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北朝鮮の金正恩氏 父が敷いた核の道を猛進

李 相哲(り・そうてつ)/龍谷大教授(東アジア近代史)

2013年3月30日

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記の振る舞いに、世界が振り回されている。中国の説得を振り切り、3回目の核実験を強行する一方で、元米バスケットボール選手のロッドマン氏を平壌に呼ぶ。好戦的態度を改めたのかと思いきや、米国に「核先制攻撃」を公言、「戦闘勤務態勢」を敷き、緊張を高めている。

 正恩氏は昨年6月、「新経済管理改善措置」を示した、とされた。工場や企業の権限を拡大、生産物の販売収入を配分するなど、中国式改革開放に踏み切るのでは、との観測が広がった。

 8月には張成沢(チャンソンテク)・国防副委員長が訪中し、経済特区の共同開発に合意した。しかし、成果は上げられなかった(10億ドル支援を求め、断られたとの情報もある)。9月の最高人民会議で経済改善の具体策を示すとみられたが、経済は議題にすらのぼらなかった。

 北朝鮮のパワーエリートを改革派と非改革派に分けるのは意味がないようだ。実情は、既得権を死守する軍実力者らの勢力(強硬、保守派と呼ばれる)と、軍の権益を他の機関に移そうとする勢力(実利派)の争いだ。

 実利派の代表が、正恩氏のおじで後見人とみられた張氏だ。一連の流れをみると、正恩氏は昨夏ごろまでは実利派を支持したようだが、経済で成果を上げられなかったため、ミサイル発射や核実験に「成功」した軍に軍配を上げたのであろう。

 金正日(キムジョンイル)氏は死ぬ間際、政治、経済において絶大な力をもつ軍が息子にとって脅威になると心配し、党が軍を統制するシステムを作った。とはいえ、党の実力者は軍の重要ポストを兼ねた軍人だ。事実上、軍が党の上に君臨しており、父の時代から続く、軍がすべてに優先する「先軍政治」は根強い。

 北朝鮮が改革開放に踏み切る可能性は、今のところ皆無だ。改革はこれまでのやり方に問題があると認め、祖父や父の業績を否定する。それは正恩政権の正統性の否定につながる。

 核への執着も、祖父や父の遺訓であり、自慢できる唯一の成果だからだ。政権中枢には「銃口からすべてが生まれる」というパルチザン時代の考えのエリートが居座る。国内総生産の30%以上を軍備に費やすとみられ「核兵器は永久に放棄しない」と公言、力のみを信じる。政治、経済、軍事で韓国に劣る現状を挽回(ばんかい)するには、核兵器やミサイルを持つしかないと思い定める。

 正恩氏は、父が敷いたレールの上をひた走っている。その先に破局が待っていることを知っていても、路線修正は難しいだろう。(構成・桜井泉)

 (りそうてつ 龍谷大教授〈東アジア近代史〉)