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東日本大震災 予防原則の議論重ねよう

明日香 壽川(あすか・じゅせん) 東北大教授(環境科学・エネルギー政策論)、地球環境戦略研究機関気候変動グループディレクター

2011年3月24日

 今でも悪夢だと思いたい。しかし、この経験や現実から何を学び、どのように次の世代に伝えていくかを考えることも、生きることを許された私たちの使命だと思う。特にエネルギー環境政策の大転換が必要なことは多くの人が感じているはずだ。

 制度・技術的な問題として、原発推進体制の見直し以外にも、再生可能エネルギー・省エネの導入促進、発電設備が対象外になっている現行の環境影響評価法の見直し、電力の送配電網整備・周波数調整、電力会社の寡占体制見直しや自由化の促進などは早急に実施すべきだ。

 しかしその上で、私たちはより根本的なパラダイム(考え方の枠組み)の転換点にあることを強調したい。

 第一は、政府、企業、専門家の「想定外だから起こりえない」「計算によるとリスクは小さい」「再生可能エネルギーはコスト高」「これ以上の省エネは無理」「環境保全は経済にマイナス」などの言葉を国民がうのみにすることはなくなったことだ。政府発表などに頼らずに、なるべく自分で議論を理解する。そして最後の判断基準として、何が本当に自分たちの人生や生活、そして子どもたちのために大事なのかを一人一人が真剣に考えざるを得なくなった。

 第二に、国際社会と日本がより強く結びついた。これまでの日本には、様々な自負からくる「日本は特別な国」という感覚があったと思う。しかし、技術神話や安全神話が崩れ、今度の原発事故では多くの外国人が日本を脱出して孤立を感じるようにまでなった。一方で、世界各国からの物心両面での支援は新しい経験であった。これらによって、裸の自分たちを見ると同時に、国際社会との連帯の重要性を再認識することになったのではないか。

 第三は、人間がいかに非力で、いかに簡単に命の火が消えるかを、リアリティーをもって知ったことだ。ただし、世界では、風津波(高潮)や洪水によって途上国を中心に毎年2万人以上が日常茶飯事のように亡くなっている。つまり台風でも津波は発生し、バングラデシュでは1970年に30万人が命を失い、昨年もパキスタンだけで約1500人の命が消えた。

 国連大学の研究機関は、進行中の温暖化による海水温上昇が台風や風津波の被害を拡大し、2050年には年間20億人の洪水被災者が生まれると予想する。今回の経験は結果的に私たちに気候変動や温暖化による被害の悲惨さを実感させ、より大きな被害を受ける次世代や国々への責任転嫁の理不尽さを認識させたと信じる。

 エネルギーも環境も地震も、結局は、事態が深刻化する前に措置をとるという予防原則を、誰がどう適用するかという問題である。しかし、これに対して私たちは深い議論を避けてきた。いま求められているのは新しいパラダイムのもと、このような原則論的な問題について議論を重ね、それを出発点にして全ての仕組みを新たに作り直すことだ。残された私たちの責任は大きい。