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韓国の外国人政策、国益中心で同化強いる問題も

春木 育美(はるき・いくみ)/東洋英和女学院大准教授(韓国社会論)

2013年5月31日

 少子高齢化が急速に進む韓国は、近年、結婚や労働などで外国人に門戸を開くなど積極的な政策をとっている。日本がこれまでのように場当たり的な外国人政策を続ければ、矢継ぎ早に外国人受け入れ策を打ち出す韓国の後塵を拝することになるかもしれない。ただ、韓国の政策は、国益中心主義で、外国人に同化を強いるなどの問題点もある。

 韓国は2004年には、非熟練外国人労働者を政府の管理下で正規労働者として受け入れる「雇用許可制」を導入。2007年には韓国系外国人(中国の朝鮮族・旧ソ連の高麗人)を対象とし、就業できる職種を拡大する優遇策である「訪問就業制」が実施された。一方、2000年以降、農漁村や都市低所得層の結婚難を背景に、業者の仲介による国際結婚が急増。外国人女性が大量に流入するようになった。2000年に49万人にすぎなかった外国人居住者(90日以上の滞在者)は、2012年には146万人(全人口の2.8%)と急増している。

移民ではなく短期の単純労働力を確保

 韓国政府は強いイニシアティブのもとで法整備を進め、外国人の定住支援策や社会統合政策を矢継ぎ早に進めた。また、公的儀式の際に国民としての誓いを述べる「国民儀礼規定」の改定がなされ、「民族」の文言を削除した。学校の教科書からは「単一民族」の文字が消え、「多民族・多文化社会」への移行が掲げられるようになった。

 いまのところ、韓国の外国人政策は、永住者を確保するための「移民」政策ではなく、短期の単純労働力の確保に重点が置かれている。そのため、外国人労働者の合法的な定住化が進んでいるわけではない。

 一方、定住・永住者の圧倒的多数を占めるのは結婚により移住した女性である。2012年末現在、結婚を通じた移住者や国籍取得者は28万人で、国際結婚家庭は26万世帯に達している。

 2008年に「多文化家族支援法」などが制定され、全国に「多文化家族支援センター」が設置された。センターでは、早期定着を目的に、韓国語教育、韓国の歴史や伝統、慣習、料理などを学ぶ文化理解講座が開かれ、相談業務や生活情報の提供、職業教育や就業支援などが行われている。国際結婚家庭の子どもには、韓国語の学習支援や科目別の補習授業、韓国文化体験、バイリンガル教育などの特別な支援体制が整備され、「多文化学校」の設立や特別入試の実施など幅広い支援策が講じられている。

韓国人の価値規範を教育

 ただ、こうした外国人政策は、「多文化共生」を目指すというよりは、韓国社会への適応を一方的に求める同化政策的な要素が強い。結婚移民者に対する支援プログラムは、「韓国人としての基本素養を備えるための教育」と位置付けられており、韓国人の生活習慣や伝統、価値規範を「教育」することが目的にある。国際結婚家庭の子どもは、父親と母親の国、2カ国の間の架け橋になることを期待され、政府や民間機関の支援の下、バイリンガル教育や奨学金の支援などがなされている。李明博前大統領は、演説で「両親の国の言葉を流暢に話し、二つの国の文化の感受性を備えた韓国人は、有能なグローバル人材になる」と述べており、国際結婚家庭の子どもは、「経済的合理性」の観点から、グローバル化に「有用」な人材になるとみなされている。

 このように、韓国では特定の外国人に対し極めて体系的で手厚い社会支援策が講じられている。こうした施策に対し、大きな反発はいまのところ起きていない。結婚難を解消し出生率を高めてくれる結婚移民者は、国益に合致した存在であるとみなされているためだ。国際結婚家庭の子どもは、韓国籍を持つ「国民」であり、彼らに特別な学習支援を行い「韓国人」として社会化することは、国家の責務と考えられている。「外国人の韓国人化」は少子化政策の重要な一翼を担っている。

 企業の広告やCМにも頻繁に、国際結婚家庭の子らが登場している。金融会社の広告では、韓国人の父親とベトナム人の母親の間に生まれた子どもの姿が描かれ、次のようなナレーションが流れる。

 「お母さんがベトナム人ですが、この子は韓国人です。あなたのように。キムチがないとご飯を食べられず、世宗大王を尊敬し、独島(竹島)を我々の領土だと考えます。サッカーを見ながら『大韓民国』と叫びます。20歳を超えたら軍隊に行き、税金を払い、投票もします。あなたのように。明日の幸せのため、私たちは多文化家庭を支援します」。

多文化共生社会とは距離

 国籍法が改正され、2011年からは条件付きで複数国籍が認められるようになった。立法の趣旨は、少子高齢化社会を迎え、複数国籍者の韓国籍からの離脱を防ぎ、海外からの人材の流入を増やすためとされる。

 非熟練外国人労働者の門戸開放も、少子高齢化対策の一環として極めて重視されている。韓国では、「訪問就業制」で入国した朝鮮族の女性が、社会福祉サービスや高齢者介護、家事や育児などのケア労働を安価で担っており、韓国人女性の社会進出を下支えしている。

 今後、さらに外国人介護士の合法的な受け入れが進められれば、彼らは、日本を素通りして韓国に行くようになる事態が起きることもありうる。

 しかしながら、この間の韓国の外国人政策は国益中心主義で、移民者に韓国への同化を強いる政策となっており、外国人との共生や多文化社会の実現とは距離がある。こうした韓国の事例は、今後、日本の移民政策を考える上で、他山の石となると強調したい。

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 はるき・いくみ 韓国社会論。韓国延世大学大学院で修士号、同志社大学大学院で博士号取得(社会学)。編著書に「韓国の少子高齢化と格差社会」(慶応義塾大学出版会)、「現代韓国の家族政策」(行路社)、「現代韓国と女性」(新幹社)など。現在取り組んでいるテーマは、少子高齢化と移民政策、朴正煕時代の政治変動と「国民」形成、在米コリアンコミュニティ研究など。