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韓国の朴槿恵大統領、大胆な政策転換に期待 〜格差問題、少子高齢化、女性の社会進出

春木 育美(はるき・いくみ)/東洋英和女学院大准教授(韓国社会論)

2013年3月1日

 韓国の新大統領に2月25日に就任した朴槿恵(パク・クネ)氏は、二世かつ女性の政治家であるという点で、韓国社会では極めて異例の大統領である。

 韓国には二世の国会議員がほとんどいない。改革や世代交代が重視され、新鮮な候補が好まれるからだ。朴氏が国会議員5回の当選をへて大統領にまで上り詰めたのは、「開発独裁」と批判されながらも経済を高度成長させた朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領の娘という「家系」の威光によるところが大きい。


親の富や地位まで世襲

 大統領選で野党、民主党統合党の文在寅(ムン・ジェイン)候補は朴氏を「独裁者の娘」と糾弾し、既得権層を批判した。かつて韓国は社会階層の流動性が高かった。しかし、一部の財閥企業では、勤続年数の長い社員の子弟には、面接試験で加算点をつけるという優遇策をとる。一般企業も入社試験の履歴書には、親の学歴や職業、勤務先を当たり前のように書かせている。本人の能力や資質より、どんな家に生まれたかが、就職の決定的要因になり、親の富や地位が世襲される傾向が強まり、それが深刻な格差をもたらしている。

 昨年末の大統領選挙では「女性性」も論争になった。日本では、韓国で女性の地位が高まった結果、女性大統領が誕生したと見る向きもあるが、実態は違う。2000年から候補者の一定の割合を女性に配分するクオーター制が導入されたが、国会議員のうち女性の割合は15・7%で、世界190国中87位にとどまる。ちなみに日本の女性衆院議員は、7・9%で122位だ。そうしたなか、朴陣営は「準備ができた女性大統領」をうたい、女性による政治の実現を求めて、女性票や浮動票の獲得を狙った。

根強い「性」による役割意識

 女性の権利拡大や関連法制定に尽力してきた女性団体は当初、女性政策に熱心だった金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の流れをくむ文氏を支持した。だが文陣営の選挙CMは衝撃的だった。足を投げ出し、うたた寝する文氏の傍らで、妻がアイロンをかけ夫に飲み物を運ぶ映像だった。かつて民主化運動の時代、若い女性たちは火xh鑄咾鬚弔り、投げるのは男だった。民主化運動の流れをくむ文氏のような進歩派でも、性による役割意識が依然として根強いことが明らかになり、女性から批判を浴びた。/p>

 韓国の歴史や社会は、男性の視点から説明されることが多い。それでは社会を立体的に捉えられないと、私は多くの女性から話を聞いてきた。

 1990年代、女性たちは妻、母として生きるしかない男性中心社会に憤った。97年の未曽有の経済危機では、大黒柱の父親がリストラにあい、家計は大きな打撃を受けた。男性だけが働くのはリスクが大きいという意識が高まり、女性の社会進出を促す起爆剤になった。

 親の意識も変わった。子供の数が少なくなり、娘に対しても学歴をつけさせ、安定した職を望むようになった。この結果、女性の大学進学率は75%に伸び、男性の70%を上回った(2011年)。高級公務員や外交官、司法試験の合格者の4〜5割は女性が占めるようになり、社会の上層部に女性が進出するようになった。

 しかし、韓国統計庁の2012年の調査では、パート労働者の数は、女性が41・8%で、男性の18・9%をはるかに上回る。若い人たちは就職、結婚、出産もままならない。少子高齢化で労働人口の減少は必至だ。社会や家計の安定のため、より一層の女性の社会進出は不可避で、その支援策は欠かせない。

日本にも刺激与える政策を

 朴氏は、親の威光を背景とした「後光型」の大統領であり、その意味では、パキスタンやインドのようなアジアの女性政治家の誕生パターンを踏襲したものだ。

 しかしトップダウンの大統領制ならばこそ、大胆な政策転換もできる。格差拡大、少子高齢化、女性の社会進出など、共通の課題に直面する日本にも刺激を与えるような政策を期待したい。

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 はるき・いくみ 韓国社会論。韓国延世大学大学院で修士号、同志社大学大学院で博士号取得(社会学)。編著書に「韓国の少子高齢化と格差社会」(慶応義塾大学出版会)、「現代韓国の家族政策」(行路社)、「現代韓国と女性」(新幹社)など。現在取り組んでいるテーマは、少子高齢化と移民政策、朴正煕時代の政治変動と「国民」形成、在米コリアンコミュニティ研究など。