淳は首を縦に振らなかった。この那覇市議が「県内移設」に反対しているのが理由だった。
安住 「政府方針と違う候補者を立てれば、マスコミに注目され、選挙戦全体に影響を与えかねない」
喜納 「民主党が出さなければ、どの候補も反政府、反民主でくる。県連の思いを訴えたい」
「県外移設」を主張する公認候補を立てれば、菅政権の方針との整合性が問われかねない。菅も喜納に電話した。「喜納さん、うまく、神妙にやってくれないか」
党内には昨年の衆院選で前首相の鳩山由紀夫が「最低でも県外」と訴えたことが、鳩山政権の迷走につながったとの思いが強い。党幹部は「選挙という意味で言えば沖縄は47分の1だ」と言い切る。
比例区に立候補する喜納はおさまらない。22日、沖縄市での事務所開きで「我々は自公政権に勝ちはしたが、党内の権力争いでは勝っていない。県外、国外移設を取り下げたら沖縄の運命が終わる」と、党本部を批判した。
菅政権は8月末までに日米で移設の具体案をまとめ、じっくり沖縄の理解を得たい考えだ。ただ、主要閣僚の一人は「そんな簡単なものではない。協議は入り口の手前だ」と言う。
参院選後、9月に名護市議選、11月に沖縄県知事選が控え、当面は地方選挙の行方を見守る姿勢が見え隠れする。党県連幹部は「知事選で不戦敗はあり得ない。これはケンカだ」。
11月の知事選をめぐって、「国外移設」を唱える宜野湾市長、伊波洋一が立候補に前向きな発言を始めた。
伊波は喜納の事務所開きに顔を見せ、こう訴えた。「沖縄で民主党は厳しい状況だ。菅政権の方向性を沖縄の立場から変えていきたい」
首相官邸は神経をとがらせる。政府高官の一人は「県内移設反対の強硬派が知事になると、結局、普天間飛行場が移設できずに残るという話になる」と警戒する。
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一方、「県内移設」を容認していた知事の仲井真弘多は、参院選で自民現職、島尻安伊子(45)の選対本部長に就任。24日の第一声で「与野党問わず、しっかりした政治家を送り出さないと沖縄の課題が解決しない」と強調した。
会場には元防衛相の小池百合子も駆けつけ、民主党の「不戦敗」をなじった。
「鳩山さんは迷走、暴走、逆走して、最後は逃げた。そして菅さんも逃げている。民主党の候補者、どこにいるんですか」
ただ、もともと2006年に「辺野古移設」で米政府と合意したのは自民党政権だ。「県外移設」を訴える島尻は、22日の公開討論会で党と自らの主張の矛盾を問われると、「鳩山政権下での日米合意には『地元沖縄との合意』はない。そんな合意は有効であるはずがない。無効を訴える」とかわした。
日米安保体制の下、政権交代しても変わらない在沖縄米軍基地の現実。菅は27日夕、オバマ米大統領との会談で「日米同盟が我が国の平和と繁栄をもたらした」と強調。そして普天間移設問題について「日米合意の実施に向けて真剣に取り組んでいきたい」と伝えた。=敬称略
(佐藤徳仁、松川敦志)
■沖縄(改選数1 候補者数4)
山城博治 57 無新 〈社〉 自治労県副委長
伊集唯行 59 無新 〈共〉 医師
金城竜郎 46 幸新 幸福の科学職員
島尻安伊子 45 自現(1) 〈元〉那覇市議