朝日新聞アジアネットワーク

コラム AJWフォーラムから バックナンバー>>

安倍首相 反発招く歴史、なぜ語る

ジェラルド・カーティス/米コロンビア大教授(日本政治)

2013年4月27日

 安倍政権が誕生して100日余り、株価は上がり、円安が進み、支持率が高まっている。首相は、訪米時に環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加の考えを示すなど、米国でも評価されている。この勢いならば、自民党は7月の参院選で大勝するだろう。

 その後のアジェンダはどうなるだろうか。アベノミクス成功のためには「第3の矢」、つまり持続可能な経済成長のための構造改革が必要だ。改革に優先順位をつけ、エネルギーを集中する指導者の意思と腕力次第なのだ。

 痛みを伴う改革に早く取り組む必要がある。憲法改正や歴史の見直しなどに重点を置くようになれば、投資家は、首相の関心が経済改革から離れたとみてマーケットから去る。株価はあっという間に下落するだろう。

 安倍晋三氏は首相になってから、歴史問題が政治問題化しないように、慎重な姿勢をとってきた。だが、麻生太郎副総理らが靖国神社に参拝し、首相自身が「侵略という定義は、学界的にも国際的にも定まっていない」と言い、村山談話を「安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」と述べた。なぜ今さら、反発を招く発言をするのだろうか。

 さらに首相は「戦後レジームからの脱却」を唱えるが、一国の首相が、自国の体制変革(レジームチェンジ)を求めるとは、どういうことなのか。日本国憲法は、占領期に米国によってつくられたのだから改憲すべきだと言うが、制定から60年余りになる憲法は、日本人が「日本化」させて支持を与え、平和と繁栄を享受してきた。憲法を部分的に直すべきだという立場と、憲法の精神を否定するという立場には大きな違いがある。

 首相は、憲法96条が定める改正手続きのハードルが高すぎる、と主張する。しかし米国など先進国の多くの憲法は、改正手続きを難しくしており、日本だけが特別なのではない。それは、「アメリカの民主主義」を著した政治思想家トクビルらが警告した「多数者の横暴」を防ぐためのものだ。

 自民党は、集団的自衛権を主張し国防軍創設を掲げ、「普通の国」になって何が悪いのかと主張する。だが、その前にやるべきことがあるのではなかろうか。経済連携、政治や軍事問題の対話、人的交流などを通じて東アジア諸国との信頼関係を強める。それは、歴史問題を取り上げて不必要に外交関係を緊張させるよりも、よほど生産的であり、日本の国益にかなうことではないだろうか。