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中国の弁護士の一斉連行 はるかに遠い「法の支配」

阿古智子/東京大学大学院准教授(中国現代社会研究)

2015年07月29日

阿古智子さん

 中国で人権派弁護士が一斉に連行されています。7月9日から16日の間に、連行または拘束された弁護士やその関係者は200人以上に上ります。そのうち、大半は釈放されましたが、約20人が拘留されているか、音信不通の状態となっています。

AJWフォーラム英語版論文

 7月11日、国営通信新華社は、北京市の「鋒鋭弁護士事務所」を「騒ぎを起こし、秩序を混乱させる重大犯罪グループ」と非難し、同事務所の主任・周世鋒弁護士や「中国で最も勇敢な女性弁護士」と称される王宇弁護士など、同事務所の4人の弁護士、王弁護士の夫を容疑者として刑事拘留したと伝えています。

 同記事は、.宗璽轡礇襯瓮妊アを使って抗議活動への参加や事件に関連する情報提供、寄付を呼びかけた∪府に恨みをもつ陳情者や著名ブロガーを買収して騒動を拡大させた8朕余霾鵑鬟優奪半紊覆匹頬熟し、窮地に追い込み、担当の裁判官や役人を誹謗(ひぼう)したここ阿離ぅ鵐拭璽優奪肇汽ぅ箸篁抉膽圓悗力⇒蹐覆匹鯀反ヅに行ったと指摘しています。

 また、拘束された黄力群弁護士は「周世鋒はわざわざ、法を守らない弁護士を雇い、違法な手段を使い、財源を潤沢にするため、意図的に騒ぎを起こしている」と述べたといいます。この記事は翌日の『人民日報』にも転載されました。弁護士たちに仲間を批判させ、官製メディアを通じて彼らに汚名を着せようとする意図が見えます。

官製メディア使い断罪

 このような中国当局のやり方は到底、受け入れられるものではありません。まず、こうした活動が違法であるかどうかは、検察や裁判所が判断することです。それにもかかわらず、関係当局の公式発表を前に、国営通信社や党の機関紙が、刑事拘留の背景を事細かに報じました。さらに、報道の数日前に拘束されたばかりで、正式に逮捕も起訴もされていない弁護士らを「容疑者」や「犯罪者」として、国営の中央テレビ(CCTV)が断罪しています。これでは、CCTVは「中央テレビ最高裁判所」と揶揄(やゆ)されても仕方がないでしょう。

 今回、拘束されている弁護士の中には、私が個人的によく知る人も含まれています。彼らは社会的に注目が集まる問題に関して、政府が十分な説明責任を果たしていないと考え、世論の関心を高めようとしていました。

 「アドボカシー」という言葉があります。市民が政府に社会問題への対処を要請し、公共政策の形成や変容を促すための活動を展開することです。これは、国際的にも幅広く実践されており、健全な社会を形成するために必要不可欠なロビー活動とみなすことができます。

 法律の専門家として資格を与えられている弁護士が、市民活動を支援し、社会的に注目されている事件の事実関係に照らし合わせて法的な分析を行うことが、どうして社会秩序を乱し、重大な犯罪にあたるというのでしょうか。

 また、官製メディアが、容疑の詳細が明らかにされる前に、あたかも犯罪事実が確定したかのように先んじて報道する姿勢は、中国に法の支配が根付いていないことを公然と証明したのも同然です。

 一斉連行の前の7月1日には、国家分裂、政権転覆扇動、海外勢力の浸透などに対する懲罰を定めた国家安全法が施行されました。中国は人権弾圧や言論統制をますます強化しているという、国内外から上がっている批判に対し、中国政府は十分な説明責任を果たすべきです。

      ◇

 あこ・ともこ 東大大学院総合文化研究科准教授。1971年生まれ。大阪外国語大学外国語学部中国語学科卒、名古屋大学大学院国際開発研究科修士課程修了、香港大学教育学系で博士号を取得。早稲田大学国際教養学部准教授などをへて現職。著書に「貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告」(新潮社)など。