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日韓新政権、東アジアの平和と安定へイニシアチブを発揮せよ

西野 純也(にしの・じゅんや)/慶応大学准教授(韓国政治・国際政治)

2013年1月28日

 日本と韓国の新政権は今年初めから関係修復への意思を示した。安倍晋三首相は親書を携えた額賀福志郎特使をソウルに派遣し、韓国の朴槿恵(パク・クネ)次期大統領は「国民情緒に合った信頼を構築し、友好関係が緊密になるよう努力していくことを望む」と特使に答えた。このやりとりが、日韓の新指導者間の信頼構築の第一歩となることを期待したい。


歴史問題は真摯かつ慎重に

 昨年は、竹島の領有権、日本軍元慰安婦などの「歴史問題」で日韓政府の立場の違いが、国民感情の悪化を伴う対立にまで発展した。日韓の新指導者は、これまで以上に歴史問題に対して真摯かつ慎重に取り組まなければならない状況に置かれている。

 近年の日韓関係をみると、市民レベルでの交流の拡大と相互理解の深まりにもかかわらず、政治レベルでの相互理解の欠如が日韓関係全体を大きく傷つけてしまっている。日韓の新政権はまず、相手の政治外交上の優先順位は何であるのか、また相手はどのような国内政治状況に置かれているのか、に対する理解を深めるところから関係修復を始めてほしい。

 日本側は、大統領はじめ韓国の政治家が、植民地の支配者だった日本との関係を前進させるには大きな政治リスクを背負わなければならないことを十分理解すべきである。特に、朴槿恵氏は、韓国社会ではときに「親日派」として指弾される朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の長女であるため、対日関係では常に韓国民の厳しい目を意識せざるを得ない。

 一方、韓国側は、今日の日本社会において「軍国主義の復活」は起こり得ない、ということを理解すべきである。また、慰安婦問題解決のための「アジア女性基金」の設立など、これまでの日本の取り組みについても目を向けてもらいたい。日本の新政権に対する韓国メディアの評価は総じて極めて厳しいが、日韓新政権はお互いに対する先入観を排して、冷静に相互理解に努めてほしい。

シャトル外交の再開、欠かせない交流の活性化

 そのためには、日韓首脳のシャトル外交の再開を含めた、両国指導層の交流活性化が欠かせない。額賀特使派遣に応える形で、韓国の与党党首ら国会議員団の訪日が早くも実現したことは幸いである。日韓間には、問題が発生した時にすぐに絶たれてしまうような交流や対話ではなく、問題解決の契機を提供するような政治家間の交流、対話のネットワークがいま必要とされている。日韓の新政権は意識的にネットワークの構築に力を注いでほしい。

 日韓新政権が取り組むべき課題が歴史問題にとどまらないことは言うまでもない。日韓関係を「単に二国間の次元にとどまらず、アジア太平洋地域、さらには国際社会全体の平和と繁栄のために」前進させていく、ことが1998年の日韓共同宣言でうたわれてからすでに15年が経つ。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権の登場、中国の海洋進出の活発化などにより東アジア情勢が緊張と不安定化の度合いを強めている現在、日韓の新政権は地域の平和と繁栄のためにどのような貢献ができるのか、日韓間でどのような協力が可能なのかを今一度確認すべきである。

 その際に出発点となるのは、「認識の一致」よりも、相手の考えや置かれている状況を理解し、できる限り相手の立場を尊重する姿勢である。歴史問題への取り組みと同じように、日韓が「相互理解と尊重」の精神を発揮しつつ、不断の努力によって関係を発展させていく。それが、朴槿恵氏が大統領選挙公約で掲げた「信頼外交」の実践となるに違いない。

