朝日新聞アジアネットワーク

コラム AJWフォーラムから バックナンバー>>

日中関係 和解の道、学者から一歩

毛里和子/早稲田大学名誉教授(現代中国論)

2014年03月29日

毛里和子さん

 東大駒場キャンパスは今月8日、熱気に包まれた。日中の政府間関係が最悪となるなか、日中米、台湾の研究者や市民250人が集まり、1972年の日中国交正常化からの42年を振り返り、善隣関係を築くにはどうすべきか、8時間を超え率直に語り合った。

 テーマは「現代日中関係の源流をさぐる―再検証1970年代」。昨年10月にスタートし、私が代表幹事を務める「新しい日中関係を考える研究者の会」が、シンポジウム実行委員会の母体となった。会は日中関係の悪化を憂慮し、排他的ナショナリズムを超えアジア諸国民間の和解の道を探ること、緊張緩和に寄与する日中知的ネットワークをつくり「日中関係学」の新パラダイムを追究することなどをめざす。

AJWフォーラム英語版論文

 実行委は、(1)日中が直面する課題の源流を70年代の「不完全なスタート」に求めることは妥当か(2)関係改善のためにどのような考え方や制度が必要か、という問いを設定した。

 三つの貴重な発見があった。私は72年の国交正常化交渉をもちろん評価するが、不完全さや瑕疵(かし)もあり、それを自覚した制度構築ができなかったため、脆弱(ぜいじゃく)な「72年体制」が環境の激変に耐えられず、今は大きく動揺している、と悲観的トーンで報告した。だが大変幸いなことに、中国の歴史学者、歩平氏の基調報告や、他の日本人研究者、ハーバード大学のエズラ・ボーゲル名誉教授らの意見はずっと楽観的で、72年のスタートを積極的に評価し、将来について明るく語った。

日中関係を論じ合う研究者たち
=3月8日、東大駒場キャンパス、桜井泉撮影

 第二は中国側研究者の冷静さだ。歩平氏は、戦後日本の平和主義が日本の歴史への反省の重大な表現だ、という事実を中国が理解していない点を率直に自己点検した。南開大学の宋志勇氏は、日中の研究者が協力し双方の政府や世論に働きかけようと、提言した。

 第三が、歴史認識の大きな違いは、もしかしたら日中間よりも、日本の研究者の世代間の方が顕著ではないか、と改めて感じたことだ。シニアと若い世代の思想的な「溝」は中国でも同じだろう。ボーゲル氏らが語った学校と社会での健全な歴史教育の重要性をとりわけ痛感した。

 多くの参加者が、日中の学術交流は成熟してきているのに、政府間関係はどうして悪化しているのか、という深い憂慮を共有していた。私たちの小さな活動が政府、社会を少しでも動かせたら、という願いが感じられた。「今日の成果を一人一人が300人に語りかけよう」という慶応大学の山田辰雄名誉教授の閉会の言葉が耳に残った。

      ◇

 もうり・かずこ 早稲田大学名誉教授。現代中国論、東アジア国際関係論専攻。静岡県立大学、横浜市立大学、早稲田大学などで教授を務めた。「新しい日中関係を考える研究者の会」代表幹事。