朝日新聞アジアネットワーク

コラム AJWフォーラムから バックナンバー>>

安倍首相の「価値観外交」 ラオス人権問題にみる「ご都合主義」

若林秀樹/アムネスティ・インターナショナル日本事務局長

2014年04月25日

若林秀樹さん

 ラオスの首都ビエンチャンで2012年12月15日、市民活動家のソムバット・ソムボーン さん(当時62歳)が検問所で警官に止められ、何者かに連れ去られた。この拉致の模様はビデオ映像に記録されているが、ラオス当局は拉致への関与を一切否定した。国際社会からの要請にも関わらず、今日まで事件解明に向けた具体的措置を何ら取らず、事件の隠ぺいの疑いさえある。

AJWフォーラム英語版論文

 彼はラオスで貧困問題に取り組み、農業指導や環境教育に長年携わった功績で、2005年にアジアのノーベル賞といわれる「マグサイサイ賞」を受賞した。

 あれから、ちょうど1年経った昨年12月15日、日本アセアン特別首脳会議で来日していたラオスのトンシン首相は、安倍晋三首相と首脳会談を行った。国際人権団体であるアムネスティ・インターナショナル日本は、ヒューマンライツウォッチ(HRW)等の団体と共に、安倍首相に書簡を送り、この拉致問題を会談の際に取り上げ、日本側の重大な懸念を表明すべきであると要請した。その会談の2日前、我々はHRWとともに都内のラオス大使館に出向き、ソムバットさんの強制失踪に関する公平な調査等、解決に向け、あらゆる措置を講ずるべきだとのトンシン首相あての書簡を届けようとしたが、大使館側は受け取りを拒否した。我々は建物の外から書簡を読み上げた。

 日本の外務省のウェブサイトには、ラオスとの首脳会談の概要は掲載されているが、ソムバットさんの件を取り上げた様子は全く報じられていない。一方で安倍首相は、国連における北朝鮮の人権決議に関しては、ラオス政府に支持を要請した。日本政府の行動とは対照的に、米国のケリー国務長官や英国のスワイヤー外務閣外大臣、世界の多くの市民団体は、この未解決の失踪事件に対する懸念を表明し、公正な調査の実施を求める声明を出している。

普遍的価値としての人権

 私は、安倍首相の提唱する「価値観外交」は、人権、民主主義、法の支配といった価値や理念を広げ、それらの価値観を共にする国々との結束を強くしていこうとするものと理解している。人権は、相手国政府にとって避けたがる課題だが、国際社会が守るべき普遍的価値である。残念ながらアセアン諸国の中には、他にもベトナム、ミャンマー、カンボジア、シンガポールなど、人権がしっかり守られているとは言い難い国が多い。2012年11月、アセアンは、人権宣言を採択したが、草案についての市民団体との協議は不十分だったし、その内容は、国際人権基準とはかけ離れたものだった。

 昨年、国連人権理事会において、日本人拉致問題をはじめとする北朝鮮の人権問題を調査する調査委員会(COI)設置に関し、日本政府はEUと共にイニシアティブを取った。しかし同時期に採決されたスリランカの人権問題に関する決議については棄権し、欧米をはじめとする大多数の賛成国からひんしゅくを買った。人権問題への言及は内政干渉ではなく、相手国のためにも、しっかりと指摘することが重要である。安倍首相の「価値観外交」が、相手国によって、その姿勢を変えるのであれば、外交方針としての一貫性がないばかりでなく、その国で苦しんでいる人びとの人権を無視した「ご都合主義の外交」と取られかねない。

      ◇

 わかばやし・ひでき アムネスティ・インターナショナル日本事務局長、国連グローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワーク理事。1954年生まれ、早大商学部卒業。ミシガン州立大大学院修士(農学)。労働組合役員をへて民主党参議院議員を務めた。