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北朝鮮 対米・韓で新たな展開も

道下 徳成/政策研究大学院大学教授(安全保障・外交政策)

2015年01月31日

   道下 徳成さん

 北朝鮮の 金正恩(キムジョンウン)第1書記の体制は、発足から3年が過ぎた。朝鮮の伝統に従えば、この間は父・金正日(キムジョンイル)総書記の服喪期間となるの だが、それにとらわれず、権力固めと神格化を急ピッチで進めてきた。国際協力を必要とする経済建設と、国際社会から批判される核開発を同時に進める「並進路線」を打ち出しており、まるでアクセルとブレーキを同時に踏むようなものだ。

AJWフォーラム英語版論文

 元旦に発表された金正恩氏の「新年の辞」を踏まえ、対外政策を展望してみよう。  米韓には要求を突きつけつつも関係改善を訴える。米韓合同軍事演習の中止や、体制を冒?(ぼうとく)する「体制対決」を韓国にやめるよう求めながら対話を呼びかけている。焦点は、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領がどこまで受け入れるかだ。

 米国には敵視政策をやめるよう「大胆な政策転換」を求めた。オバマ政権は、北朝鮮問題に詳しい人物を担当部署につけ、対話に備えている。オバマ大統領の決断や北朝鮮の出方次第で、新たな展開を見せるかもしれない。

 中国との窓口役で国防委員会副委員長だった張成沢氏の処刑(2013年12月)もあり、中朝関係はハイレベルの交流が中断するなど関係が悪化しているが、 経済面では対中依存度が高まっている。そこで新年の辞では、自国の工場や企業に国産化を奨励した。過度な依存を警戒しているわけだ。

 日本についての言及はなかったが、対日関係の改善に興味を失ったわけではない。小泉政権期に早期の国交樹立を狙って失敗したため、今回は関係改善を慎重に進めようとしている。安倍政権は、衆議院選挙の勝利で長期安定化の見通しがつき、外交面で積極化すると期待しているであろう。

 ロシアとの関係は、国際社会での孤立を打開するため、強化している。ウクライナ問題でロシア支持を打ち出し、経済協力でも合意した。ロシアは5月の対独戦勝記念70周年式典へ金正恩氏の出席を呼びかけており、北朝鮮側の肯定的な反応も報道されている。

 核やミサイル実験は、引き続き周辺国の懸念材料だ。新年の辞では「核抑止力を中心とする自衛のための国防力」を強化すると改めて述べた。前回の核実験 (13年2月)から2年になる。その後の技術的進歩を実証するため、新たな核実験やミサイル発射を行ったとしても不思議ではない。対外関係の改善のため 核・ミサイル実験を自制するとも考えられるが、逆に米国や韓国に圧力をかけるために核実験を行う可能性も排除できない。

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 みちした・なるしげ 筑波大学卒業、米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院修士・博士(国際関係学)。旧防衛庁防衛研究所などをへて現職。北朝鮮をめぐる外交・安全保障に詳しい。著書に「北朝鮮 瀬戸際外交の歴史」(ミネルヴァ書房)。