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民主主義の危機 問題解決能力の向上を

田中 俊郎(たなか・としろう)=慶応義塾大学名誉教授(EU政治)

2012年7月28日

 オリンピックだけでなく民主主義の発祥の地でもあるギリシャで、財政危機に対応する緊縮策をめぐり、5月の総選挙で決着がつかず、6月の再選挙で与党の緊縮派がやっと勝利した。

 ただ、与党が再選されたのはギリシャだけである。2011年以降ユーロ圏で総選挙が行われたアイルランド、ポルトガル、スペイン、スロバキア、フランスで、すべて与党が敗北した。危機を防止できなかったばかりか、対応を誤り、緊縮財政策は不人気であった。しかも、緊縮財政反対派だけでなく、反欧州連合(EU)や排外主義を唱える極右も票を伸ばした。

 この間、ベルギーでは、総選挙の後540日以上も組閣できずに暫定政権が続き、イタリアやギリシャでは、政治家の首相が辞任し、実務家が首相に起用されて改革をリードしてきた。

 しかし、政治は依然として市場との闘いに翻弄されている。グローバル化が急速に進むなか、市場と民主主義、政府と市民のミスマッチが見られる。国家だけでなく、国家を超えたEUも万能薬を提供し得ていない。

 では、わが国と近隣諸国はどうなっているのであろうか。慶応義塾大グローバルCOEは7月7日、朝日新聞アジアネットワーク、中国現代国際関係研究院、韓国・東亜日報21世紀平和研究所と、シンポジウム「市民社会におけるガバナンス」を共同開催した。

 議院内閣制のわが国では、政権交代を挟みながらも、過去6年間毎年のように首相と内閣が代わり、そのたびに「決定ができない政府」が生まれてきた。逆に、消費税引き上げのような大きな決定を下そうとすると、与党そのものが内部分裂し、政党ガバナンスさえ確保できない状況が続く。

 任期が保証されている大統領制の韓国では、一連の自由貿易協定締結のように迅速な決定はできる。ソウル市長選挙に表れたように、大衆迎合的なポピュリズム政治の傾向も見られるが、世界銀行などの「グッド・ガバナンス指標」では日本を着実に追い上げている。12月には大統領選挙を迎える。

 欧米の基準では、中国は民主主義国家ではなく、市民社会も十分に発達していない。それでも、ボトムアップ型の民主と平和を説く墨子の思想の見直しも行われている。その中国でも、この秋に共産党指導部が交代する。

 民主主義は冷戦の終焉によって勝利したと言われたが、現在、世界中で多様な挑戦の前に機能不全を起こし危機的な状況にある。その問題解決能力の向上と市民の支持が求められている。