朝鮮半島の緊張緩和に貢献せよ

 韓国の新政権は、特に次の3つに関して、これまで以上に地域の平和と繁栄のための日本の役割を注視するはずである。

 第1に、朝鮮半島の緊張緩和へ向けた取り組みである。2010年の韓国海軍の哨戒艦沈没と延坪島砲撃を教訓として安保態勢を強化しつつも、いかにして南北関係を修復し、選挙公約で掲げた「朝鮮半島信頼プロセス」に入るかが、朴政権にとっての大きな課題となる。韓国民の多くは北朝鮮の軍事挑発に備える必要性を認める一方、南北間の緊張緩和措置を求めている。そのため、昨年末の北朝鮮による長距離ミサイル発射にもかかわらず、新政権は慎重にではあるが南北対話に乗り出す可能性は十分にある。その際、日本は緊張緩和に取り組む韓国の努力を支持し、それにどう貢献することができるのであろうか。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時代、北朝鮮の態度を変化させるために「対話」を重視した韓国と、「圧力」の効用をとなえた日本の間には、対北朝鮮政策をめぐる摩擦があった。しかし、今回、朴槿恵政権が南北関係の修復に動くのであれば、日本はむしろそれを日朝交渉の再開につなげることができるよう努力すべきである。それは朝鮮半島の緊張緩和を促すことになるし、日朝間の懸案を前進させる契機にもなりうる。

日中韓協力は、日本の利益に合致

 第2に、「台頭する中国」への対応である。朝鮮半島の地政学的条件から大国間の権力政治の犠牲となってきた韓国は、現在の尖閣諸島をめぐる日中対立や、米中の緊張関係にとりわけ敏感である。なかでも韓国がかねてから最も恐れているのは、日中両国が対立を深め、韓国がそれに巻き込まれるというシナリオである。それを避けるための韓国の外交的選択は、日中双方と良好な関係を築くべく努力する、というものになる。

 そもそも、朝鮮半島の将来を考えれば、韓国にとって中国との関係は死活的に重要である。それは中国が最大の貿易相手国であるからだけではない。中国は6者協議の主催国であり、北朝鮮の同盟国であり、そして朝鮮戦争休戦協定の署名国である。つまり、将来の統一を含め、朝鮮半島の現状変更には、いかなる形であれ中国の関与が欠かせない。朴政権が、李明博政権下で停滞したとされる中韓関係の進展に力を注ぐのは自然なことである。

 以上を前提とするならば、日本は地域情勢に対する韓国の不安を和らげるため、近年の日中韓3カ国協力における韓国のイニシアチブを尊重し、さらにその発揮を促すべきである。それは結果的に日韓間の信頼構築に資することになる。2010年に日中韓首脳は「協力ビジョン2020」を採択し、翌年にはソウルに日中韓協力事務局が開設された。「協力ビジョン2020」では、長期的には地域共通市場を含む経済統合を目指すことや、大学レベルでの人材育成がうたわれている。経済分野での機能的協力を深め、人的交流を通じた3カ国の信頼醸成を図っていくという日中韓協力は、日本の利益に合致する。

日韓の協力で地域の将来像を描こう

 そして第3に重要なのは、東アジアの平和と繁栄のための長期的なビジョンである。東アジアの先進民主主義国である日韓両国は、共同のイニシアチティブを発揮することで地域の平和と繁栄のための中心的役割を果たすことができるし、そうすべきである。日韓の新政権には、相互理解と尊重の精神を発揮しつつも、地域の将来像を描き、日韓がそれに向かって共に歩んでいくための「共通の未来ビジョン」と「行動計画」の策定を進めてもらいたい。日韓ともに経済再生や少子高齢化社会への対応など深刻な国内問題を抱えるが、決して内向きになってはならない。2008年の日韓共同プレス発表が明記した通り、「国際社会に共に寄与していく」姿勢を日韓の新政権が示すことを期待したい。もちろん、東アジアや国際社会への日韓共同による貢献と、日韓間の歴史問題への取り組みは並行して行われるべきである。日韓協力を極大化し、摩擦を極小化していくことに対する日韓新指導者の強い政治的意志と実践が、いまの日韓関係には求められている。