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地球温暖化 紛争・難民の大きな要因に

明日香寿川・東北大学教授(環境エネルギー政策論)

  2015年10月17日

    明日香寿川さん

 シリア難民問題の大きな要因の一つとして地球温暖化がある。同国では2006年から10年にかけて史上最悪と言われる干ばつが発生した。

 最新の研究によると、温暖化が風の流れを変えて降雨量を減少させ、土壌から水分を奪った。アサド政権が水を大量に必要とする綿花栽培を奨励したことも重なり、農業生産量が激減、穀物価格が高騰し、栄養不良で子供の病気が広がった。すでにイラク難民であふれていた国境沿いの都市に150万人以上のシリアの農民が流入。このような地域で11年の「アラブの春」につながる反政府暴動が起きた。以前から気候変動が紛争を増やすことは指摘されてきた。日本でもかつて、干ばつや冷害 が農民一揆の原因となった。

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 最近の日本での異常気象や集中豪雨も明らかに温暖化が影響している。喫煙が肺がんリスクを確実に増加させるのと同様に、温暖化が気象災害リスクを増加させることは、ほぼ科学的に明らかになっている。

 東日本大震災の後、日本では温暖化問題への関心が薄れた。福島第一原発の事故にもかかわらず、「原発は温暖化対策に必要」「再生エネはコストが高いから化石燃料発電が必要」という政府や産業界の言葉を簡単に信じ込んでいる人が多いからではないか。

 世界でも日本でも、保守政権、化石燃料会社、大手電力会社、重電メーカー、エネルギー多消費企業が一致団結して原発と化石燃料発電を維持しようとしている。それは、既存のエネルギーシステムや社会システムから生まれる権益を失いたくないからだ。

  一方で多くの経済分析は、省エネや再生エネルギーを導入した方が中長期的には電力価格が低下し、雇用が拡大し、国全体では経済がより発展することを示す。 再生エネ導入に積極的なドイツは、脱原発を決めながら、温室効果ガス削減目標は、日本よりもはるかに厳しい。安い電力価格を享受する大企業の業績は好調だ。

 来月末からパリで国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)が開かれる。日本の温室効果ガス削減目標は極めて低い。安倍晋三首相の 「日本の目標は国際的に遜色がない」という言葉は、国際社会の認識とは全く逆だ。権益を持つ人々によって、また彼らの言葉を簡単に信じてしまうことによって、貧困、紛争、難民問題が激化し、一部の人や産業は潤うが、国全体の経済発展や平和は遠のいている。

      ◇

 あすか・じゅせん 東北大学東北アジア研究センター教授。1959年、東京生まれ。東京大大学院工学系研究科博士課程修了。専門は環境エネルギー問題の政治経済学、中国の環境問題。