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変化する北朝鮮 国交交渉にむけ通路築け

小倉 紀蔵(おぐら・きぞう)=京都大学教授(東アジア哲学)

2012年5月26日

 「文化・学術・市民交流を促進する日朝友好京都ネット」の一員として北朝鮮を訪問した。参加者の多くは学者であった。考古学、歴史学、経済学などの専門別にグループ行動をした。総勢58人という大人数が集まったのは「見たい場所、会いたい人などの要望を極力受け入れる」という北朝鮮側の姿勢のためである。実際、各グループとも貴重な現場を踏査したり、重要人物と対話したりすることができた。平壌市民と自由に会話することもできた。

 北朝鮮は明らかに変化している。門戸を開こうとしているのだ。1990年代の平壌とは異なって街は明るく、女性はおしゃれで、優雅なマンションが次々と普請中だ。ビールはこくがあってうまく、最新鋭のイタリア製絶叫マシンが人気の遊園地は、若者で賑わう。公園で遊ぶ女性の携帯電話は韓国製だった。もちろんこれは平壌という特殊な都市の光景であって、農村の貧しさは相変わらず厳しいようだ。

 意外かもしれないが、北朝鮮の人と日本人は似ている。東アジアで、きちんと列をつくって電車やバスを待てるのはこの両国の人だけである。また住民が当番を決めて家のまわりの掃除をするのも、日本と同じだ。だから平壌の街にはゴミがない。この国の人びとには、自己統制という美徳がある。その秩序感覚は、日本人にとっては心地よい部類のものだ。

 多角度から複眼的にこの国をとらえるべきである。見方によって、不気味な独裁国家にも、また自主性と誇りに満ちた国にも、あるいは将来有望な経済的パートナーにも見えるだろう。こちらから話しかけると最初は怖い表情を崩さないが、話が進むと「朝日はお互い隣国だ。よい関係をつくりましょう」と満面の笑みで手を強く握ってくる。それが平壌市民だ。

 日朝平壌宣言から今年で10年。この間、何が進展したのか。日本の経済制裁によってへこたれるような国ではない。核実験までおこなった。米国を外交的に翻弄した。そして日本が望んだものは、何ひとつ得られなかった。

 北朝鮮との国交交渉には無論、賛否両論があろう。だが拉致も核問題も、魔法使いが突然解決してくれることはありえない。まずは文化や経済などの交流によって通路を確保しつつ、未来を切り開くしか道はない。日本人は硬直せずに、大胆になる自由を持っている。国交交渉という大仕事には、保守もリベラルもひっくるめたオールジャパンで取り組むしかない。まさに日本の総合力が試されるのである。