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開発と環境 CO2削減 偏重に危うさ

井上 真(いのうえ・まこと) 東京大教授(森林社会学・ガバナンス論)

2010年05月19日

 二酸化炭素(CO2)の排出を減らし、生物多様性を保ち、持続可能な地域発展を実現するにはどうすべきか。世界の41%と最大のアブラヤシ農園を有するインドネシアの開発問題から学ぶことは多い。

 アブラヤシの果実からは、食用油、マーガリンやショートニングの材料、洗剤やシャンプーなどの原料として私たちの生活に入り込んでいるパーム油が採れる。最近はバイオディーゼルの燃料としても注目されるようになった。

 パーム油の単位面積あたり油脂生産量は菜種油や大豆油の3〜10倍。生産効率が高く大量生産に適している。悪玉コレステロールを増加させるトランス脂肪酸が少ない点も魅力である。

 植物はCO2を吸収して成長する。だからパーム油を燃料にして燃やしたとしても、アブラヤシ農園の持続可能な管理がなされていれば、排出されるCO2を再びアブラヤシが吸収してくれる。CO2の収支が釣り合うというわけだ。

 欧州連合(EU)は2020年までに輸送用燃料へのバイオ燃料混合割合を10%に高めることを目標にしている。欠かせないのがバイオディーゼルの活用だ。政策執行機関である欧州委員会の作成した文書案が今年2月にリークされた。

 問題となったのは、アブラヤシ農園を森林と見なす点だ。これにより、熱帯林を伐採・火入れして農園を造成しても森林減少と見なされなくなり、開発が一気に進む。「樹冠による土地の被覆率が10〜30%以上」など森林の国際的定義を満たしさえすれば、CO2削減やビジネスの観点から一定の合理性をもつことはたしかだ。

 しかし、森林が私たちに提供する生態系サービスは、先住民の知恵に基づく利用や生物多様性の保全など極めて多様である。お金が動く一面的な価値(CO2)だけを突出させると将来に禍根を残す。

 環境NGOの抗議を受け、インドネシアは、アブラヤシ農園を森林に区分する検討を中止することを4月に発表した。それでもなお、ボルネオ奥地でマレーシア国境沿いに世界最大規模(200万ヘクタール)のアブラヤシ農園を開発する計画の行方が気になる。先住民による焼き畑農業の休閑林が、農園開発の対象地(=放棄地)とみなされる可能性を否定できないからだ。

 アブラヤシ特有の問題もある。果実収穫後24時間以内に搾油しないと油脂の品質が低下してしまう。だから、農民所有の農園であっても買いたたかれてしまい、自立が難しい。大量の除草剤や殺虫剤による健康被害や土壌汚染も心配だ。一方で、利益を受ける農民の存在も無視できない。

 CO2偏重の陰で何が失われ、誰にどんな利害が生じるのか。複眼的な思考に基づいて冷静に検討していきたい。