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シャープとサムスン 日韓企業、新たな連携の時代

金 美徳(キム・ミドク)/多摩大教授(日韓企業研究)

2013年5月2日

 シャープは、サムスン電子から今年3月、約104億円の出資を受け、サムスン電子の出資比率(議決権)は3.08%、第5位の株主となった。上位の株主は、1位日本生命(4.88%)、2位明治安田生命(4.01%)、3位みずほコーポレート銀行(3.67%)、4位三菱東京UFJ銀行(3.65%)など生命保険会社や銀行であるため、業績拡大に具体的貢献ができるサムスンの方がおのずと影響力が大きくなるであろう。

AJWフォーラム英語版論文


本質を見誤る悲観論

 提携の狙いは、シャープがテレビ用液晶パネルを供給し、工場の稼働率を引き上げる一方、サムスンが大型液晶パネルを安定調達し、拡大する大型テレビ市場で攻勢をかけることだ。ただ、サムスンの狙いは、もっと深いものがあるとの指摘もある。それは、サムスンが、シャープの新型液晶技術IGZO(低消費電力で高精細化を実現したディスプレイ)やデジタル複写機事業(2012年売上高2900億円、利益率7.2%、世界シェア5位)を念頭に経営に関与し、最終的には全面買収も狙っているというものだ。メディアや専門家の意見のほとんどは、シャープの技術や事業が盗まれるとか、乗っ取られるといったような悲観的なものだ。シャープの無能無策ぶりやサムスンの傲慢さを辛辣(しんらつ)に批判するものもある。しかしあまりの悲観論は、冷静さと客観性に欠け、本質を見誤る恐れがある。

ライバル関係乗り越えて

 私は、楽観的な見方も大切だと思う。両社のリーダーは、当面の利害だけで決断したとは考え難く、中長期的なシナリオも秘めていると推察できる。それは、サムスンが、経営破綻の危機に追い込まれたシャープの救済を機に、長年のライバル関係を乗り越えて、新たな日韓企業連携のあり方を創造するというものだ。力を合わせて危機を乗り越えたものだけが得られる「絆」と「真の信頼関係」は、日韓企業連携をグローバルビジネスモデルに昇華させるとともに、世界市場でのサバイバルに耐え得るグローバルビジネスパワーとなる可能性がある。

 サムスン側には、常に経営を革新し、普遍的価値を創造しなければ、いつどうなるか分からないという強い危機感があるはずだ。また、7年間に及ぶソニーとの企業連携がそれなりの業績を上げたにも関わらず、提携を解消したという苦い経験もある。シャープとて、これほどまでのどん底や屈辱感を味わったのであるから、相当な腹をくくっているはずだ。シャープは、これまでに貯めに貯めてきた利益1兆2000億円を食いつぶし、債務超過に陥る可能性があり、2000億円の社債償還期限も迫っている。また、台湾鴻海精密工業(ホンハイ)との資本提携が失敗に終わり、米国インテルや中国レノボとの提携も模索し迷走しているのだ。

「支配―従属」関係ではなく

 2000年以降、日韓企業の連携は実績を上げている。今や金融・鉄鋼・エネルギー・電器電子・物流・飲料などの分野で、両国を代表する企業が業務・資本提携を行い、斬新な成果を上げている。連携の目的も支配従属関係によるコスト削減ではなく、フラットかつ戦略的関係による技術協力、製品開発、海外市場開拓、プロジェクト受注、鉄鉱石の価格交渉、買収防衛などである。

 最近では、東芝とサムスン(半導体)、トヨタとサムスン(スマホ利用システム)、三井物産と大宇建設(モロッコの石炭火力発電所建設)、三菱商事と韓国ガス公社(インドネシアの天然ガス開発、カナダのシェールガス開発)、サントリーとロッテ(マッコリ)などの提携がある。また、三井住友銀行は、国民銀行と提携しており、韓国支店にグローバルコリア営業部を創設してグローバルに展開する韓国企業への資金支援を強化している。

日本企業の対韓投資は史上最高

 日韓企業連携は、業務・資本提携に止まらず、日本企業の韓国進出という形で深化している。2012年の日本企業の対韓国直接投資は、日韓関係が竹島問題で戦後最悪の状況に陥ったにも関わらず、前年比98%増の45億ドル(4320億円)と史上最高となった。東レ(炭素繊維)、旭化成(樹脂原料)、住友化学(スマホ用タッチパネル)、日本電気硝子(液晶ディスプレー用ガラス基板)などが、相次いで韓国に世界最大級の工場を建設している。日本企業が進出を本格化した理由は、電気料金と物流費の安さ、法人税率の低さに加えて、韓国がインド、EU、米国との間でFTAを発効させ、中国との締結も急いでいるため、輸出の拠点となるといった点も挙げられる。

 日本企業は、自らの強みである「技術・ブランド力・資金力」に韓国企業の強みである「現地化マーケティング・新興国ビジネスモデル・突破力」を生かす連携により、大きなシナジー効果が得られる。「日韓の中小企業連携」や「日韓台の企業連携による中国進出」も考えられる。また、日本企業は、部品調達拠点としての韓国の地政学的な立地を生かせば、アジアダイナミズムを取り込むことができる。日韓企業連携は、新たなグローバル戦略策定力やビジネスモデル構築力を掻き立てるであろう。

      ◇

 キム・ミドク 1962年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院国際経営学修士・国際関係学博士課程修了。元三井物産戦略研究所研究員。専門は、日韓企業の比較研究やアジア経済。