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民主党外交 アジア諸国との安保対話を

添谷 芳秀(そえや・よしひで) 慶応大東アジア研究所長・法学部教授(国際政治・日本外交)

2010年07月21日

 7月11日の参院選で民主党は敗北した。有権者が政権党としての自民党に見切りをつけたのが、昨年の衆院選だった。今回は、一転して民主党の政権担当能力に疑問符がつけられたのである。当面の民主党の課題は明らかである。責任ある政権党としての資質を磨くことである。

 鳩山由紀夫前首相が主導した外交は思いが先走り、現実に目を閉ざした素人外交であった。ただそこには鳩山氏の夢が存在した。6月2日の両院議員総会での鳩山氏の退陣表明には、その思いがにじみ出ていた。鳩山氏は、日本の平和を日本人自らの手で作り上げるべきことを論じ、「米国に依存し続ける安全保障、これから50年、100年続けて良いとは思いません。……その中に……、今回の普天間の本質が宿っている」と述べた。そして「東アジア共同体」についても、今すぐではなくとも必ずその時代が来ると語り、国境を感じない世の中に日本を開く未来像を描いたのである。

 米国への依存を減らすことで自前の外交を築き、東アジアに平和を実現しようとする鳩山氏の願いには、多くの日本人が共感を持つだろう。事実、この種の思いは、戦後一貫して日本の政治と社会に根強く存在してきた。しかしそれは、日本政府の政策決定にとって重要な国内環境の一部ではあっても、政府の最高指導者の外交を動かすことはなかった。結局のところ、現実の壁に拒まれた鳩山外交は、普天間問題をめぐって時計の針を10年以上戻し、事態をより複雑にした。

 日米同盟を動揺させた鳩山外交に対しては、多くのアジア諸国から懸念の声が上がった。その結果、期せずして、日米同盟がアジア太平洋地域の公共財であることが再確認されることとなった。そのことは、対米外交とアジア外交を戦略的に調和させるという、日本外交にとっての古くて新しい問題を突き付けているのではないだろうか。

 その際、日米同盟が地域の公共財であるという側面とあわせて、アジアへの侵略戦争の歴史を抱える日本は日米関係がなければ外交的に自立し得なかったという、戦後の深い現実も直視する必要がある。そうした現実を踏まえた外交論を唱えた戦後の学者の一人が、永井陽之助であった。永井は1980年代前半に、ソ連脅威論を振りかざす「軍事リアリズム」に対し、対米関係を基軸とした軽武装路線に「政治リアリズム」を見いだした。そして、そこに戦後日本の自立と成功の鍵があると論じたのである。

 菅直人首相は、大学時代に「現実主義」を学んだ師として永井の名を挙げた。永井の「政治リアリズム」に日米同盟とアジア外交を両立させる感性を嗅ぎ取ったのかもしれない。菅内閣は一日も早く、日米同盟の動揺を懸念する韓国などアジア諸国と、安全保障対話を始めるべきだろう。沖縄の過剰な負担の軽減という課題にも、アジア太平洋を俯瞰した地域的な視野から米軍の役割を見直すことによって、新たな視界が開けてくるかもしれない。