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ポル・ポト派裁判、日本の支援に感謝

ニコラス・クムジャン(カンボジア特別法廷共同検察官)

2014年04月02日

ニコラス・クムジャンさん

 カンボジアは1970年代後半、ポル・ポト派率いるクメール・ルージュ政権(1975−79)による4年間の統治下で、少なくとも全人口の5分の1に当たる170万人が殺された。何百万人もの人々が地方へ強制移住させられ、まるで奴隷のような惨(むご)い扱いを受けた。過酷な労働条件下で長時間、働かされたうえ、信仰や結婚、家族団らんの自由までも奪われた。数え切れぬほどの人々が飢え、拷問を受け、また強姦された。

AJWフォーラム英語版論文

 カンボジア特別法廷(ECCC)は、これらの犯罪に責任を負うクメール・ルージュの指導者、そして犯罪の実行に最も重大な責任を負う者に対する法による裁きを下すため、国連とカンボジア王国によって設立された。ECCCは、日本政府と日本国民によるリーダシップおよび寛大な支援に負うところが極めて大きい。

 日本はECCCの設立時より一貫して主導的な資金拠出国であり、全予算のほぼ4割を財政支援している。これまで日本人職員も控訴審判事をはじめとする枢要なポストに就いてきた。2011年の壊滅的な東日本大震災の後、ECCCに対する財政支援が削減されたことは無理からぬことであるが、日本は依然として主要な支援国である。多くの関係者は、日本はクメール・ルージュの残虐行為に対する正義の実現を切望する犠牲者にとっての「あしながおじさん」であると見ている。我々ECCCの共同検察官は、カンボジアの人々に法的な正義をもたらすため、日本がこれまでとってきた多大な貢献に対し、心より感謝の気持ちを表したい。

複雑かつ深刻な犯罪、少ない予算

 世界では、旧ユーゴスラビア、ルワンダ、シエラレオネ、レバノンなど各地で国際裁判所が設立されてきた。また国際刑事裁判所(ICC)は、アフリカで起きた8つの国際的な重大犯罪を扱っているが、同裁判所の管轄は2002年7月以降に起きた出来事に限定されている。

 ECCCは現在、アジア地域で活動する唯一の国際的裁判所であるが、現存する全ての国際裁判所の中で、ECCCが扱う事件は被害者の数が最も多く、また35年前に起こった事件を捜査するという固有の課題があるが、総予算は他のどの国際裁判所よりも少ない。

 ECCCで審理されるのは、数ある国際刑事裁判の中でも、最も複雑かつ深刻な犯罪のひとつである。設立当初、共同検察官はこれらの犯罪を主導した"最高指導者"および"最も重大な責任がある"と思料される者を対象に捜査を開始した。これらの事案の審理は、現在ではかなり進んだ段階にあるが、それでもまだ多くのやるべきことが残されている。

 1万2000名以上が拷問され、殺害されたS-21強制収容所の所長だったドッチは、ECCCにおける裁判の結果、有罪となり終身刑が言い渡された。現在は、クメール・ルージュ政権のナンバー2(「ブラザーNo.2」)だったヌオン・チア、および元国家元首のキュー・サムファンに対する第2事案の審理が進行中である。第2事案に関しては、事件の規模や複雑さに鑑みていくつかのフェーズに分けて審理されることになっている。

 第1フェーズでは数百万人の市民の強制移動と、それに伴う虐殺行為という起訴容疑が審理され、現在、第1審裁判部が、その判決を起草しているところだ。残りの起訴容疑である大量虐殺、強姦、強制結婚、仏教徒に対する迫害に関する審理も、今年中に開始される見通しで、第1フェーズで扱われた証拠の一部を採用して迅速な審理となることが予想される。

 ECCCで実際に裁かれる者の数は限りがあるが、カンボジア社会にとってこの裁判所の持つ意義は大きい。直接の被害者である年配のカンボジア人は、自らの存命中に、この暴力を指導した者たちに対する法の裁きを目にすることを切望し、一方、ポル・ポト政権後に生まれた何百万という若い世代は、両親や祖父母を筆舌に尽くし難いほど苦しめた残虐行為が、なぜ起きたのかを理解することを求めている。

 日本が国際的裁判において、引き続き指導的役割を果たすことは大変重要である。安倍首相が最近、述べたように、日本は、これまでアジア太平洋地域の非軍事的な紛争解決に寄与し、2世代にわたり平和から恩恵を受けて来た。戦争によって灰燼(かいじん)に帰したのち、目覚しい復興を遂げた日本は、法の支配を基礎にした国家が、いかに世界の先進国たる経済と民主制を築き上げることが出来るのかを見事に体現している。

 カンボジア人は、クメール・ルージュの激動の時代の犠牲者を尊び、永く記憶にとどめようと努力している。これは日本人が、世界に類のない悲惨な原爆の犠牲者を悼み、記憶を風化させないよう努力しているのと似ている。クメール・ルージュの責任者に対する法の裁きをなすために、これまで日本が行ってきたかけがえのない貢献に対し、カンボジアの人々は深く感謝の念を抱いている。

 我々共同検察官は、ポル・ポト時代の悲惨な犯罪が決して忘れられることなく、また繰り返されぬよう最善を尽くし、犠牲者の尊厳を守っていく所存である。

      ◇

 Nicholas Koumjian カンボジア特別法廷共同検察官。米ロスアンゼルスで20年間、検事を務め、ボスニア、東チモール、シエラレオネ、ダルフールの戦争犯罪に関する国際法廷にも長年、関わった。